ロバート・アルトマン生誕90周年を記念して、10月3日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAにて、映画『ロバート・アルトマン/ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』を公開致します。公開に先駆けて、映画評論家・町山智浩さんによるトークイベントが開催されました!

今回のトークイベントは「アルトマン講座」と題され、町山ならではのアルトマン作品の見方と解説、それらが及ぼした影響を分析するという内容。会場では熱心な参加者との質疑応答も含めて、大いに盛り上がりを見せた。

今でこそ巨匠と呼ばれるアルトマンだが、ハリウッドにおいては真にハズレ者だった。彼がハズレ者である理由として、町山がまず挙げたアルトマンの特徴その1、<主人公が分からない!>。「『ナッシュビル』『ショート・カッツ』『ザ・プレイヤー』にしても大量の登場人物がでてきて、主役がはっきりとしていない」。その2<プロットが分からない!>。「基本的な物語の目的がよくわからない。そんな映画、どう考えても商売にならないですよね(笑)。たとえば『ゴスフォード・パーク』は、イギリスの階級社会を描いた映画で、殺人事件が起こってその犯人を探すという大筋はあるんですが2時間以上ある本編で、事件が起こるのは1時間半くらい過ぎてから。それまでは貴族たちのパーティーとかが延々と描かれるだけ。なにを見ているのか分からなくなるんです」。その3、アルトマンは<5本に1本くらいしか面白い映画を撮らない(意図的に)!そんなに安々と観客を喜ばせるほどバカじゃない!>。「才能のあるなしでなく、 “おまえらの期待しているものは映さないよ”という監督だった。さながら客を試す寿司職人のように。みんなからエライ、カッコイイと思われている事の幻想を叩き潰して、真実を暴き出す意地悪さがある」。そして最後は<リアリティの人>。言い直し、アドリブもそのまま採用する。台詞をオーバーラップさせることで現実に近づける。これはアルトマンが開発したやり方で、それに伴い録音システムも開発したという。撮影開始前に時代考証も徹底しておこなっていた。

ちなみに、町山が初めて見たアルトマン映画は、有楽町スバル座で見たという『ロング・グッドバイ』。「劇場はガラガラでした。アルトマンの映画というのは『ザ・プレイヤー』までお客さんが入っている印象はなかったですね」。ただ幼少期、アルトマンが演出したテレビドラマ「コンバット」が当時、土曜の夕方に放映されていて、「僕らの世代は実はアルトマンによって育てられたところがある」と語った。

アルトマンの影響は現在も多くの映画のなかに見て取ることができる。例えば、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『マグノリア』はアルトマンの『ショート・カッツ』から、伊丹十三監督の『お葬式』は『ウェディング』からの影響が色濃く見られる。さらに故・松田優作の名を挙げて、「世界で一番強く影響がでているといえば、松田優作さん。松田さん自身が脚本に手を加え、主演・監督もした『ア・ホーマンス』という映画で、ポール牧さんがすごく恐いヤクザの親分をやっているんですね。ご存命中に松田さんにインタビューしたら、“あれは『ロング・グッドバイ』だ”と。軽い感じのヤクザの親分が出てきて、いきなり自分のガールフレンドをコーラかなんかの瓶でぐしゃっと刺すシーンがあって、完全に頭のどうかしてるヤクザの親分からヒントを得たんだとおっしゃっていました」。同様に、松田さんが企画したテレビシリーズ「探偵物語」にも影響が見られるという。

意地悪でひねくれ者、権威に対して反逆的であるアルトマンだが、10月3日より公開となるドキュメンタリーの内容にも触れ、「映画製作ではトラブルも多かったアルトマンだが、実は家庭ではすごくいい人だったという一面や、ギャンブラー好きで、実際に勝負強くて、映画の製作費も競馬で稼いだことがあったなど、意外なアルトマンの素顔も見られる」とアピールした。

これからアルトマン作品を観ようという人たちに向けて、町山推薦の「外さないおすすめ5作品」は下記の通り。「アルトマンとブライアン・デ・パルマは、傑作とハズレ作品を繰り返しながら見ているうちに、だんだん愛が深まっていくタイプ」とのことなので、未見の方々は手始めに下記5作品からアルトマン作品に入門してみるのがいいだろう。