実在する天才アスリートの衝撃的実話を映画化した『レーサー/光と影』(原題:LA PETITE REINE)の6月3日(水)のDVD発売を記念し、アテネ五輪日本代表選手の元プロロード選手の田代恭崇さんをお迎えし、スペシャルトークショー付き試写会を開催しました。普段は話せないドーピング問題が深刻化するロードレース界の実情について語って頂きました。

【日時】  5月29日(金) 
【会場】  シアター・イメージフォーラム
【ゲスト】  田代恭崇 氏(元プロロード選手)

田代:ガリガリ君みたいな体格なんですけど。(笑)数年前に自転車の選手をしていまして、映画『レーサー/光と影』みたいに、ヨーロッパの大会で6年間くらい参加をしておりました。もう引退して、今は自転車のツアーの会社をしております。映画『レーサー/光と影』を観ましたが、すごく苦しかったです。ドーピング絡みの映画なので、自分が選手の時のことをすごく思い出しました。スポンサーのことですとか、チームメイトの中での駆け引きとかですね、とにかく苦しかったです。

MC:ロードレースは、スポンサーとかのプレッシャーなどがあるとのことですが、例えば実際にどんなところがプレッシャーに感じたりしましたか?

田代:やはりスポンサーがあってのチームの活動なので、勝たなければいけないというプレッシャーとかですね。もちろん家族のプレッシャーもありますしね。色んな形でありましたね。

MC:そうですよね。ロードレースは、観客の方がお金を払って試合を見るわけではないので、スポンサーが一番大事というところも、やはりプレッシャーとして大きかったんでしょうか?

田代:プレッシャーをすごく感じました。

MC:主人公のモデルは、シドニー五輪代表だった、カナダ人のジュヌビエーブ・ジーンソンという選手ですが、彼女は実際どんな選手でしたかご存知でしたら教えてください。

田代:選手として、フレーシュ・ワロンヌというベルギーの非常に有名なクラシックレースで優勝したり、ジュニアの世界戦のタイムトライアルとか、ロードレースのチャンピオンだったってこともあって、非常に強い選手でした。まぁ、ドーピングをやっていたんですけど、そこで地位と、名誉を手に入れていたということになりますね。

MC:本作はそんな彼女が、薬物付けになり、ドーピングをして疑惑の目を向けられるといった“ドーピング問題”がテーマでもありまして、実際に時代が時代だったとは思いますが、ヨーロッパでは特にドーピングが切り離せない問題かと思うのですが。

田代:自転車競技自体がやはり1日長時間、何日も走るということで、スポーツの中でも最も過酷な競技のひとつと言われるくらい厳しいレースなので、ドーピングも横行していた時代が、かなり長い時代ありました。ただ、今の現状でいうと、非常に少なってきた、クリーンになったと思います。ドーピング検査の内容自体も、精度がより厳しくなったりですとか、この映画の時代ですと、試合だけでしか検査はありませんでした。今は競技外検査というのが多くなってきましたので、選手がドーピングに手を染めにくい環境になってきています。後は、プロツアーチームというところが加盟している倫理会みたいなものがあるのですが、そういうのも含めて、チームが選手を管理する、ロードレース業界の中で、選手を守るということで、今は非常にクリーンな状態にはなってきていると思います。ただ、無くなってはいません。やはり検査する側とドーピングする側のいたちごっこという現状は、今後も変わらないのではないかと思います。ですが、非常に少なくなりました。

MC:選手の能力をアップするだけのドーピングだけでなく、普段の生活においても選手は制限されると伺ったのですが。

田代:選手は一般の風邪薬を飲めないのをみなさん知っていますか?一般の風邪薬は全部ドーピングの禁止薬が入っています。なので、選手は風邪を引いたり、ケガをした時には薬はとれません。専属のドクターに相談しながら、禁止薬物が入ってないものを処方してもらって使うとかですね、そうゆうことをしないといけないので、非常に大変です。後は、先ほど言った競技外検査が実施されています。それはですね、大概朝一で検査官が自宅にきます。自宅に来て、1時間以内に(おしっこが)出ないと罰則となり、3回連続で会わなかったりするとドーピングをしていたと見なされる場合があります。なので、自分の居場所を常に報告しておかなきゃいけない。選手としては当たり前の義務なんですが、非常にストレスがかかる、選手にはそういった大変な側面もあるということを知っていただけると嬉しいです。

MC:田代さんはヨーロッパでも活躍されて、アテネオリンピック代表としても出場されていましたが、その時のドーピング検査とロードレーサーとして走られていたときの検査の違いなどあったのでしょうか?

田代:オリンピックもヨーロッパのロードレースも基本的には一緒です。競技中の検査がメインでしたので、大会で上位に入賞すると必ず尿検査をします。ゴール地点で喜ぶのも束の間、ドーピング検査官が必ずずっと僕の横にいます。(苦笑)表彰式が終わって、そのまま検査室に連れて行かれて、おしっこがでるまで解放されません。ゴールするとだいたい脱水症状気味なので、大量の水を飲んでおしっこが出るまで、3時間いたこともありました。そんな中でおしっこをするんですけど、必ず出る瞬間を検査官に見てもらいます。出る瞬間を見てもらわないと、終わりません。

MC:それは、その検査官が、本人が(おしっこを)出している瞬間を確認するということですよね?

田代:そうですね、それがすごく大事なことなので。

MC:やはり検査する側も大変ですが、選手もなかなか大変だと思いますけども。

田代:やはりトップ選手になってきますと、受ける回数もものすごいですし、今は血液検査も受けなければいけないので、何回注射を打たれて血液を抜かれたか、選手はわからないんじゃないかと思います。

MC:ドーピング問題に関して、先ほども「なくならない」とおっしゃっていましたが、最近のヨーロッパのレースとかでドーピングは存在すると思われますか?

田代:ゼロにはなっていないのは現状だとは思います。

MC:日本のレースだとそんなことはないかと思うのですが、ヨーロッパだと、やっぱりドーピングに手を出す選手が多いのですかね?

田代:うーん、一概には言えないと思うですけどね。(苦笑)

MC:自転車映画ということで、レースシーンに関してはいかがでしたでしょうか?

田代:すごくリアルでした。どうやって撮影したんだろうと感心して見ていました。後で聞いたのですが、実際の女子のワールドカップの大会で撮影をしていました。見ていて気づいたのですが、注目してほしいのが、女子の日本チャンピオンが出てきます。なので、よく見て探してみてください!

MC:最後に『レーサー/光と影』の見どころをお願いします。

田代:まぁドーピングというところが大きくなってしまうのですが、実際見ると、人間模様をものすごく捉えた映画だと思います。主人公の心の乱れとか、どうにもならない気持ちを、みなさん主人公になったつもりで見てもらうと、苦しさと悲しみが両方味わえるんじゃないかなと思います。

映画 『レーサー/光と影』 
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