映画祭も後半戦に突入した7日目の19日(火)は、汗ばむほど暑い快晴から夕方のにわか雨、その後は薄曇りと激しく天候が変わる1日となった。 “コンペティション”部門では、カナダのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『シカリオ』とフランスのヴァレリー・ドンゼッリ監督の『マルグリット&ジュリアン』が正式上映され、“ある視点”部門には、フィリピンのブリランテ・メンドーザ監督の『タクルブ』など3作品が上映されている。“カンヌ・クラシック”部門には深作欣二監督の『仁義なき戦い』が登場。

◆仏系カナダ人のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が豪華キャストを起用した『シカリオ』でコンペ初登場!

 『プリズナーズ』『複製された男』『灼熱の魂』などで知られるカナダの異彩監督ドゥニ・ヴィルヌーヴが、エミリー・ブラント、ジョシュ・ブローリン、 ベニチオ・デル・トロ、ジョン・バーンサル、ジェフリー・ドノヴァンら豪華キャストを起用した『シカリオ』は、CIAの隠密作戦に加わり、メキシコの麻薬カルテルのボスに近づいたFBI女性囮捜査官の苦悩と葛藤を描いた緊張感あふれる硬派な作品で、タイトルはメキシコで“殺し屋”を意味する言葉なのだそうだ。

 8時30分からの上映に引き続き、11時から始まった本作の公式記者会見にはドゥニ・ヴィルヌーヴ監督とプロデューサー2人、撮影監督のロジャー・ディーキンス、出演俳優のエミリー・ブラント、ジョシュ・ブローリン、ベニチオ・デル・トロが登壇した。
 カナダ人記者から、監督週間で『COSMOS』が上映された1997年以来、コンペに至る長い道のりについて問われたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は苦笑気味だったが、本作について「僕は人間のグレイ・ゾーンを描くのが好きなんだ。僕は脚本家としてはのんびり書く遅書きの脚本家なもので、『プリズナーズ』の後ではよほど強いインパクトのある題材じゃなきゃ取り掛かる気になれなかった。それでエージェントに『何かないかな?』と聞いたら、勧めてくれたのがメキシコの麻薬組織とアメリカ政府の戦いというモチーフだった。ロジャー・ディーキンスとの仕事も魅力だったしね。ケイトは複雑人物なんだけど、エイミーはよく演じてくれたと思う」とコメント。また、手練のロジャー・ディーキンスに対する質問も多く、会見は和気あいあいと進行。タフな捜査官役でパワフルな演技とアクションを披露したエミリー・ブラント、ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリンは撮影の模様をユーモアたっぷりに披露してくれた。また、会見中、エミリー・ブラントが大声で開けっぴろげに笑う姿が印象的で、その飾らない素顔に好感度がアップした。

◆長編監督5作目『マルグリットとジュリアン』でコンペに初参戦したヴァレリー・ドンゼッリ!

 『マルタ…、マルタ』『待つ女』『ベルヴィル・トーキョー』などで知られるフランスの女優ヴァレリー・ドンゼッリ(1973年生まれ)は、自らの実体験をベースにして監督&主演した『わたしたちの宣戦布告』が2011年の“批評家週間”で絶賛された気鋭の監督でもある。5本目の長編監督作にして監督業に専念した『マルグリットとジュリアン』は、16世紀の王政時代を背景に描いた兄妹の禁断の愛の物語だ。
 ノルマンディーの領主ラヴァレ家の娘マルグリットは、兄のジュリアンと愛し合った末に、子供までも生し……。1603年12月2日、近親相姦の罪を犯した“兄妹”がパリのクレーヴ広場で絞首刑に処された実在の事件を映画化した本作は、中世時代劇ながらも自動車やラジオやヘリコプター等の現代的要素を取り込み大胆に描写した異色作で、主演は新星のアナイス・ドゥムースティエとジェレミー・エルカイム。

 夜の正式上映を前にして12時30分から行われた公式記者会見にはヴァレリー・ドンゼッリ監督とプロデューサー2人、そして主演した2人、アナイス・ドゥムースティエ(初々しくて実にフォトジェニック!)とジェレミー・エルカイムが登壇した。
 自作について「実話の映画化だけど、タッチはフェアリーテール風にしたかったの。『ロミオとジュリエット』みたいにハッピーエンドじゃない童話もあるのだから」と述べたヴァレリー・ドンゼッリ監督は、今回、なぜ自ら主演してジェレミー・エルカイム(ヴァレリー・ドンゼッリの私生活上の元パートナーで、2人の間には息子もいる)の相手役を務めなかったのかと問われるや「年齢的にもう無理でしょ!」とキッパリ応え、笑った。
(記事構成:Y. KIKKA)