5 月 30 日(土)の公開から連日、満席・立ち見の劇場が相次ぐなどその評判は広がり続け、公開から 14 日間で 2 億円を突破し、16 日間で 20 万人動員(有料入場者数)興行収入 2 億 4 千万円に達するなど、公開規模 100 館以下の映画としては超ハイペースな広がりをみせている『あん』。女性客を中心に大ヒットしている『あん』だが、生きていく意味を見出していく千太郎(永瀬正敏)の気持ちになって男性にも本作を観てほしいと願う河瀬直美監督自らが 3 夜連続『あん』大ヒット御礼トークイベントを企画、その第 3 夜がシネスイッチ銀座にて開催された。

3 夜連続『あん』大ヒット御礼トークイベント
■日程:6 月 16 日(火) 18:35〜
■場所:シネスイッチ銀座<シネスイッチ 1>:中央区銀座4-4-5 旗ビル 地下 2 階
■登壇者:レスリー・キー(44)、河瀬直美監督(46) *敬称略

第 1 夜は俳優としてだけでなく監督としても活躍する、斎藤工が登場。「河瀬さんの作品は毎回“1 番好き”が更新される。」と語る斎藤は、『あん』の演出方法について河瀬監督を質問攻めにしていた。つづく第 2 夜のゲストは、いまや国際派俳優として世界で活躍する浅野忠信。監督や現場の雰囲気、さらにはアピール力など、日本と海外の違いについて河瀬監督とディスカッションを交わした。イベント終盤には浅野と親交の深い永瀬正敏が駆けつけるサプライズもあり、大盛り上がりとなった。

そして最終日である第 3 夜には、これまで数多くのトップアーティストを撮影してきた写真家のレスリー・キーが登場。レスリーが映画を観終えたばかりの観客に「皆さん感動しました?」と呼びかけると、会場から大拍手が贈られた。河瀬監督とは長年の付き合いがあり、今年のカンヌ国際映画祭では海外からの称賛を浴びる河瀬監督や樹木希林らを写真に収めていた。ステージ上にはレスリーがカンヌで撮影した写真のパネルが飾られており、河瀬監督はパネルを指さしながら「こんな風にカンヌでも大騒ぎした。
そんなレスリーとのトークは楽しみ。」と、満面の笑みで対談がスタートした。河瀬監督は「この映画は徳江さんが最後にこの世界に残したメッセージ、それに尽きる。「何かになれなくていい」というと、夢とか希望を持った方がいいんじゃないと思うかもしれないけれど、そういうことを言っているんじゃない。「何かになれなくても私たちが見る世界はこんなにもすばらしいんだよ」ということ。」と、本作に込めた想いを言葉にした。レスリーと河瀬監督の出会いは 7 年前、河瀬がカンヌでグランプリを取った年に出会っている。2 人は同じビジュアルアーツを卒業しており、河瀬はレスリーの先輩にあたる。レスリーは在学中、色々な人から「河瀬直美というすごい人がいる」と噂を聞いており、自分の企画に河瀬へ声を掛けたそう。そんなレスリーは本作を観て、「あんなに映画を観て泣いて、あんなに自分のことを考えたのは久々。なぜなら私も自分の生きる意味を常に探しているから。」と語り、河瀬監督にメールで「感動しましたよ。」と送ったことを明かした。『あん』はシニア層の鑑賞者が多いが、イベント会場には若い人たちが多く詰めかけ、2 人の後輩であるビジュアルアーツの学生や、モデルたちの姿も見受けられた。そんな観客に合せトークの話題がアートに移ると、レスリーは「河瀬さんの作品作りに対しての本気さが伝わった。」と賞賛。河瀬監督も、ヨウジヤマモトがクリエーターを目指す人へ向けた“この服を作るために命を捨てられるか?”というメッセージを紹介し、「自分の命と引き換えに、それほどの情熱をかたむけて作っていますかということ。」とアートへの姿勢について熱弁。さらにはレスリーから LINE で「ナオミのためなら死ねる」と言われたことを明かした。レスリーは「本当にそうだよ。幸せじゃない?誰かの為に死ねる、それくらいの思いで生きていたら生きる意味があると思う。」と真剣な眼差しで語った。河瀬監督も「(ヨウジヤマモトやレスリーのように)命をかけれるかということが、薄くなっていると思う。ヨウジヤマモトさんの時代はそれくらい向き合っていた人が多かったと思う。私自身もそれくらい向き合っている。それほどのものに出会っている人は幸せ。」映画に対する想いを語った。また 2 年前、カンヌ国際映画祭で審査員を務めた際にスピルバーグが「いつもハングリーでいる」と富と名声と掴んだスピルバーグでさえ、常に何かを求める気持ちを大切にしているエピソードを紹介し、これにはレスリーも共感した。
3 夜連続のトークイベントに登壇した河瀬監督は「今、あらゆるものを表現できる。でもいくら技術が進歩しても、私たちの心が普段何に感動して豊かなものになりえるかが大事。」と感情的に語った。レスリーも「大切な人 3 人にこの映画を進めてください!」とメッセージを送り、イベントは無事終了した。

『あん』は現在全国 80 スクリーンで公開、最終的に 5 億円興行を目指している。なお、世界ではすでに 28 地域、30 か国以上での販売が完了している。