「超高齢化社会の予兆」ともいえるドキュメンタリー映画『抱擁』(第27回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門正式出品)が、6月13日(土)から大阪シネ・ヌーヴォで公開されるのを前に12日(金)、坂口香津美監督が大阪市立青少年センターにて記者会見を行った。東京では渋谷のシアター・イメージフォーラムで公開されるや女性層を中心に共感と感動の声が寄せられ、7週間のロングラン上映を記録した話題作の関西初上映となる。

『抱擁』は当時78歳で認知症と診断された母親に坂口監督が4年間カメラを向けたドキュメンタリー。「私を撃ち殺して!」と叫ぶ母の鬼気迫る場面から映画は始まる。長女と夫を亡くし、老いの孤独と絶望、精神の混乱に陥った女性が、郷里の島の暮らしの中で再び生きる希望を取り戻すまでを描く感動の記録だ。初夏のある日、母の笑顔とともにふいに訪れるラストシーンは鮮烈で胸に迫る。

これまで家族や若者を主なテーマに200本以上のTVドキュメンタリーを制作、映画では、ひきこもり、少年犯罪、性犯罪被害者、長崎の被爆高齢者など、逆境に生きる人々の姿を独自の視点と映像美で表現してきた坂口香津美監督。9月には、大震災の後の世界を生き抜く幼い姉妹を描くサイレント映画『シロナガスクジラに捧げるバレエ』(音楽 海野幹雄・新垣隆)が渋谷のユーロスペースにて公開される。本作『抱擁』は5作目となる劇場公開作品で、「老いて混乱する母から目を背けず、心のなかでエールを込めて描いた」と語る力作だ。

そして今、注目を集めているのが、坂口監督が母親を撮影した4年間を通じて学んだという「老後を幸せに生きる10か条」だ。この10か条を記したパンフレットは映画を観終わった観客に飛ぶように売れているという。

「映画の撮影を始めてから6年、お母さんが一番変わったところは?」との記者の質問に、「笑顔を見せるようになったことですね。母の笑顔は苦しみ、苦しみ抜いてきた末につかみとったものだと思います」と坂口監督。
「本作を通じて伝えたいこと」については、「どんなに苦しくてもあきらめてはいけない。あきらめなければ人生、必ず開ける道はあるのだということです」。
また、「タイトルの『抱擁』にこめた思い」を問われ、「介護される方だけが抱きしめられているのではなく、実は介護する方も実は抱きしめられている。介護する方も介護される方も、お互いに抱きしめられていると感じるとき、人生の新たな発見があるのだと思います」と実感をこめて語った。

『抱擁』は昨年秋の第27回東京国際映画祭での上映、そして4月に行われた日本外国特派員協会での試写会・記者会見でも大きな反響を呼び話題に。今月ドイツのフランクフルトで開催された世界最大の日本映画祭「ニッポンコネクション」でもニッポンビジョン部門のオープニングフィルムとして正式上映された。SNS上に様々な反響が寄せられ、ドイツの観客はインスタグラムに「老いと愛する人の喪失についての美しく強烈な映画。世界で共通する普遍的なテーマの素晴らしい作品なので、映画祭での上映だけでなく世界中で劇場公開するべきだ」と記した。

【映画「抱擁」】
公式ホームページ  http://www.houyomovie.com/
Facebook  https://www.facebook.com/walkingwithmymother
Twitter https://twitter.com/HouyoMovie

(公開情報)
●大阪 シネ・ヌーヴォ(九条)
6月13日(土)−7月10日(金) 

●鹿児島ガーデンズシネマ
7月18日(土)−7月24日(金)

●名古屋シネマテーク
7月25日(土)−7月31日(金)

以降、全国順次公開