9月12日(土)より、大ヒット上映中の映画『黒衣の刺客』。公開初日から、全回満席になるなど好調なスタートをきりました。
さらに、2016年のアカデミー賞外国語映画賞の台湾代表に選出されることが決定!注目度は高く、連日多くのお客様にご来場いただけております。

唐代の中国を舞台に、数奇な運命に翻弄される女刺客を描いた本作は、ホウ・シャオシェン監督初の武侠映画。伝奇小説「聶隱娘」が着想の原点になっており、絶景の中で繰り広げられる斬新なアクションシーンとフィルムで魅せる極限の映像美に作家、映画監督、女優、評論家が次々に夢中になっています。
今回、『黒衣の刺客』の大ヒットを記念して、「文學界」10月号にて来日したホウ・シャオシェン監督と対談された芥川賞作家の町田康さんに映画の魅力を語っていただくスペシャルトークショーを実施いたしました!

トーク内容
<映画の感想>
町田さん:「唐時代の人の生活、思想、感情は『黒衣の刺客』のようなフィクションや歴史的な資料を通じてしかわからない。
僕らは、こうして饒舌に話していますが、人と話して何かが通じたり、通じなかったり。主人公の黒衣の刺客の女性が言葉をほとんど話さないところがすごく良かった。僕らは言葉を話すことによって問題が解決した気になっていて、本来自分の中で受け入れるべきものを言葉という形で外に出すことによって、人間の生きる本質から外れたようなことをやっている部分も少しあるのではないか。
だから、主人公が言葉を話さないで自分の孤独とか与えられた運命を引き受けているところが、ものすごく美しく感じられた。
戦っているシーンなど、ずっとこのまま観ていたいなという感じをいだきました。」

町田さん:「ハローキティっているじゃないですか。絶大な人気を誇る理由は何だと思いますか?よく見ると分かりますが、ハローキティって口がないんですよ、口があったら全然可愛くないんですよ(笑)。言葉を持っていないっていうのは、いじらしいっていうか、美しい感じがするんですよね。この映画の中にたくさん自然が出てきますが、自然も話さない。湖があり、林があり、雲が流れ、木が揺れたり、言葉ではないものが描かれている。映画によっては、言論で解決しよう、理性や論理で解決しようとか意思みたいなものが溢れている。
小説もそうかもしれない、だからそこから脱却しようとして色々とやっているのかもしれませんが、『黒衣の刺客』の言葉がないところに魅力を感じています。」

<ホウ監督との対談で印象的だったことについて>
町田さん:「すごい巨匠だが独善的なところはなく、フレンドリーでした。ホウ監督がおっしゃっていたことで一番印象的だったのは、自分がこの映画で一番重視したのは、役を演じている人が演技ではなく、本当に役の人物となって、その役の感情と演じる人の感情がビタっと一致する瞬間で、その瞬間だけを繋いだら、こういう映画になったと。妻夫木聡さん演じる鏡磨きの青年の役も映画の中で説明はないが、遣唐使で何らかの理由で日本に帰れない、しかも来た時の船には空海も一緒に乗っていたと、台本にはあるらしいです。おそらく説明的な部分は削られたのではないでしょうか。」

<『黒衣の刺客』の楽しみ方について>
町田さん:「観客としてのイマジネーションで映画の中の人間関係を自分の頭の中で作り変えてみるのもありかなと思っています。
僕の仮説Aでは、あるシーンで突然、白樺林で主人公インニャンと別の女刺客との戦いが始まりますよね、あれ不自然じゃないですか。
あれ何でここで会うの?事前にLINEでもしてたの?ってくらいに(笑)。この刺客はインニャンを送り込んだ道士が標的をなかなか殺せずにいるインニャンを見張らせるために送りこんだ兄弟弟子なのではないか、仮説Bはこのインニャンと戦う刺客は仮面をつけて顔がわからないので、実は道士本人なのではないかと。そういう風に観客としてのイマジネーションを働かせて観ることもできる映画。」
と独自の解釈に会場からは笑い声が。

町田「僕は映画を観るときに、その映画が自分が生きていることに対して、どのようにかかわってくるのか考えます。インターネットを通じて誰かと話したり、話したふりをして社会と繋がっているようなことをしているけど、すべての人間関係は醜悪だし、その醜悪から断ち切られた人間が、果たしてどのように孤独に耐えているのか考えた時に、自分にとってこの映画は意味がある映画でした。」

自分なりのイマジネーションで何度でも楽しめる映画!と絶賛の内容の濃いトークイベントとなった。

[町田康さん コメント]
与えられた運命を静かに受け入れ黙して自らを語らぬ黒衣の人の美しさにやられた。
私は彼女をずっとみていたかった。