第68回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2015】8
映画祭5日目の17日(日)。本日も快晴で爽やかな陽気だ。“コンペティション”部門では、フランスのマイウェン監督の『モン・ロワ』、アメリカのトッド・ヘインズ監督の『キャロル』が正式上映。そして“ある視点”部門には、我らが黒沢清監督の『岸辺の旅』が登場!
◆開幕作品を監督したエマニュエル・ベルコがヴァンサン・カッセルと夫婦役で主演した『モン・ロワ』!
1976年生まれのマイウェンは、女優として『フィフス・エレメント』『ハイテンション』などに出演後、監督業にも進出。監督&共同脚本(エマニュエル・ベルコと)&出演を兼ね、カンヌのコンペに初参戦した2011年の『パリ警視庁:未成年保護部隊』で審査員賞を獲得! 2度目のコンペ出品作となる監督専念作『モン・ロワ』は、ある夫婦の長年に渡る愛憎ドラマで、タイトルを直訳すると「私の王様」だ。
スキー場で大きな滑落事故を起こし、リハビリセンターに入所した熟年女性のトニは、夫ジョルジョとの波乱に満ちた夫婦生活を回想する。裕福な実業家のジョルジョは男前の上、ユーモアもある愛妻家で、まさに完璧な夫であった。しかし、徐々に裏の顔を見せ始めた彼は……。夫に振り回される妻役はマイウェン監督の朋友であるエマニュエル・ベルコ。極端な二面性を持つ夫をヴァンサン・カッセルが熱演した作品で、共演はルイ・ガレル、イジルド・ル・ベスコ(マイウェン監督の実の妹)ら。
朝の8時30分からの上映に続き、11時から行われた本作の公式記者会見には、監督&脚本のマイウェン、プロデューサーのアラン・アタル、共同脚本家のエティエンヌ・コマー、そして出演陣のエマニュエル・ベルコとヴァンサン・カッセル、ルイ・ガレルが登壇した。
マイウェン監督は10年間にわたるカップルの話を2時間に収めるのが非常に大変だったとコメント。好色な領主役がハマっていた『テール・オブ・テールズ』に続き本作と、女たらしのイメージが定着した感がある売れっ子俳優ヴァンサン・カッセルは苦笑気味に、「映画ではボディランゲージが重要なんだ」と述べ、2台のカメラを常に回して撮ったことの効用に言及。エマニュエル・ベルコは激しい応酬を交わす夫婦の会話の迫力について「即興は好きだけど、怖くもあるわ」と明かした。
◆パトリシア・ハイスミスの小説を映画化した『キャロル』で17年ぶりに参戦したトッド・ヘインズ監督!
1998年に『ベルベット・ゴールドマイン』で芸術貢献賞を受賞した異才監督トッド・ヘインズの17年ぶりのコンペ作『キャロル』は、『太陽がいっぱい』の原作者で同性愛者だった推理作家パトリシア・ハイスミスが、クレア・モーガン名義で発表した小説「ザ・プライス・オブ・ソルト」の映画化で、トッド・ヘインズ監督と『アイム・ノット・ゼア』以来2度目のタッグとなるケイト・ブランシェットが、ルーニー・マーラと同性愛カップルを演じた恋愛ドラマだ。
1950年代初頭のニューヨーク。よりよい暮らしを夢見るデパートの売り子テレーズが、年上の裕福な既婚女性キャロルと知り合う。急速に親密な仲になった2人は、シカゴまで2週間のドライブ旅行に出るのだが……。ダグラス・サークへのオマージュに満ちた極上のメロドラマに仕上げられた本作は、時代考証も完璧。衣装も音楽も素晴らしい傑作で、特に車の往来が激しい路上シーンには瞠目させられた。
夜の正式上映に先立ち、12時半から行われた公式記者会見にはトッド・ヘインズ監督、脚色家、プロデューサー3人、ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、そして撮影監督のエド・ラックマンが登壇した。
会見では当然のごとく、“同性愛”に関する質問が頻発したのだが、ケイト・ブランシェットが「今だに“同性愛”が違法な国が幾つもある。重大な問題よ。だからそのことに対して声を上げないといけないわ」と毅然と語った姿が印象的であった。
◆黒沢清監督、深津絵里、浅野忠信がカンヌ入りした『岸辺の旅』が“ある視点”部門で上映!
湯本香樹実の同名小説を黒沢清監督が映画化した究極のラブストーリー『岸辺の旅』が、黒沢清監督と主演した2人、深津絵里と浅野忠信が立ち会う中、21時45分からドビュッシー・ホールで公式上映された。海外でも人気が高い黒沢清作品だが、カンヌでの公式上映は、同部門で審査員賞を受賞した『トウキョウソナタ』以来、7年ぶりとなる。
3年にもおよぶ失踪の末に、突然帰ってきた夫(浅野忠信)に「俺、死んだよ」と告げられた妻(深津絵里)が、夫に誘われるままに2人で旅に出る。それは、夫が失踪中に世話になった人々のもとを訪ねる旅路であった……。そして上映後の深夜0時30分から、黒沢清監督と主演の2人が日本人報道陣向けの囲み取材に応じてくれた。
黒沢監督は観客の熱い反応について「素直に嬉しいです。5分位のスタンディングオーベーションは、まぁお約束みたいなものですが、上映後のロビーにもかなりの人達が残っていて、僕らを取り囲んでまた拍手をしてくれたんです。これは本物だな、と思いました」とコメント。また主演の2人も感無量の面持ちで、会場の温かい雰囲気に感謝した。
(記事構成:Y. KIKKA)