この度、弊社配給の第67回カンヌ国際映画祭パルム・ドール大賞受賞作品『雪の轍(わだち)』の公開を記念し、本作で満を持して初の日本劇場公開となった巨匠、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督を特集した映画祭のオープニングイベントが行われました。

(イベント実施概要】
■イベント名:「トルコ映画の巨匠ヌリ・ビルゲ・ジェイラン映画祭2015」オープニングイベント
■日時:7月8日(水)
■会場:草月ホール (港区赤坂7-2-21 地下)
■トークゲスト:石坂健治氏(日本映画大学教授/東京国際映画祭アジア部門プログラミングディレクター)
      市山尚三氏(東京フィルメックスプログラムディレクター)
      矢田部吉彦氏(東京国際映画祭プログラミングディレクター)

今回のイベントは、カンヌ国際映画祭ですでに2度のグランプリを含む5つの主要賞を受賞し、今作で最高賞であるパルム・ドール大賞を射止め、世界中の映画人からも注目される存在であり、21世紀を代表する監督の一人として認める彼の作品の日本初公開を記念して、9月末に開催される「トルコ映画の巨匠 ヌリ・ビルゲ・ジェイラン映画祭2015」のオープニングイベントです。
登壇者は海外映画祭等でジェイラン作品にいち早く触れ、日本国内での上映の機会を設けてきた方々です。
まず、当時東京国際映画祭のアジア秀作映画週間の作品選定を担当し、ジェイラン監督の作品を日本に初めて紹介した市山尚三氏は、「98年のベルリン国際映画祭で「カサバー町」を観て、この作品は、自然主義的な部分と、かっちりとした固い部分が同居した作品で、他の作家とは明らかに違う!と思いましたね。ついに来たな、と思いました。」と、ジェイラン作品との衝撃の出会いのと日本初上映の裏話を披露すると、東京国際映画祭のアジア部門のプログラミングディレクターを務めている石坂氏は、ジェイラン監督に続くように、各国の映画祭で活躍する監督たち(セミフ・カプランオール(『蜂蜜』ベルリン国際映画祭金獅子賞受賞)、イェシム・ウスタオウル(『遥かなるクルディスタン』ベルリン国際映画祭ベストヨーロピアンフィルム賞&平和賞)、レイス・チェリッキ(『沈黙の夜』ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門最優秀賞))を紹介。さらに、昨年までの20年間で国内製作数が9倍ほどになるなど、トルコ映画自体の盛り上がりも紹介した。
そして、東京国際映画祭のプログラミングディレクターを務める矢田部氏は、「ジェイラン監督が出現して以降、トルコ国内では芸術至上主義の若者たちが増えているようですし、アート系映画がトルコ国内できちんと興収を上げ、評価を受けているという話も届いています」とヌリ・ビルゲ・ジェイランが与えたトルコ映画界への影響とアート映画の実情を紹介。

さらに、日本の劇場では公開されていないジェイラン作品で、一番のお気に入りは何かという話題に、矢田部氏が「私はジェイラン作品の中で「スリー・モンキーズ」が一番好きで、曇天が特徴的な作品なのですが、おもしろいことにそれ以降のトルコ映画も曇天の作品が多いように思うんです。」と分析。最新作の『雪の轍(わだち)』に関しては、「今回はベルイマン的だと思いますね。絵もカッチリと固まっていますし。(市山氏)」と語ると、「閉じ込められた中での狂気という意味で僕は『シャイニング』的だと思いました (石坂氏)」と意外な切り口で紹介。さらに、「3時間16分と聞くと、長いように感じますが、まったく長くは感じなくて、もう終わりか、と思いますからぜひ観てほしいですね(市山氏)」と話題の長尺に関しても言及しました。
9月に行われる映画祭について、「彼の作品には私小説的な部分もあるし、作品のふり幅が広いので作家として一言で言い表すのは難しい監督ですが、今回の映画祭で一挙に見たら分かるかもしれないので、楽しみにしている(市山氏)」と紹介し、巨匠の作品に一挙に触れられる貴重な機会に期待が高まる内容となりました。
また、今回映画祭での上映作品も正式に決定いたしました。

