イタリア犯罪史上最も国際的な注目を浴びた、実際の事件「ペルージャ英国人女子留学生殺害事件(アマンダ・ノックス事件)」を、イギリスの名匠マイケル・ウィンターボトム監督が映画化した『天使が消えた街』(配給:ブロードメディア・スタジオ)を9月5日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国順次公開する運びとなりました。

本作の公開に先立ち、8月24日(月)に映画監督の松江哲明さんと、映画評論家の柳下毅一郎さんをお招きし、トークショーを実施いたしました。本作は、主人公が映画監督、実際にあった殺人事件を映画化した作品で、松江さんには映画監督ならではの視点、柳下さんには専門家ならではの視点で本作の見所を含め、映画を徹底解説してもらいました。

松江哲明と柳下毅一郎が『天使が消えた街』を徹底解説!

「マイケル・ウィンターボトム監督はイギリスの大林宣彦だ。」

8月24日(月)に映画監督の松江哲明と映画評論家の柳下毅一郎が『天使が消えた街』の公開記念イベントに登壇した。イタリア犯罪史上最も国際的な注目を浴びた、実際の事件「ペルージャ英国人女子留学生殺害事件(アマンダ・ノックス事件)」を、イギリスの名匠マイケル・ウィンターボトム監督が映画化した作品。
アマンダ・ノックス事件とは、2007年11月2日、イタリアのペルージャで、メレディス・カーチャーというイギリス人留学生の他殺体が発見された事件のこと。容疑者として、まもなく警察に逮捕されたのは、ルームメイトのアメリカ人留学生アマンダ・ノックス。しかし事件は“一件落着”するどころか、捜査関係者さえも予想のつかない展開を見せていく。殺人容疑者アマンダが若く美しい女性だったため、地元イタリアのみならず米英のメディアの報道合戦が過熱化。セックスやドラッグが絡んだ事件の背景が誇張して伝えられ、アマンダや被害者のプライベートの情報がネット上に拡散するなど、事件の本質とはかけ離れたさまざまな問題が噴出し事件。

日本では、欧米と比べ大きく報道されなかったこの事件について詳しい柳下は「この事件は、2015年3月まで有罪/無罪を繰り返していた。容疑者のアマンダもルームメイトが殺されたというのに、イタリア人から見るとあまりショックを感じていないように見えていた。事情聴取を受けている時に、側転をしたり体操をしていた、という話があった。美人なアメリカ人で、バーで働いていて、麻薬を常習していたこともあり、イタリア・メディアの印象が非常に悪く、有ること無いこと報道された。」と事件の特性を解説。

ウィンターボトム監督は、これまで『ひかりのまち』(99)、『CODE46』(03)、『キラー・インサイド・ミー』(10)、『イタリアは呼んでいる』など、ドラマ、SF、ノワール、紀行映画とジャンルにとらわれない多種多様な作品を発表し続けているイギリスの名匠だか、柳下は、「2003年の『24アワー・パーティ・ピープル』は僕のその年の年間ベスト1。キャリアもあるのに“巨匠然”としていないことがいい。ウィンターボトムはいい意味で腰が軽い。とりわけ、これまで手掛けてきた作品は、社会的関心のあるものが多いと思う。重々しい社会的なテーマのものではなく、風俗的なものが多いかもしれない。」と監督の特徴を話すと、松江も「マイケル・ウィンターボトムは、“巨匠然”としているケン・ローチとは違う。大林宣彦監督みたいに、キャリアを破壊してまで自分の撮りたい映画を撮っているような気がするんだけど、そこには、積み重ねてきたものがないと撮れないものがある」とウィンターボトム監督の卓越した才能を称えた。

また、自身も映画監督である松江は「すごい誠実な映画だと思った。僕は必ずしも事件を再現した映画、物語以上のものをつかもうとしている映画。ウィンターボトムはハンディカムや35㎜など機材によって撮る作品が変わってくる監督。この映画では虚構を織り交ぜながら、“映画”を作るまでの映画を作っている。映画のテーマと手法がリンクしている監督で僕ともそこが似ている」と映画の感想と共に、自分との共通点について語った。

マイケル・ウィンターボトム監督は、本作を「被害者に捧げる」としていて、加害者ばかりに焦点があたり、被害者が忘れ去れていたことに着目して映画を撮っており、松江も「被害者の心情に重きを置いて映画を撮っている。」と分析。柳下も「この映画は、ウィンターボトムの倫理性を感じられる。実際の事件を映画化した作品は、どうしてもその事件の真相を追う展開の推理ごっこに陥りがちだが、何の罪もない人間が殺されたんだってことは忘れてはいけないと思う。」と語った。