グザヴィエ・ドラン監督の『わたしはロランス』+『トム・アット・ザ・ファーム』Blu-ray BOXの5月2日(土)発売を記念して、4月20日(月)渋谷アップリンクにて『わたしはロランス』のトーク付き上映会が行われました。

◆概要◆
●日時:2015年4月20日(月)
●場所:渋谷アップリンク
●ゲスト:安冨歩(社会生態学者、東京大学東洋文化研究所教授)/聞き手:ヴィヴィアン佐藤(美術家・ドラァグクイーン)

グザヴィエ・ドラン監督の『わたしはロランス』『トム・アット・ザ・ファーム』Blu-ray BOXの5月2日(土)発売を記念して、4月20日、渋谷アップリンクにて『わたしはロランス』のトーク付き上映会が開催。『原発危機と「東大話法」』などの著作で知られる「男装をやめた」東大教授・安冨歩さんが登壇し、美術家・ドラァグクイーンのヴィヴィアン佐藤さんを聞き手に語った。

今作は、80年代を舞台に周囲の偏見や社会の拒否反応のなか女性として生きていくことを決めたモントリオール在住の小説家で国語教師のロランスと、恋人で最大の理解者である女性フレッドとの10年にわたるラブ・ストーリー。

安冨さんは今作について、「冒頭のロランスを見る街の人々のあの視線は、私を見る目と同じ」と、女性の服装で生活しようとする男性の気持ちを的確に、そしてリアルに描いていると絶賛。「物語の設定である1989年だったら東大でもクビになっていたかもしれない」と、保護者からの苦情により教師をやめることになるロランスの境遇と重ねあわせた。

50歳を過ぎて女装をするようになったという安冨さんは「原発でも『危険』という言葉を『安全』に置き換える。『原子力危険委員会』でないといけないのに『原子力安全委員会』になってしまう」という、社会のなかで隠蔽されようとする事象に起こる言葉の置き換えの問題について話を拡げ、「『性同一障害』という言葉も言い換え。当時は悩んだが、決して「障害」なんかではない『性転換手術』もなぜ『性器変形手術』と言わないのか。原発とまったく同じ構造」と指摘。「人間はステレオタイプな言葉や価値観、自分の都合のいい解釈にもっていきたがる。その枠組にはめ込んでいくことが暴力の本質なんです」と力説した。

さらに「ボーダーを認めているからトランスジェンダー(性別を越える)という言葉を使う。でも、ボーダーなんてものはないんです」と安冨さんが語ると、ヴィヴィアンさんも「人はいびつな多面体。近くの人や家族が自分をいちばん知っているとは限らない」と、人を性別で分けることの無意味さに同意した。

安冨さんは、女性から「きれい」と言われることが増えたことから「女性が考える『美人の女性』は彫りが深い顔や長い手足などを持つ『男っぽい女』」だと気付いたという。そして、「そもそも“美人”というのは男性が決めた価値観で、多くの女性に『私は醜い』という自己嫌悪を与えることによって、女性をコントロールし支配しようとしている」と現代社会における美人の定義について持論を展開した。

イベントの後半、観客から渋谷区の同性パートナーシップ条例などの取り組みについての考えを問われた安富さんは、「それよりも、『結婚という制度はやめよう』という議論をしなければいけない。現代社会では結婚という制度は機能していない。民法は150年変わっていないし、アウト・オブ・デート(時代遅れ)」と一喝。そして「障害者を巡ることについてもそうだが、何かが問題とされるとき、その当事者ではなく、枠のほうが常に問題。構造のほうを考えることが必要なんです」と答えた。

イベントの最後、安冨さんは満員の客席を前に、『わたしはロランス』そしてグザヴィエ・ドラン監督の人気について「若い人は常に社会からの抑圧を感じている。ロランスが求めた『自由』に反応しているんだと思います」と語り、トークを締めくくった。

<プロフィール>

●安冨歩(社会生態学者、東京大学東洋文化研究所教授)
「男装をやめた」東京大学教授、社会生態学者、京都大学経済学部卒業。
歴史文化工学会会長。著書に『原発危機と「東大話法」』『誰が星の王子さまを殺したのか——モラル・ハラスメントの罠』などがある。無料電子音楽雑誌『エリス』に「マイケル・ジャクソンの思想」を連載中。

●ヴィヴィアン佐藤(美術家・ドラァグクイーン)
美術家、非建築家、映画批評家、プロモーター、ドラァグクイーン、と様々な顔を持つ。ジャンルを横断していき独自の見解で「トーキョー」と「現代」を乗りこなす。自身の作品製作のみならず、「同時代性」をキーワードに映画や演劇、ライヴなどを単なる受け取る側としてではないプロモーション活動も展開している。2012年からvantanバンタンデザイン研究所で教鞭を執る。

『トム・アット・ザ・ファーム』『わたしはロランス』 Blu-ray BOX
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「トム・アット・ザ・ファーム」と「わたしはロランス」のBlu-rayに「ドラン先生の公開授業」(120分)の特典ディスク(DVD)を加え、豪華仕様のBOXケースに収録した永久保存版。
完全初回生産限定商品のため無くなり次第終了となります。

3枚組BOXセット 2015年5月2日発売