映画祭4日目の16日(土)も快晴なり。ただし朝晩はかなり冷え込み、温度差が大きい。“コンペティション”部門の正式上映は、イタリアのナンニ・モレッティ監督作『マイ・マザー』とアメリカのガス・ヴァン・サント監督作『ザ・シー・オブ・ツリーズ』というパルムドール受賞監督による2本が揃い踏み。特別上映作品には人気女優ナタリー・ポートマンの長編監督デビュー作『ア・テール・オブ・ラヴ・アンド・ダークネス』が登場。“ある視点”部門ではフランスのアリス・ヴィノクール監督の『ディスオーダー』など2作品が上映されている。

◆イタリアのウディ・アレンと称される名匠ナンニ・モレッティ監督は家族ドラマ『マイ・マザー』で参戦!

 1994年の『親愛なる日記』で監督賞、2001年の『息子の部屋』でパルムドールを受賞したイタリアの名匠ナンニ・モレッティ監督。2011年の『ローマ法王の休日』以来、4年ぶりのコンペ参戦作となった『マイ・マザー』は、気苦労の多い女性映画監督をヒロインに据え、親の看取りをテーマにして描いた物語だ。
 入院中の母(ジューリア・ラッツァリーニ)に死期が迫っていることを知らされた映画監督のマルガリータ(マルガリータ・ブイ)は、兄のジョヴァンニ(ナンニ・モレッティ自演!)と交代で病室に詰めながら新作を撮影している。だが、撮影現場はアメリカから招いたイタリア系の人気スター(ジョン・タトゥーロ)のエキセントリックな言動に翻弄されて混乱するばかり。さらには別居中の夫と暮らす思春期の娘(ベアトリス・マンチーニ)の問題もあり……。
 朝の8時30分からの上映を観賞後、11時から行われた本作の公式記者会見に出席。登壇者はナンニ・モレッティ監督とプロデューサー2人、共同脚本家2人、そして俳優陣のマルガリータ・ブイ、ジューリア・ラッツァリーニ、ジョン・タトゥーロ、ベアトリス・マンチーニ。質問が次々に飛び出し、まさに盛況の会見となった。

 その後、時間がぽっかり空いたので、14時から“ある視点”部門でフランス映画の『ディスオーダー』を鑑賞。本当は14時45分から“監督週間”部門で上映されるアルノー・デプレシャン監督の新作『マイ・ゴールデン・デイズ』の方に断然惹かれたのだが、上映&移動時間を照らし合わせて断念。
 『ディスオーダー』は、トラウマを抱えた元軍人(マティアス・スーナルツ)が、富豪の妻(ダイアン・クルーガー)のボディーガードを務めるサスペンス・アクションで、意外や女性監督の演出が冴えた拾い物であった。

◆自殺の名所、富士山麓の青木ヶ原が舞台となるガス・ヴァン・サント監督の『ザ・シー・オブ・ツリーズ』!

 ガス・ヴァン・サントは、2003年の『エレファント』でパルムドールと監督賞をダブル受賞し、2007年の『パラノイドパーク』で60回記念賞に輝いた現代アメリカを代表する名監督だ。マシュー・マコノヒーと渡辺謙(ブロードウェイ・ミュージカル「王様と私」に出演中のため残念ながらカンヌ入りせず)の共演で話題を集めた『ザ・シー・オブ・ツリーズ』は、日本の富士山麓の青木ヶ原を舞台した異色作で、タイトルは日本語の“樹海”をそのまま英訳している。
 最愛の妻(ナオミ・ワッツ)を失い、自らも命を絶とうした建築家アーサー(マシュー・マコノヒー)が日本へと飛び発ち、自殺の名所として知られる富士山麓の青木ヶ原を訪れる。だが、そこで日本人男性のタクミ(渡辺謙)と出会い、道連れとなることで再び生きる力を見い出したアーサーは……。日本人にとっては、ある種お馴染みの題材なのだが、欧米人には相当違和感があるらしく、昨夜のプレス向け上映では、かなりのブーイングが出た作品だ。

 16時30分から行われた『ザ・シー・オブ・ツリーズ』の公式記者会見には、ガス・ヴァン・サント監督、マシュー・マコノヒー、ナオミ・ワッツが登壇。その席で、マシューが日本に滞在したのは僅か3日間ほどで、実際には“樹海”に行っていないこと、森の中のシーンのほとんどをアメリカで撮影したことが明かされた。
 また、ブーイングの対象となったことについてマシュー・マコノヒーは、「誰にでもブーイングをする権利はあるさ。スタンディング・オベーションをすることと同様にね」とサバサバとコメント。さらに「撮影中、理解し難い部分があったのは確かさ。だけど、完成した映画を僕はとても気に入っているし、こうしてカンヌにやってこれて、幸せだよ」と言い添えた。
 一方のガス・ヴァン・サント監督は、パルムドールを受賞した『エレファント』の上映時のことを思い出したそうで、「今日と明日で評判が変わることはよくわることだ。『エレファント』の時も賛否両論が激しかったよ」と意に返さずに笑った。

◆才媛ナタリー・ポートマンの長編監督デビュー作は、イスラエルを舞台に全編ヘブライ語で綴った意欲作!

 18時30分からはブニュエル・ホールで上映された『ア・テール・オブ・ラヴ・アンド・ダークネス』を鑑賞。イスラエルの作家アモス・オズの同名自伝を全編ヘブライ語で映画化した本作は、英国委任統治領パレスチナ末期からイスラエル建国初期という激動の時代を背景に、オズの少年時代を描いた作品で、監督のみならず主人公の母親役も兼任したナタリー・ポートマンが自身の出自(同国で生まれ、3歳まで過ごした)に拘って撮った意欲作だ。そして、上映前の舞台挨拶で、頬を紅潮させながら自作を真摯に紹介するナタリー・ポートマンの可憐な姿がとても印象的であった。
 その後、21時30分から行われたコンペ作『キャロル』(正式上映は明日)のプレス向け上映を鑑賞。以上をもって本日の活動は終了!
(記事構成:Y. KIKKA)