2人の孤独な女性が自分の居場所を獲得するまでの物語。映画『螺旋銀河』草野なつか監督、シネ・リーブル梅田にて関西公開初日舞台挨拶
10/31(土)シネ・リーブル梅田にて、草野なつか監督『螺旋銀河』が、東京のユーロスペース、名古屋シネマテークでの劇場公開を経て関西公開初日を迎えた。作品のお披露目となった2014年の大阪アジアン映画祭以来の大阪上映となったこの夜。上映前の挨拶に立った草野監督は、
「1年半ぶりに大阪に戻って来られたで嬉しく思っています。特別な一本になれたらいいなと思っております」と語った。
『螺旋銀河』はシネアスト・オーガニゼーション大阪(CO2)の助成作品。(※CO2:全国から劇映画の企画を募集、制作の助成金提供や制作協力によって映画制作者の人材発掘を行って来た)
初の長編作品となる草野監督が脚本も手がけ、共同脚本として『不気味なものの肌に触れる』(監督:濱口竜介)の高橋知由さんが参加。
ドイツの第14回ニッポン・コネクション ニッポン・ビジョン審査委員賞受賞、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2014では監督賞とSKIPシティアワードのW受賞に輝いた。
自分と他者の距離や関係をどう保ち、築いていくか。SNS全盛時代、誰もがより敏感になっている永遠の課題がスクリーン上で展開する。
派手で我儘な綾と地味で目立たない幸子。同じ会社にいながら交わることがなかった2人だったが、友達のいない綾が幸子をラジオドラマ脚本の形ばかりの共同執筆者に仕立て上げる。自分のいいなりになる都合のいい存在だったはずの幸子が次第に主張を始めることに苛立つ綾。自分の軌道を保っていた星が、他の星と衝突することで軌道を変えていくかのようにその関係もゆっくりと変容していく。
『螺旋銀河』はロケーションの魅力も特筆に価する。深夜に佇むポップな内装のコインランドリーの美しさが記憶に残る。このコインランドリーは中崎町にあるCO2の事務局の近くに実在する。
ロケの多くは関西で行われており、幸子と綾が務める会社は江坂の化粧品会社、綾が激しい言葉を幸子にぶつける海浜公園はコスモスクエア、思わぬ再会があったカフェは京都、ラジオドラマを録音するラジオブースはラジオ関西、駅のシーンは京阪電車のなにわ橋駅で撮影された。
夜の駅の遠景は東京の総武線で撮影され、ファンタジックな姿を残している。
上映後に再び登壇した草野監督は、観客の質問に答えていった。
「2人の強烈な感情は監督の内面が反映されているんでしょうか?」という質問に対して、自分が反映されているのか、モデルはいるのかといった質問を良く受けるが、そこまで反映はされてないと語った。
「創作物なので人物も創作の人物で、私の部分もあればもしかしたら近くの友人の部分でもあったり。こういう人もいるだろうなと、特定の人ではないという思いを持ちながら描き上げていきましたね」
また、凄く怖い映画だなと感じたという意見も。
「互いのことを知るというだけでこれだけ傷つけ合って痛みを伴うことがあるんだなと。人と人が分かり合うのは大変だと思いました。柔らかく描こうと意識した点はありますか?」
関係を描くに当たって柔らかく表現しようとは考えなかったという草野監督だが、悲しい、楽しいといったひとつの感情だけではなく、幅がある感情表現を意識した。
「この話もやはりストレートに描くと、ホラーに近づいていくというか。どんどん暗くなっていくので、笑えたり、どこかあっけらかんとしたところは描き出したいと意識してやりました」
『螺旋銀河』では演出、シナリオ、撮影も手がけた草野監督。シナリオがどれくらいで完成したのかという質問が挙がった。
草野監督がCO2で助成監督として選出されたのが2013年9月。撮影は12月と決まっていたためその間にシナリオを仕上げることが必須だった。初期の構想から10月くらいまでストーリーが固まらず悩んだという。
「共同脚本の高橋知由くんに入ってもらって。私が結構感覚の人間というか、しっちゃかめっちゃかなところがあるので(笑)。意見をもらったり、やりたい事を凄く整理してくれました」
シナリオが上がったのが11月頃。12月に撮影に入り、2014年の大阪アジアン映画祭で初上映となった。CO2の助成作品として決定してから約半年の闘いだった。
人物の感情を表す背景描写が印象に残ったと感想を述べた観客からは、
「部屋のシーンやコインランドリーなど、人がガラスや鏡に写っているシーンが多いのは意識したんでしょうか?」と質問が挙がった。鏡は偶然現場にあったものを見て生かすことになったという。一番意識したのはコインランドリーの撮影だった。
「コインランドリーから外を見るガラスのショットは意識的に撮ったショットで、ここは別の世界なんだよという“外との隔たり”を表現したかったんです」
作品のタイトルについてラジオドラマのタイトルではなく、敢えて『螺旋銀河』にした狙いについて質問が挙がった。
当初はラジオドラマのタイトルそのままの『アントニム』という仮題だったという。しかし撮影をしていくにつれ、何を焦点にするのか、意識が変わって来たと語る。
「対になる2人の関係性というよりも、交わる部分や、対であるようでいて抱えている問題が同じようなものだったり。交わりそうで交わらない2人の関係の方がお話にとって重要なんじゃないかなと」
そんな2人の関係とコインランドリーで回るドラムのイメージを重ね、“螺旋”、夜の映画だということを深く感じてもらうために“銀河”とした。
そして、
「あのコインランドリーはまさに幸子にとって初めて獲得した自分の場所なんです。大きな宇宙の空間の中の宇宙船みたいだな、そう私は解釈したんです。そういった意味も含めて『螺旋銀河』というタイトルにしました」
観客から質問の手がどんどん上がった。結局10人程がマイクを手にしてくださり、観た後に話したくなる作品という印象を深くした。
『螺旋銀河』は、シネ・リーブル梅田では11/13(金)まで。
立誠シネマプロジェクトでは11/28(土)〜12/18(金)、元町映画館では11/28(土)〜12/11(金)の上映予定となっている。
(Report:デューイ松田)