10月24日の公開を前にジュリエット・ビノシュ主演、クリスティン・スチュワート、クロエ・グレース・モレッツら豪華女優たちの競演が早くも話題となっている『アクトレス〜女たちの舞台〜』が、開催中のフランス映画祭で上映されました。前売り券はソールドアウトの大人気で、日曜日(6月28日)の朝早くからの上映にもかかわらず、女性を中心とした観客が詰めかけました。いま最も旬な女優たちの魅力を余すところなく描き、見事なまでのアンサンブルに仕上げたアサイヤス監督の演出力が光る傑作なだけに、会場には是枝裕和監督や青山真治監督の姿も見られ、会場ロビーでは完成したばかりのチラシも飛ぶようにはけ、日本での期待値の高さがうかがわれました。

映画上映後には、オリヴィエ・アサイヤス監督自身が登壇しましたが、「私の作品の日本での初上映をとても名誉に感じています。いままでも私の作品は多くの日本の観客に愛してもらえましたし、日本には昔から友達もたくさんいますので、自分の映画が封切られるときには、なるべく日本に来ようと努力してきました。」と語るアサイヤス監督は、日本で自作『デーモンラヴァー』の撮影をしたこともあるほど関係は深く、そんな監督に応えるように、Q&Aでは満場の観客席からは多くの挙手がありました。そんな会場との質疑応答の一部を抜粋して紹介します。

Q:『カルロス』、『5月の後に』を撮影した後に女性映画を作ったいきさつを教えて下さい

アサイヤス監督:『カルロス』、『5月の後に』はそれぞれ違った形ではありますが、ともに70年代を描くものでした。『カルロス』は集団的な歴史を語り、『5月の後に』は私的で詩的=ポエティックな視点を投げかけた作品でした。私には、その後に新しいものを作りたいという必然と感情がありましたが、同時に先の2本で自分が言いたいことを語り終えたという感情もありました。ジュリエット・ビノシュとは、昔からの知り合いで、ずっと一緒に何かがしたいと話していましたが、実現するまでにこれだけの時間がかかったということです。

Q:ジュリエット・ビノシュと一緒にこの映画を書いたという解釈をしてよいですか?

アサイヤス監督:それは全く違います。彼女と一緒に脚本を書いたという気持ちはもっていません。でもこの映画のためにジュリエットの勧誘は必然でした。ある時ジュリエットが、私たち二人の関係を反映するような映画をそろそろ作ってはどうかと言ってきました。私たちは昔から知り合いでしたが、私も彼女のフィルモグラフィーと自分のフィルモグラフィーにジュリエット主演の1本が欠けていると思いました。私たちの人生にしみ込んだ時間、過ぎた時間…時間についての映画が作れるのではないかと思い、ジュリエットには、「できるかどうかは分からないけど、脚本を書いてみる」と言いました。その途中に何度か彼女には会いましたが、映画の内容については全く話をしなかったので、ジュリエットはどういう映画になるか脚本が出来上がってから知ったのです。

Q:クリステン・スチュワート起用の過程を教えて下さい。

アサイヤス監督: クリステンは確かに『トワイライト』の成功とメディアによって有名になりましたが、彼女はユニークな存在感のある稀有な女優だと思っていました。ショーン・ペン監督の『イントゥ・ザ・ワイルド』
の時から端役でしたが存在感を示していました。彼女はとてもカメラ映りが良いアメリカ映画の女優としては稀有な存在です。ハリウッドの大作に出ている彼女にとって、ヨーロッパのインディペンデント映画はリスクかもしれません。その代わり、私は彼女にはこれまでの映画では与えられたなったものを与えてあげられると思いました。人工的に作り出された役柄ではなく、彼女自身のインプロビゼーションができる十分な時間を与えてあげました。それは人工的に作り出した登場人物とは違うものです。今回の私の演出によって彼女のキャリアのある一時期に発見があり、自分が想像しているよりももっと長く女優としてのキャリアを伸ばしていけるのではないかと思いました。ジュリエット・ビノシュとクリステン・スチュワートの関係がうまくいくことがこの作品にとって重要なポイントでしたから、準備の段階では不安になり、私は危険を冒しているのではないか? という気がしてきました。もしも、ジュリエットとクリステンの気が合わずに二人の間に緊張が漂ったら良い映画にはならなくなると心配しました。ところが実際には全くそんなことはなく、脚本を書いた時と違うものになったのは彼女たち自身の演技と力動性のおかげです。クリステンにとってジュリエットは、自由と精神のバランスを保ち続けてきた女優であり、そのメカニズムとビノシュのキャリアの道程を学びたいと思っていたようです。かたやジュリエットがクリステンの中に見たものは、若いけど映画に対する情熱があることです。お互いに刺激しあい、いい意味での競争心がありました。私はそんな二人を観察し、二人の関係が進展するのをドキュメンタリーのように撮影しただけです。

時間の関係で終了しなければならなかった監督に対して、会場から惜しむような大きな拍手が起こり、それは延々と続きました。いつまでも鳴り止まぬ拍手にアサイヤス監督は感無量。去りがたい様子で、舞台を後にしました。映画作監と映画を愛する観客との幸福な出会いが実現した映画祭でした。

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