伝説の漫画雑誌「ガロ」に連載され、日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した、天才漫画家・杉浦日向子の傑作を実写映画化した『合葬』。幕末、将軍の警護の為結成された「彰義隊」を舞台に、時代に翻弄される若者たちの青春を描く、全く新しい時代劇として海外からも熱い注目を集め、第39回モントリオール世界映画祭の「ワールド・コンペティション部門」に正式出品が決定しました。

現地時間9月3日(木)(※日本時間4日(金))、カナダ・モントリオールにて、記者会見とプレミア上映会が行われ、主演の瀬戸康史と小林達夫監督が参加致しました。

公式記者会見
(9月3日(木)14:00〜14:45※現地時間/会場:Hyatt Regency Montreal )

午前中のプレス向け試写会の後、「Hyatt Regency Montreal/ハイアットリージェンシー・モントリオール」の「Salon St-Ambroise/サン・アンブローズの間」で行われた公式記者会見には、日本文化に興味を持つ世界各国の報道陣が集まりました。記者会見には小林達夫監督、主演の瀬戸康史が出席し、本作に対する思い、モントリオール世界映画祭に出品されることの喜びなどについて語ると同時に、世界各国の記者からの質問に答えました。

Q:小林監督は、あの偉大な小林正樹監督とご親戚なのでしょうか?

監督:いいえ、親戚ではありません(笑)。小林は日本で5番目くらいに多い苗字です。(会場:笑)
ただし、今回の映画を作るときに、小林監督の「HARAKIRI(邦題:切腹)」は参考にさせて頂きました。
小林正樹監督の「切腹」は、英語タイトルですと「HARAKIRI」ですが、日本語の音をそのままタイトルにして、世界に知られている作品です。これを参考にして「合葬」の英語タイトルも同じように、「GASSOH」にしました。

Q:この映画には3人の若い侍がでてきますが、現代の若者に通ずるものがあるのでしょうか?

瀬戸:柳楽優弥さんが演じた極(きわむ)という人物は、皆が思う‘THE SAMURAI’で、自分の仕えている人の為、自分の志の為に真直ぐに生きている人物。一方、僕が演じた柾之助(まさのすけ)は、現代人に一番近い考えを持っている人物かと思います。自分の居場所を探しながら、日々迷い、悩み・・・そういうところが今を生きている僕らとの共通点だと思います。

Q.第二次世界大戦後、伝統的な日本の文化や価値観は変わってしまったのか?
現代的であり日本の伝統手法に根差した手法である漫画を映画化した意図は?

監督:漫画は日本の様々な文化を折衷して生まれたメディアであるとは思う。しかし、今回ことさら漫画だから映画化したという感覚はなく、ほかの原作を映画化した時と意識は違わない。第二次世界大戦後に日本文化が変容したように、今回「合葬」で描いた上野戦争でも、江戸時代から続いた文化が変容し、そこから日本の近代化が始まっている。そんな江戸時代が変わったというストーリーを、いみじくも文化の変容の中で日本人が手に入れた漫画というメディアがうまく表現し、それが今回の映画につながっているのかもしれないと今のご質問をきいて思いました。

Q.時代劇を今回のテーマに選んだ理由

監督:日本映画の数々の時代劇の名作、なかでも溝口健二や黒沢明監督の作品は、自分が映画を志す上で大変影響を受けました。しかし今回、時代劇が好きだという個人的なこだわりでこのストーリーを選んだわけではない。今回描いた、若者たちが知らない間に戦争に巻き込まれるという構図はどの国でもどの時代にも共通するテーマ。現代劇でこのテーマを描くと作家の主義主張やマニフェストとして作品がとらえられがちだが、時代劇で描くことによって世の中に何かを問うというよりも、寓話的、象徴的に見て頂けるのではと思いました。

Q:本作に参加されて如何でしたでしょうか?

瀬戸:今まで色々な時代劇に参加しましたが、映画での時代劇は初めてでした。「合葬」は日本人から観ても、新しい時代劇作品が出来たなと感じています。一方で昔からある、武士・サムライの精神が、今を生きる僕たちに伝わる作品だとも思います。

Q:原作の漫画ビジュアルに映画はどのように影響を受けているか?

監督:「合葬」の原作の絵柄は、江戸時代の浮世絵を踏襲したようなビジュアルになっている。原作漫画家・杉浦日向子さんは、日本では江戸研究家としても著名な方です。多くの漫画が記号的になっているにもかかわらず、杉浦さんの漫画は詩情、ポエトリーを感じる淡々とした語り口で、非常に映画的なモチーフであると思っています。「合葬」は杉浦さんの最初期の作品で史実に基づいている。後期作品には「百物語」という怪談話の短編集があり、それも取り入れたいと思い、映画の中でいくつか怪談話という形で短いエピソードを挿入させて頂きました。

Q:劇中、突然英語のポップソングが流れますが、なぜ挿入したのですか?

監督:今までやったことない事、新しい事を考えて作るのが、自分のセオリーです。原作者である杉浦日向子さんの世代、それ以降の僕たちの世代は、アメリカ文化や映画に非常に影響を受けて創作をしている。遊郭の朝帰りという若者たちの青春の1ページを象徴するようなシーンで、アメリカの青春映画のような、70年代風ポップソングを入れる事で、そのシーンを他とは独立させて見せたいという意図もありました。
瀬戸さんが演じた柾之助は、家を追い出され、戦争に巻き込まれ、過酷な運命を背負っている人物。そんな大変な人生の中でも、何気ない日常を覚えていたりするのではないかと思う。なので、映画を見た人にもあのシーンが強く刺さるようになれば良いと思っています。