南米チリを代表するドキュメンタリー作家パトリシオ・グスマン監督が、宇宙や大自然を捉えた圧倒的な映像美とともに、祖国チリが辿ってきた苦難の歴史を描く、国内外の映画祭で受賞をした『光のノスタルジア』が10/10(土)より岩波ホールで公開いたします。

公開に先駆け「アルマ望遠鏡」が捉えた“死にゆく星の音”を、さまざまなアーティストが楽曲化するプロジェクトに参加している音楽家の蓮沼執太さんと、本作へコメントを寄せている音楽・批評家の大谷能生さんが登壇しトークイベントを開催いたしました。

◆概要◆

●日時:2015年10月1日(木)
●場所:渋谷アップリンク
●ゲスト:蓮沼執太(音楽家)、大谷能生(音楽・批評)

 南米チリを代表する巨匠パトリシオ・グスマン監督が壮大な宇宙と人間の歴史を圧倒的映像美で捉えたドキュメンタリー映画『光のノスタルジア』のトークイベントが1日、都内・アップリンクで行われ、本作に感銘を受けたという音楽家の蓮沼執太氏と音楽・批評家の大谷能生氏が登壇。壮大な宇宙映像がひしめく中で、ビー玉を使ったメタファー的映像に心惹かれた二人は、「本質を見る目」に気付かされたと改めて作品の奥深さに感心していた。

 本作は、宇宙や大自然を捉えた圧倒的な映像美とともに、祖国チリが辿ってきた苦難の歴史を描く衝撃のドキュメンタリー。連作となる『真珠のボタン』と共に、2011 年山形国際ドキュメンタリー映画祭最優秀作品賞ほか、国内外の映画祭で高い評価を獲得している。舞台は、南米チリ・アタカマ砂漠。天文観測拠点として世界中の学者が集まるその一方で、独裁政権下で愛する者を失った遺族たちが、砂漠を歩き遺骨を探し続ける姿が交錯する。

 公開を控えた本作と時期を同じくして、「星」にゆかりのあるアルバムを発表した蓮沼氏。「チリにある『アルマ望遠鏡』が捉えた70の電磁データをオルゴール音に変換し、それ基にいろんなアーティストが楽曲化するというプロジェクトに参加しました。『Music for a Dying Star』というタイトルで、死にゆく星の音がコンセプト」と説明。「オルゴールの音にしたところが情緒的で人間的なプロジェクトだと思いましたね。だから、本作も星をテーマにしたロマンチックな映画なんだろうなと思い込んでいました」と振り返る。

 ところが、映画は圧倒的な宇宙映像と共に衝撃的な展開を見せる。予備知識なしで鑑賞した蓮沼氏は、「天文学的なことと、政治的なことが相対的に描かれていることを全く知らなくて。星の話から一変して、チリの歴史の話が連続する。見上げれば星空のアタカマ砂漠で大虐殺があり、ここに人が埋められているって何なんだ!という思いをダイレクトに受け取りました。この対比はとても勉強になりましたね」としみじみ。大谷氏も、「天文&ロマンだけじゃないんだということですよね。見終わってから、こういう風に撮るべき映画だって思いましたね。これしか考えられないメタファーの在り方」と納得していた。

 とくに、映画の最後に登場するバレンティナ・ロドリゲス氏の言葉に感銘を受けたという蓮沼氏は、「独裁政権下、両親が行方不明となり、祖父母に育てられたロドリゲスさんは天文学の道へ進むのですが、まさに映画の内容とクロスする方ですよね。その方が『意識のポジショニングでガラリと世界が変わる』ということを語っていましたが、そこに気付くことは素晴らしいこと」と強調。「音楽もサウンドの一つの波形なので、その波形をどう見るか、によって変わってくる。人間が作ってきた過去の音楽を物差しとして捉え、未来の音楽はどうなるのか、そういうことを考えてみる行為はとても意義がある」と目を輝かせる。これについて大谷氏も、「それによって次の世代が生まれ、次のサイクル、波、リズムが生まれて来るんだよね」と同調していた。

 また、本作の映像表現にも興味を持った大谷氏は、「面白いなと思ったのは、星のアップの映像を見ると、とても近いじゃないですか。でも、実際は遠い。これはロングショットなのか、クローズアップなのか、わからない。そういうのがいっぱい出てくる」と首をひねる。すると蓮沼氏は、「グスマン監督がビー玉を撮っていましたが、あれはメタファーですよね。全くビー玉に見えなかったけど」と述懐。

 これに対して大谷氏は、「メタファーなんだけど、接写で撮ると遠くの星と変わらないんですよね。引くとわかるけれど、クローズアップで見ているときは、『本質』を見ていないんだなって気付かされた。とくにカメラで撮った場合は」と分析。最後は、「同じフレームに入ってきて、他の物と比較して、初めて尺とか質感がわかる。物事は相対的なんだなってことがこの映画を見ていてわかり、ドキっとした。よく考えて撮っている作品」と本作を絶賛した。

映画『光のノスタルジア』『真珠のボタン』は10月10日より岩波ホールほか全国順次公開