=主なトーク内容=

●ジェイラン作品が日本に初めて紹介された裏側
市山氏、「98年のベルリン国際映画祭で「カサバー町」を観ました。実はトルコは元々映画大国で、娯楽作品が多くつくられています。作風は大作の模倣があったり、ヨーロッパ志向がみられたりと、他の中東地域より洗練された作品が多くて、実はあまり90年代のトルコ映画は新鮮味がありませんでした。当時はトルコよりも、アッバス・キアロスタミを代表とするイラン、イラクなどの作品が台頭していました。そんな中で、観た「カサバー町」はある意味、アジア的なものを感じた、といえるのかもしれません。この作品は、自然主義的な部分と、かっちりとした固い部分が同居した作品で、他の作家とは明らかに違う!と思いましたね。ついに来たな、と思いました。」

●ジェイラン作品が生まれた背景と影響
石坂氏「ジェイラン監督の作品は常にカンヌ国際映画祭に注目されている。日本だったら、河瀬直美監督や是枝裕和監督ですね。そんな中で、カンヌ国際映画祭で常連のジェイランというのはひとつのブームになって、追随者が増えたんです。セミフ・カプランオール(『蜂蜜』ベルリン国際映画祭金獅子賞受賞)、イェシム・ウスタオウル(『遥かなるクルディスタン』ベルリン国際映画祭ベストヨーロピアンフィルム賞&平和賞)、レイス・チェリッキ(『沈黙の夜』ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門最優秀賞)なども活躍し、2000年代になってからトルコ映画は国際映画祭でも多く上映されるようになりました。そして、トルコ映画自体も2004年から2014年の10年だけで9倍に製作数が増えています。東京国際映画祭も私がやり始めた2007年からだけで25作品上映されています。」
矢田部氏「ジェイラン監督が出現して以降、トルコ国内では芸術至上主義の若者たちが増えているようですし、アート系映画がトルコ国内できちんと興収を上げ、評価を受けているという話も届いています」

●ジェイラン作品の特長について
石坂氏「ジェイラン作品は曇天が多いなという印象ですね」
矢田部氏「そうなんですよ、私はジェイラン映画の中で「スリー・モンキーズ」が一番好きなのですが、あれも曇天でしたし、ほぼ全部と言っていいほど、空は曇っていますね。おもしろいことにそれ以降のトルコ映画も曇天の作品が多いように思うんです。」
市山氏「私は「カサバ—町」が一番好きですね。ジェイランの持つ、自然主義的な部分一番表現されている。デビュー作から「カサバ—町」まではブレッソン的だと思います。彼の作品には私小説的な部分もあるし、作品のふり幅が広いので作家として一言で言い表すのは難しい監督ですが、今回の映画祭で一挙に見たら分かるかもしれませんので、楽しみにしているんです」
石坂氏「一方で、夫婦の問題、諍いというとベルイマン的という指摘もありますね」
市山氏「今回の『雪の轍(わだち)』は特にベルイマン的ですね。絵もカッチリと固まっていますし。」
石坂氏「僕は『シャイニング』的だとおもいました。閉じ込められた中での狂気という意味で(笑)」

●ジェイラン作品の意外な背景
市山「トルコで軍政が敷かれる前には娯楽作品、とくにポルノ映画ブームというのがあったそうなんです。その後80年代に軍政が敷かれる。そんなことを背景にジェイラン作品が生まれる素地が作られる、というのも面白いですよね。彼は絶対にそんなものは観ない、というでしょうけど(笑)。」

「ヌリ・ビルゲ・ジェイラン映画祭2015」
日程:9月29日(火)−10月3日(土)
会場:アテネ・フランセ文化センター(御茶ノ水)
上映作品:『カサバー町』(1997)、『冬の街』(2002)、『うつろいの季節(とき)』(2006)
  『スリー・モンキーズ』(2008)、『昔々、アナトリアで』(2011)