第68回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2015】9
映画祭6日目の18日(月)、快晴。“コンペティション”部門では、フランスのステファヌ・ブリゼ監督の『ザ・メイジャー・オブ・ア・マン』、ノルウェーのヨアキム・トリアー監督の『ラウダー・ザン・ボム』が正式上映。招待部門ではディズニーのアニメ映画『インサイド・ヘッド』が、“ある視点”部門ではタイのアピチャッポン・ウィーラーセタクン監督の『セメタリー・オブ・スプレンダー』とメキシコ映画の『ザ・チョーズン・ワンズ』が上映され、“カンヌ・クラシック”部門には溝口健二監督の『残菊物語』が登場。また、夜には小山薫堂がプロデュースした日本のパーティ“KANPAI NIGHT”が催されている。
◆ヴァンサン・ランドンと3度目のタッグとなるステファヌ・ブリゼ監督の『ザ・メイジャー・オブ・ア・マン』!
シンプルで深みのある人間描写で知られる中堅のフランス人監督ステファヌ・ブリゼが、現在社会の歪みを題材にして、人間が人間らしく生きることの難しさをリアルに描き出した社会派ドラマ『ザ・メイジャー・オブ・ア・マン』が、朝の8時30分から上映された。
51歳のティエリーは、2年近くに渡る辛く屈辱的な失業生活から抜け出し、やっとの思いでスーパーマーケットの監視員の仕事に就くのだが…。本作はステファヌ・ブリゼ監督とは『シャボンの背中』『母の身終い』に続き、3度目の顔合わせとなるヴァンサン・ランドンが、仕事を続けるためにモラルの危機に立つ等身大の主人公を熱演した骨太作だ。
11時から行われた『ザ・メイジャー・オブ・ア・マン』の公式記者会見にはコンペ初参戦となるステファヌ・ブリゼ監督と共同脚本家、主演のヴァンサン・ランドン、そしてプロデューサーの4人が出席した。
主演のヴァンサン・ランドン以外は、素人俳優(それぞれ実際にその仕事に就いている人物!)を配役したことについて、ステファヌ・ブリゼ監督は「真実を伝えるために素人俳優を使ったんだ」と述べ、さらには「主人公の息子を障害者の設定にしたのは同情をひくためじゃない。この家族はこんな状況にあっても“幸せ”なんだよ」とコメント。一方、ヴァンサン・ランドンは本作を「労働者階級をパワフルに描いた映画」だと語った。
◆ノルウェーの気鋭監督ヨアキム・トリアーは豪華キャストを起用した『ラウダー・ザン・ボム』で初参戦!
2011年に長編2作目の『オスロ、8月31日』が“ある視点”部門で上映され、注目を集めたノルウェーの気鋭監督ヨアキム・トリアーが、英語で撮った長編3作目『ラウダー・ザン・ボム』(タイトルは監督の好きなスミッシーのアルバムに由来!)でコンペに初登場した。
著名な女性戦場カメラマン、ローラ(イザベル・ユペール)が亡くなって3年が経ち、没後3年を記念した写真展が企画される。ローラの死後、初めて顔を揃えた彼女の夫(ガブリエル・バーン)と2人の息子(結婚して独立した長男:ジェシー・アイゼンバーグ/高校生の次男:デヴィン・ドルイド)が、写真展の準備を進めていくが、やがて思いもかけない秘密が明らかになり……。共演はレイチェル・ブロズナハン、デイヴィッド・ストラザーン、エイミー・ライアンら。
夜の正式上映に先立ち、12時30分から行われた『ラウダー・ザン・ボム』の公式記者会見には、監督&脚本のヨアキム・トリアーと共同脚本家、プロデューサー、そして俳優陣のガブリエル・バーン、イザベル・ユペール、デヴィン・ドルイド、レイチェル・ブロズナハンが登壇した(抜群の演技を披露したジェシー・アイゼンバーグは残念ながら不参加)。
本作で、複数のキャラクターの内面に迫ったヒューマンストーリーを撮りたかったというヨアキム・トリアー監督は「家族のメンバーの異なる声が一つの物語を作り出すことに興味があった。子供は親を、兄弟はお互いを“鏡”にする。それによって世代にまたがる物語を描けると思ったんだ」と製作意図を明かし、教師ながら反抗期で引きこもりがちの次男に手を焼く父親を好演したガブリエル・バーンは、「ティーンエイジャーの子供の“務め”は父親の影響から抜け出すこと。それは父親にとっては受け入れるのが難しいことだけどね」とコメント。また、悲劇を描く一方で、長男のエピソードなど笑えるシーンも多いことについてヨアキム・トリアー監督は、「最悪だと思える瞬間にもユーモアはある。メランコリーとユーモアが混然とする現実の世界と同じ様にね」と語った。
◆『岸辺の旅』の取材、“KANPAI NIGHT”取材、コンペ作のプレス向け試写鑑賞をこなすべくカンヌ市内を移動!
夕方〜夜の行動:まずは、カンヌ市内にある瀟酒なホテル、レジデンタル・プレミアム・カンヌに向かい、昨日“ある視点”部門で上映された『岸辺の旅』の主演俳優、深津絵里と浅野忠信をラウンド形式で取材(16時50分〜17時20分)。
その後、大荷物を置きに宿に戻る途中の路上で、ジャ・ジャンクー監督とバッタリ遭遇。ラッキーなことにジャ・ジャンクー監督の写真撮影に成功した。
19時過ぎには日本が主催する“KANPAI NIGHT”と銘打ったパーティ取材のため、カンヌの目抜き通り“クロワゼット大通り”に面する高級ホテル、グランドホテルの中庭に設営された会場へと移動。日本の映画産業を支える東宝、松竹、KADOKAWA、ギャガ、アミューズのトップなども臨席し、日本酒や和食を振る舞ったこのパーティは招待客でごった返し、一時は入場制限をするほどの盛況ぶりであった。その後、パーティ途中で会場を抜け出し、22時から上映されるコンペ作『マルグリット&ジュリアン』のプレス向け試写会場パレ・デ・フェスティバルにダッシュで向かい、鑑賞。23時45分の終映をもって本日の活動を終了した。
(記事構成:Y. KIKKA)