本日14日(木)は、日本人ジャーナリストに取って、多忙を極めた1日であった。コンペ部門に選出された是枝裕和監督の『海街diary』と、“ある視点”部門の開幕作品に選ばれた河瀬直美監督の『あん』の正式上映日が重なったがゆえなのだが、取材スケジュール調整に四苦八苦。あちらを取れば、こちらが立たずで、まさにテンテコ舞い状況となった。

◆主演女優4人・綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずが現地入りした是枝裕和監督の『海街diary』

 2001年の『DISTANCE』、2004年の『誰も知らない』(柳楽優弥がカン史上最年少で男優賞を受賞)、2013年の『そして父になる』(審査員賞受賞)に続き、4度目のコンペ参戦(2009年の『空気人形』は“ある視点”部門での上映)となった是枝裕和監督の『海街diary』は、吉田秋生の同名コミックを実写映画化した女系家族ドラマだ。
 鎌倉で共に暮らす三姉妹が15年前に家族を捨てた父の訃報を聞き、葬儀が行われる山形へと向かう。そこで腹違いの妹と初めて会った3人は、彼女に鎌倉で一緒に暮らさないかと持ち掛け……。四姉妹それぞれの生き方を、美しい四季と周囲の人々の人間模様を絡めて繊細に描写した作品で、出演は綾瀬はるか(長女)、長澤まさみ(次女)、夏帆(三女)、広瀬すず(四女)、大竹しのぶ(母親)、樹木希林(大叔母)、堤真一、加瀬亮らだ。

 16時からの正式上映(プレス向け試写は13日に2回上映済み)を前に、14時15分から行われた『海街diary』の公式記者会見には、是枝裕和監督と四姉妹役の綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずが登壇した。
 「映画を作る者にとって“カンヌ”は特別な場所ですが、そこに続けて呼んでもらえ、それだけで光栄です」と謙遜した是枝裕和監督だが、「ただ、来るのが当たり前だという感覚になってしまったら怖いです。今回、とにかく嬉しいのは4人を連れて来られたこと。『連れて行く』と言った手前、実行できて良かったです」とコメント。
 小津安二郎監督の作品と比較されることについては、「海外の批評やインタビューではよく『是枝は小津の孫だ』と言われてこそばゆく感じてきました。今回は原作の世界観も、人間を超えた時間の積み重ねについて描きたいという気持ちも、小津さんの作品に近いものがあるなと思いつつ撮影していました」と語った。
 また、女優たち4人はカンヌ入りした感想および原作についての思いなどを口々に語った。

◆“ある視点”部門のオープニングを飾った河瀬直美監督の珠玉の人間ドラマ『あん』
 
 1997年の『萌の朱雀(もえのすざく)』でカメラドール(新人監督賞)に史上最年少で輝き、2007年の『殯(もがり)森』はコンペ部門のグランプリを獲得。2009年には監督週間の“金の馬車賞”を受賞し、2011年の『朱花(はねづ)の月』と2013年の『2つ目の窓』がコンペに出品され、昨年はコンペ部門の審査員メンバーを務めた河瀬直美監督は、まさにカンヌの申し子的存在といえるだろう。そして今年、ドリアン助川の同名小説を映画化した最新作『あん』が“ある視点”部門の開幕作品となった。
 本作は、小さなどら焼き屋を舞台に、人生を見失っていた雇われ店長(永瀬正敏)や、常連客の中学生(内田伽羅)らが、粒あん作りの名人である元ハンセン病患者の徳江(樹木希林)との出会いと交流によって、再生していく姿を描いた人間ドラマだ。
 本作の正式上映に先駆け、15時30分より行われた記者会見には、河瀬監督と出演俳優の樹木希林、永瀬正敏、内田伽羅(モックンの娘にして樹木希林の孫)、そして原作者のドリアン助川が出席した。

 そして現地時間の19時15分からは、映画祭ディレクターのティエリー・フレモーの司会により、“ある視点”部門のオープニング・セレモニーがドビュッシー・ホールで行われ、それに引き続き、河瀬直美監督、樹木希林、永瀬正敏、内田伽羅、原作者のドリアン助川らが立ち会う中で『あん』が上映された。
 上映後の熱いスタンディング・オベージョンの興奮がさめやまぬ中、日本メディア向けの囲み取材がセッティングされ、『海街diary』にも出演している樹木希林は「あんなに大勢の前に姿を晒してしまい、恥ずかしい。まるでガマが油汗をかいた気分です」と照れ、永瀬正敏は「映画は海を越えると思いました。泣くのを必死に堪えてました」とコメント。内田伽羅は「あんなに感動してもらえて嬉しい。女優をもう少し続けてみたいと思いました」と述べ、河瀬監督は「ドリアンさんの原作は大手の出版社に断られ続けて、ようやく出せた本。この本も、ハンセン病患者の方たちも、世間に見捨てられていたけれど、それがこうして受け止められたことに、感激しています」と語った。
(記事構成:Y. KIKKA)