昨年12月に復活オープンを果たした映画館「横浜シネマリン」で『さらば、愛の言葉よ』上映記念特集「ゴダールの60年代、そして現在」が開催されています。3月8日夜には『彼女について私が知っている二、三の事柄』が上映され、『ここは退屈迎えに来て』などで知られる人気作家の山内マリコさんが「新旧ゴダールをめぐるフリートークショー」に来場。映画系編集者の寺岡裕治さんを聞き手に、ゴダールの魅力について語り合いました。

 『彼女について〜』は、『メイド・イン・USA』と同時期に製作されたジャン=リュック・ゴダール作品。4000世帯を収容するパリ郊外の団地で夫と子供ふたりと暮らすジュリエットは、夫にとっては自慢の妻であるが、昼間は売春をして買い物を楽しんでいる主婦のひとりだった…、という物語です。

 「若い頃にVHSで観ようとトライしたんですが、挫折した記憶があります。主演のマリナ・ブラディさんが、(『気狂いピエロ』などで知られる)アンナ・カリーナさんと比べて、目が鋭くてやや怖いなと思っていて。でも改めて見直してみたら、これがなんと団地映画だったんです!」と力説する山内さん。参加メンバーたちが映画、マンガ、アニメなどに登場する団地について語る団地好きユニット「団地団」のメンバーだけあって、ユニークな視点で本作を観ていたようです。

 「団地団のメンバーとしては、1971年の(西村昭五郎監督、白川和子主演による日活ロマンポルノ第1弾作品)『団地妻 昼下がりの情事』よりも5年も早く団地映画を先取りしていたということが衝撃でした。郊外の均一化されている団地の中で、旦那さんからも昼間はほったらかしにされていて、時間をもてあましているような当時の団地妻が売春をするという。ゴダールも新聞の三面記事から着想を得たということなんですが、フランスに団地があるんだというのも驚きでしたね」と切り出すと、「(主演の)マリナさんの疲れた感じも団地妻ぽくて良かったですね」と笑顔を見せました。

 そんな山内さんのゴダール初体験は高校生の時。レンタルビデオ屋で借りてきた『勝手にしやがれ』を土曜の午後、お茶の間で観た時が最初だったそう。「その時に2つ上の兄がやってきたんですけど、私と違ってゴダールには興味がない。こっちはゴダールだと思って、気張って観ているんだけど、兄は編集の感じとかがおかしかったらしくて、「マリちゃん、何観てるの。説明してよ、何これ?」なんて言いながらゲラゲラ笑っている。隣でそんな反応をされると、テンションが下がってきて。ウーと思いながら観た記憶があります」と笑いながら述懐。

 ゴダール初体験はほろ苦いものに終わったものの、ファンとして、その後もゴダール映画を見続けたという山内さん。「特にアンナ・カリーナが可愛くて、グッときます。他の映画と比べても輝きが全然違うんですよね。どこかで読んだことがあることなんですが、ゴダールはアンナ・カリーナが好きなのではなくて、なりたかったんだと。そりゃそうだろうなと思います。映画監督と女優が恋人同士になると、生々しすぎて観ていられないことが多いですが、でもゴダールの場合はアンナさんにあこがれを持って撮っているんで、それがなくてすがすがしいんですよね」。

 その後も、シネマリンでも2D版が上映中のゴダール最新作『さらば、愛の言葉よ』の話、フランソワ・トリュフォーの話、そして最新著書「パリ行ったことないの」など多岐にわたって繰り広げられた本トークショー。集まったお客さんも満足げな様子でした。

 横浜シネマリンで開催中の『さらば、愛の言葉よ』上映記念特集「ゴダールの60年代、そして現在」。9日夜からはジャン=ピエール・レオー主演の『男性・女性』を上映。3月13日(金)18:45の回上映後には、「新旧ゴダールをめぐるフリートークショー」第3弾として、青山真治さん(映画監督)×坂本安美さん(アンスティチュ・フランセ日本 映画プログラム主任/映画批評家)によるトークショーも行われます。(Report:壬生智裕)