この度、本日5月30日より公開のノーベル文学賞受賞作家アルベール・カミュ原作の映画『涙するまで、生きる』では、公開を記念し、カミュの血をひくタレントのセイン・カミュさんを招いてトークイベントを開催いたしました。

本作は、フランスからの独立運動が高まる戦争前夜のアルジェリアを舞台に、殺人容疑で連行されてきたアラブ人と教育に未来を見出した入植者の教師が、解く術のない誤解、復讐の連鎖で加速する争いに巻き込まれながら険しい旅路を乗り越えて、互いの人間性に目覚めていく物語です。累計40万部を超えるベストセラー、カミュの短編集『転落・追放と王国』の一編を原作に、セザール賞やカンヌ国際映画祭を賑わす新進気鋭のフランス人監督、ダヴィド・オールホッフェンが脚色。加速していく悲劇を前に、異なる人間がわかりあうことの困難さと尊さを問いかけます。フランスとアルジェリアの板挟みとなったカミュの姿が投影された主人公の葛藤を、アカデミー賞主演男優賞ノミネートされた実力派俳優ヴィゴ・モーテンセンがフランス語とアラビア語を操り見事に体現しています。

現在タレントとして日本で活躍するセイン・カミュさんは、「異邦人」などで世界的に有名な小説家アルベール・カミュを大叔父に持っています。セインさんは幼いころにレバノンに住んでいて、シリアとの戦争によって命からがらエジプトへ脱出した経験をしています。フランス人入植者の父を持ちアルジェリアで生まれ育った本作の原作者、アルベール・カミュはアルジェリアの独立戦争で心を痛めていました。そんなカミュの苦悩やセイン・カミュさんの戦地で過ごした知られざる体験などについてお伺いします。

司会:今日は、本作の原作者、『異邦人』で有名なアルベール・カミュの血をひいているタレントのセイン・カミュさんをお招きして、お話を伺っていきます。
アルベール・カミュはフランスとアルジェリアの間でいろいろ苦悩したということですが。

セイン:アルジェリアがフランスの植民地だったときに開拓のためにフランス人がアルジェリアに来たわけですが、その中にアルベール・カミュの父親がいたんです。アルベールはフランス人だけどアルジェリアに生まれ育って、母国としてはフランスだけど住んでいる地がアルジェリアなので、アルベールはアルジェリアをこよなく愛していました。だから、アルジェリアの独立戦争が起きたときに引き裂かれるような思いで、どちらを選ぶ選ばないということでとても苦悩したようです。

司会:日本では戦後70年を迎え、身近に戦争を感じながら生きるということはなくなってきているかと思いますが、セインさんは実は戦地で過ごされたことがあるそうですね?

セイン:ニューヨークに生まれたんですが、生後半年から一年ぐらいで母とレバノンに渡りました。イスラエルとシリアの中東戦争によって戦地化していたその真っ只中のレバノンにいたので、四歳ぐらいの子供の頃の記憶としては毎朝早く起きてパンの配給をもらったり、水の配給が来るのを待ったりしていました。また、銃撃戦のあとに散らばっている薬きょうを拾って「今日はこれだけ拾った!」というような遊びを皆でしていました。夜でもミサイルが飛んできたのですが、子供にはそれがきれいに見えて「恐ろしい花火」という作文を書いたこともありました。

司会:子供たちの日常にそのようなことが起きて、当たり前になるということが戦争の怖さですよね。
また、本作はアルベールの短編が原作ですが、映画では脚色されていますよね?

セイン:いい意味で膨らませていますよね。映像化したものを見ると、何もない砂漠の風景がとてもきれいでした。朝と昼と晩の砂漠の光や落ちる影の美しさに魅了されました。内容も人間関係の描き方や人種の異なるふたりの旅を通して、大事なものは国籍なのか人間なのかということなどを考えさせられました。

司会:本作の監督は、あえて、父親がデンマーク人で母親がアメリカ人、祖母がカナダ人とさまざまな血が混ざっているヴィゴ・モーテンセンを主役に抜擢しましたが、セインさんも同じような境遇ですよね?

セイン:アメリカで生まれたので国籍はアメリカですが、母はフランス系イギリス人で実の父はスコットランド系アメリカ人ですが若くして別れて、レバノンで日本人の父と再婚しました。育ての親は実は池田さんというんです(笑)。一時期、セイン・カミュ・池田と名乗っていたこともありました(笑)。

司会:ヴィゴがインタビューで「国籍か人間か、何が一番大切かと問われれば、それは後者だ」、「国籍は僕にとって決定的なものではない」と答えていますが、セインさんもそのようなことを感じられますか?

セイン:いろいろな土地を巡ってきたなかで、国籍というものより地球人として生きたいと思うようになりました。学生時代は、アメリカに行けば変な外人と思われて、どっちつかずでアイデンティティについて悩んだこともありましたが、日本で育ったアメリカ人として、日本のことをよくわかっているので、アメリカに行ったときには日本の良さをたくさん伝えられる恵まれた立場なんだと思うようになりました。

司会:最後に映画について皆さんにひとことお願い致します。

セイン:映画の世界にのめり込んでいける作品です。映画を通して50年前のアルジェリアに足を運んでいただいて、当時がどういう状況だったのか、そこで生きる人間にどのようなことが起きていたのかを体験してほしいです。