MC:ありがとうございます。では、マスコミの方からもご質問を頂ければと思います。

【質問①】
堤監督に質問なのですが、東日本大震災から4年が経ち、今も原発の問題がある中で、特に、今の高校生に伝えたいことは何ですか?

堤監督:この映画の中でも背景として原子力発電所と言うのは、良い面もあり悪い面もあり。
そこから目をそむけてはいけないのだということを申し上げたいつもりではおります。
是非、学習した知識と足と目と耳と、口も鼻も。使えるものは全部使って。友達も、親も、先生も。
分で納得のいくまで、いろんなことを調べて自分なりの、自分だけの結論を出す。そういうことがいろんなことに対して必要なんだと思います。かくいう私は高校生のとき色々サボって…
何も動かなかったクチではありますけど(笑)。大人になったから言えることでありますが、そうやって一つずつ、自分が疑問だと思ったことは逃げず、向き合っていくことが大事なんじゃないでしょうか。

【質問②】
江口さんに質問なんですけれど、今回の作品で子どもを命がけで守る父親の役を演じられていましたが、湯原さんの心情について共感する部分はありましたか?

江口:僕も実際子どもがいるんですけれど、映画が始まって7分くらいで子どもがヘリに乗り合わせて人質になってしまう。そして日本全国民が人質、という大事件が起きるんですけど、実際自分の子どもがどうだったかというよりは役の中で、“今子どもが空中にいる!”という感覚をリアルに自分の中に呼び起こして…
俺はそこで立っていられるのか、こんなに冷静に台詞を言っていいのか、という葛藤がすごくありました。その中で、時間と戦っていく芝居をやりながら、いろんなこと考えました。
自分が二十いくつかの頃に阪神大震災が起こり、福島の震災もあり、自然の怖さという自分の日常には無い怖さがあるんだなと。家族が出来れば、子どもが出来れば、余計そういうものに敏感に反応して。何かできないかと思う気持ちが強まってくるんです。
今回、こういう役を演じることによって、監督も言ってましたが、何か自分が成し遂げなければならないことから逃げてはいけない、目をそむけてはいけない、立ち向かわなきゃいけない。それにはやっぱり根性がいるなと。これは根性の映画なんですね。
日本一諦めない男を演じましたけど。そういった役を感じながら“何も言わなくても子どもは見てるんだ”という、そういう大人になるべきなんだろうな、と自分でも思いました。

【質問③】
本木さんに伺いたいんですが、江口さんと共演されるのは初めてでしたよね。
撮影を終えてみて、ご感想いただければと思います。

本木:実年齢は私の方がいくつか上なんですけれど、同じ80年代に青春を過ごし、90年代を中心に活動してきたという親近感。そして共に結婚して家族を持っているという状況もあり、非常に役に近いというものもあります。そして、今回湯原と三島というのはある意味、陰と陽。基本的には仕事に没頭して家庭をないがしろにしてきたという。
親子間のコミュニケーションを取り足りなかったという後悔を抱えているという男。
基本的に、江口さんは普段も非常に情熱を沢山湛えているという方で。私の方はどちらかと言うと内向きにウジウジといく部分がありますので(笑)。ある意味そのコントラストが映画の役割にも有効だったんじゃないかと思っております。
だから我ながらいい組み合わせだったんじゃないかと思っております。

MC:いい組み合わせだったという本木さんのお言葉をうけて、江口さんはいかがですか?

江口:この組み合わせ以上のものはないでしょう、というくらいです!
やってて本当に刺激されるんですね。映画の中でも台本を読んでても、三島が言っている台詞が、東野さんの書いた台詞が、非常に奥行きがあるんです。僕はどちらかというと体を張ってこの大事件と向き合うんですが、ここを本木さんが本当に見事に台詞でバッと言ってくれるので、本当にやりやすく、立ち向かえましたね。

【質問④】
本木さんが演じられた役についてなんですけれども、どのように解釈して演じられたのでしょうか。また監督さんとしましては物語の展開として、どこに重点を置かれ、描写に時間をかけられたのでしょうか?

本木:私はそもそも脚本と共に東野さんの原作を読んだ時に、映画の中でも出てきますが、一種の“見えない仮面”を着けた沈黙する群衆というフレーズが、自分もその一人だと。
世の中で大変な事件が予想外に、それに自分は距離を置いて、やりすごしてきたタイプだったので、非常にその言葉が突き刺さりまして…そういった自分への戒めも込めて、今回の作品に参加したというのもあります。
三島役については、勿論自分が抱えた親子の関係の中で、息子とのコミュニケーションが取れなかったために息子を悲しい境遇にさせてしまったという後悔がある。
そのことへの懺悔から、結果的には諸悪の根源はどこにあるのかということを考え始めるんです。そこで沈黙する群衆にたどり着く。だから、決して誰か1人に責任を押し付けるということではないんです。最終的に三島なりの賭け、それが息子への懺悔、自分への戒め、そして未来への教訓、願いというものを込めていたと思うんですね。
だから、三島というキャラクターは自覚的に狂人になった、つまり至極まっとうな人だと思うんです。それを行動に移せるというのは、なかなかできない素晴らしい行動、といいますか…最終的にはきっちりとした願いのある、願いを持った人物だと解釈して演じるようにしていました。

堤監督:東野さんのお書きになった内容は科学的に非常に緻密である洞察力と、警鐘を発していますよね。それは原発に対することでありますが。そういう現実の問題。
それを我々は3.11を通じて更にリアルに感じました。感じているどころではなく大問題なわけです。日本に今生きている現実を象徴するようなことがこの映画の中の素材としてはあります。そんなことを沢山の役者さんたちが本当に文字通り全身全霊で、このお2人をトップランナーとして演じていただいたこと。そして、現実にはない巨大な飛行物体を作るというVFX。更にリチャード・プリンさんというロンドンのものすごい音楽作家にハリウッド並みの音楽をつけていただいたこととか…
色々なことに関する語るべきことが、この作品には沢山あります。僕は個人的には親子のことが一番、演技演出的には一番訴えたい強い要素の一つはありますが、皆さんにお見せしたい色々な要素、考えていただきた色々な要素を、2時間強の時間にまとめ、そして娯楽作品として皆さんにお届けするということが私の一番の仕事だと感じ、今回20年連れ添ったチームと共に仕上げたこと、そこが一番大事なことです。
“娯楽作品”ということなんです。

 以上