映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』トークイベント
新宿シネマカリテにて行われております映画祭<カリテ・コレクション>オープニング上映作品、『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』の上映後に、山崎まどか さん(ライター・コラムニスト)と前田敬子 さん(ADIEU TRISTESSE チーフデザイナー)のトークイベントが行われました。
山崎 映画はどうでしたか、皆さん。拍手したくなりませんか?
観客 (大拍手)
前田 ハッピーエンドなのにせつない気持ちになりますよね。
山崎 ベルセバのファンで今日来た、という人はどのくらいいらっしゃいますか?
観客 (約半数が手を挙げる)
山崎 結構いるー! ベルセバってずっと若いイメージがあるけどすでに20年選手だし、若い世代にはあんまり知られてないんじゃないか、と思っていましたが、そうでもなかったですね。スチュアートが「タイガーミルク」という1000枚限定で作られたアルバムがあるんですけど、そういうレアものを血眼になって探し出すような世代というわけではないですし。
山崎 前田さんは映画どうでした?
前田 3人が踊るのが、そんなに上手いダンスではないのですが、そこがいいですよね。
山崎 史上最強に運動神経が悪い人たちのミュージカル。
前田 ハル・ハートリーの『シンプルメン』でも音楽に合っていないダンスをするシーンがありましたよね。
山崎 あの映画の女の子も、前髪パッツンでしたね、このイブ(エミリー・ブラウニング)同様。きっと映画を見たあと、女の子は「私も前髪切る!」って、美容院に行くんじゃないかな。
前田 ファッションでいえば、ワンピースにボーラーハットをかぶったり、靴下にプレーントゥを合わせたり、かんかん帽だったり、本当にファッションがガーリーでかわいい。監督が女の子の趣味がはっきりしていて、ジェームズ(オリー・アレクサンドル)はやっぱり自分がやっている音楽から影響されていて、どのシーンでも絶対にボタンダウンのシャツを着ている。
山崎 映画の中で、彼らがやっている音楽のスタイルというものを、ジェームズがやっているんですね。彼が羽織っているアノラックなんかもそう。
前田 アノラックって、90年代に流行ったウインドブレーカー、みたいなものなんですけど。
山崎 アノラックという名前じたいが音楽ジャンルのひとつとして言われていたくらい、ミュージシャンが着ていたから。まあ、映画ではグラスゴーが寒いから着ていたんじゃないかって気もしますけど。あと、キャシー(ハンナ・マリー)もイブも、まず洋服がすごくかわいいけど、あれはスチュアートがスタイリングを手がけているんですね。だから彼の好みの女の子ってこと。
前田 ボーイフレンドの服を女の子に着せてしまうとかね。ケーブルニットを着せるシーンがありましたが、本当に監督の好みが出ていると思います。
山崎 サッカーウェアを着せちゃうところとか。アクセサリー使い、必ず3本腕輪をつけているのが、まさにインディーロック好きの女の子って感じで。ゴダールは自分の映画でアンナ・カリーナが着るものにこだわっていて、街でかわいい服を着ている女の子に「それどこで売ってるの?」と聞いて見つけてきて、彼女に着せていたんですよね。あと、イブがお風呂に入っているところに男子が列をなしているシーンがありますが、1965年のイギリス映画で『ナック』という作品のオープニングシーンを思わせる。あちらは男女逆ですが、それを直接真似しているというよりも、90年代におしゃれな映画のブームがあって、その時にこの映画を見た人たちのとらえかたがこうだった、と思わせるところがいいなと。
前田 そういうシーンがいっぱい出てくるからもう一回見て確かめるのも楽しいですよね。
山崎 元ネタを知らなくても、これで知る人たちがすごく多いと思う。私がグッとくるシーンは、イブがひとりでピクニック、7インチシングルを聞いているところ。ああいうのって本当にかわいい!
前田 あと、レコード会社に売り込むために、自分の歌をテープに録音するところもいいですよね。いまそういうことをして聞く人はいないから、ロマンチック。
山崎 あえてカセットテープに吹き込んで聞くんですよね。カセットはノスタルジックでありながら世代にならった新鮮なもので、7インチレコードなんて、1枚の裏表たった2曲しか入っていない。だから、本当にその曲がすき、というのが伝わる。オタク的なことを言わせて貰えば、本当は7インチのほうが音がいいんですよ! イブがその時聴いているレコードがレフトバンクス の「プリティバレリーナ」という曲で。レフトバンクスは一発屋というイメージがあり、「プリディバレリーナ」じたいはヒットした曲ではなかったんですけど、サイケデリックでバロックっぽいかわいい音楽なんですよ。どうしたらこういう可愛さを伝えたらいいのかと考えていたので、今日ここにいらしてくださった方は、覚えていていただけると、広がるかなと思います。
前田 音楽からも世界が広がるし、ファッションからも広がるしね。
山崎 映画の中でDJがしゃべっていることは「お前らは80年代のロッキングオンか」みたいな内容だったりするんですけどね。
前田 今みたいに情報がなかったときは映画のなかに出てきたものやキーワードを覚えて、あとで調べたりして自分のものにしていましたよね。
山崎 この映画じたいは、女の子の普遍的な話なんですけど、スチュアート・マードックの話でもあるんです。音楽をやることによって世界に出て行くことができた、という内容で。純粋にインディPOP少年の夢、つまりかわいいふたりとバンドを組んで、でも最後には去られてしまうというせつなさを描いてもいるんですが、女の子というのは自分でもあり、内にこもっていた人生が、音楽に救われて旅立っていく。
前田 画面のなかに大人が出てこないこともキーポイントですよね。誰の親も出てこないし、キャシーの家に遊びいっても家族は出てこない。イブの病院のスタッフくらい。あの年頃は大人が目に入っていなかったという、自分が過ごしたあの時代にいる気持ちになる。でも、最後のほうのセリフで「大人が必要なの」って言われて、ハッとする。
山崎 舞台がグラスゴーで、バンド周辺の人たちとだけ交流していて社会から切り離された女の子が、ちゃんと大人になっていくんですよね。ところで、イブが心惹かれるバンドのボーカルの男の子がいますが、ボーカルばっかりがモテるみたいの、ああいうの本当にあるんですかね。
山崎 ボーカルの子のファッションも古着ミックスで音楽性とつながる部分もありますよね。可愛さがなにもかもが独立しているのではなく、世界が全部繋がっているから、スチュアートの趣味で消化されているところもある。前田さんはファッションはいかがでしたか。
前田 エミリー・ブラウニング、本当にかわいいですよね!すごい好きなタイプ。劇中の曲も、本人が歌っているんですよね。スチュアートがオーディションしたと聞きましたが、あのちょっとたどたどしい感じがすごいこの映画の魅力になっていて。
山崎 スチュアートは10年くらいこの映画の企画を温めていて、2007年にベルセバとは別名義で出した「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」というCDが先にあるんですが、私は映画のサントラのほうがグッとくる、上手くないからグッとくる。映画をみたら、すごくサントラが買いたくなるような映画じゃないかなと。下手くそでもできる一生懸命頑張る感じが可愛くて、そこがインディ精神だなと思うんですよ。DIY精神につながる、手作りでいろんなことをやっているところが可愛らしくて、へなちょこだけどパワーもあるというところが伝わるといいなと。
前田 ファッションもチラシには70年代風とあるんですけど、イメージ的にはボールルームシーンなんかは50年代、でもお洋服は60年代の古着を今の子たちが見つけて着ている感じに近いですね。