マルジャン・サトラピ監督(『ペルセポリス』『チキンとプラム 〜あるバイオリン弾き、最後の夢〜』)の最新作『ハッピーボイス・キラー』が9月19日より公開となりました。

初日の夜に公開記念オールナイト(『ハッピーボイス・キラー』『スーパー!』『ゾンビランド』三本立て)の幕開けイベントとして、高橋ヨシキさん(アートディレクター・映画ライター)と山崎圭司さん(映画ライター)によるトークをおこないました。

ポップでハッピーな映像と、邪悪で不気味な世界観が混ぜこぜになった、独特な魅力を放つ本作をコアな角度から考察しつつ、大いに語っていただきました!

山崎圭司:もともとの脚本は、ハリウッドの“ブラックリスト”っていう、いわゆる面白いんだけど、誰に向けた映画なのか分からなかったり、映像化するのに困る要素が多い映画なんかに付けられる称号を受けていたやつですね。

高橋ヨシキ:最初に情報を何も入れず見ていて、しばらくして「これ、ひょっとしてスゴイ変な映画なんじゃないか・・・」っていう。ほかのどの映画にも似ていない、ヘンな映画になっていますよね。マルジャン・サトラピ監督はイランで生まれて、パリで長く暮らしている女性監督で、『ペルセポリス』がイランを題材にした作品だったからその印象強いですけど、かなりグローバルな人ですよね。その彼女が、アメリカに呼ばれて映画を撮ることになって、さてどうしてやろうか、というのはいろいろ考えたと思います。

山崎:当初サトラピ監督は、この脚本を渡されたときに、「人殺しの男が出てくる映画を私がどうやって撮ったらいいのか分からない」と脚本を投げてふて寝したらしいんですけど、一晩寝て起きたら、逆に、これは大きなチャレンジになるのではないかと思って、オファーを引き受けたそうです。

高橋:受けてくれてよかったよね。この映画は、たとえば『マニアック』(フランク・カルフン監督/2012年)や『バーニング』(トニー・メイラム監督/1981年)につながる、ある種の”気の毒なひと”についての物語ですよね。やり方によっては、悲劇的な映画になりそうなところを、全くそうする気がない。ライアン・レイノルズはハマり役。芝居がうまい。絶妙です。

山崎:天性のものもありそうですね。ダンスもいいですよね。

高橋:ダンスシーン、お楽しみのところです。原題は「THE VOICES」で、やっぱりこの映画は「声」が関係あるんですけど、いわゆる統合失調症の幻聴の話なんですよね。自分に見えている世界と他人から見えている世界は別ですから、監督はそれなりに突っ放して描いていますけれど、感覚としてそういうことをちゃんと分かって描いている感じがします。全体的にヘンなセンスで、かわいいですよね。美術とかも含めて。

山崎:心に残る映画ですよね。僕は反芻して感動しました。

高橋:世の中の鬱屈している人にお薦めします!

(9月19日(土)シネマート新宿にて)