●女性監督が撮るボーイズ・ラブ+ヴァンパイア!
 2014年11月26日、第七藝術劇場にて公開中であった吉行由実監督の『真夜中きみはキバをむく』のトークショーが行われた。司会は関西のピンク映画の情報誌『ぴんくりんく』編集長の太田耕耘キさん。

 『真夜中きみはキバをむく』はボーイズ・ラブにヴァンパイアという魅力的な古典ジャンルを加えた作品。愛する相手が血に囚われた世界にいると知ったとき、あなたの取る選択は?
 恋人・奈々(愛河シゲル)がいながら3年前に突然姿を消した恋人・伴零時(田村晃一)を忘れられない美大生・佐伯アスカ(三河悠冴)。営業終了後の映画館に忘れ物を撮りに戻ったアスカは映写技師として働く零時と再会する。想いが再燃するアスカと零時だったが、零時は謎の男・黒凪神(麻生涼)に支配されていた。

 吉行監督は、女優として93年よりピンク映画に多数出演。93年度・第6回ピンク映画大賞・新人女優賞を受賞するなど活躍し、実相寺昭雄監督『D坂の殺人事件』(’98)、大林宣彦監督『その日のまえに』(’08)といった一般作、佐々木浩久監督『発狂する唇』(’00)、藤原章監督『ダンプねえちゃんとホルモン大王』(’10)、池島ゆたか監督『おやじ男優Z』(’14)といったインディーズ映画にも幅広く出演している。
 ピンク映画の監督としては15年のキャリアを持ち、ゲイポルノに関しては、『乙男たちの素顔』(’98)、『僕は恋に夢中』(’99)、『浮気な僕ら』(’01)、『恋心の風景〜キャンプでLOVE〜』(’08)、『夏男たちのラブ・ビーチ』(’10)とコンスタントに手掛けており、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭には3作品が招待されている。

 
 『真夜中きみはキバをむく』は吉行監督初のBLものとなる。吉行監督が「一般の方が誰でも見られるようにと会社から依頼があって作りました」と語るようにソフトな作風となった本作。ポスターも主人公を演じる三河悠冴さんの切ない視線が印象的な美しいデザインとなっている。

●吉行流演出・ご飯を食べるように普段のセックスを演じればいい
 太田さんから、配給のオーピー映画について、大蔵映画の製作・配給部門に特化した系列会社であると解説が入る。
「1962年に小林悟監督『肉体の市場』という日本ピンク映画第1号と言われている映画があるんですが、そのパイオニアの会社が作ったのが今回のこのボーイズ・ラブ映画です」
 吉行監督の演出について質問が投げかけられる。
「男同士のからみは女性は体験出来ないですけど、どのように指示を出すんですか」

 役者でもある吉行監督は、どうやって表現するか考えて役を引き受けるという。監督の現場ではそういった事を考える前にオファーを受ける俳優もいると戸惑いを語る。
「お互いの愛を伝え合うために抱き合うとか、キスするとか身体を求め合うとか、行為は愛の延長線上にあるから、それを表現してくれれば別にどんな形でもいいの。私は演出家としては形で決めようとは思ってないから。パッションが見えればそれでいいと思っているんだけど、やってくれない人が多いですね(笑)」

 ピンク映画に出演する女優の皆さんに“ここで彼氏としてると思って”と言えば、誰もが抵抗なく演じてくれるという。
「セックスの芝居は別と思ってる役者さんが多いから、それは良くないなと思う。ご飯食べるシーンならご飯並べといたら食べる芝居するんだけど、セックスの時だけどうすればいいんですか?って(笑)。
普通にご飯を食べるように、セックスしたことがあるならやればいいじゃないって思う。私はそこの敷居を取っ払いたいなとずっと思ってピンク映画も撮っているんだけど、どうしてもそこがなかなか(笑)」

「照れもあるのかわからないけど、照れるんだったらやらないほうがいいね。役者って仕事は恥ずかしいことやる仕事なんですよ。監督って仕事もそうだけど(笑)。ピンク映画の台本も自分で書いてますけど、自分の中で“こうなったら感じちゃうんじゃないかしら”とか、こういう事をしたら男の人が“お、エロいな”と思うんじゃないかとか。そういう自分の生理みたいなものも出すことを含めて作っていく作業なんですよ」

●ピンク映画デビューの経緯
 女優を目指すも、当初はカラオケビデオへの出演といった仕事しかなかったと言う吉行監督。小劇団に客演した際に同じく客演していたAVメーカーの宇宙企画所属の小森愛さんと仲良くなった。役のある仕事がしたいと打ち明けたところ宇宙企画のスカウトマンを紹介された。
「宇宙企画って美少女系な訳です。私は元から老け顏だったから今丁度良くなってる(笑)。20代の時に野上正義さんの奥さんをやってたくらいで」

 AVにはスカウトされなかったが、当時様々なジャンルのVシネマが大量に制作されており、予算は約3千万円ほどでメインは有名俳優をキャスティング。必ずセクシーなキャラクターも設定されており、担当者はそういったキャスティングも担当していた。
「“脱いでもいいの?”って。脱ぐか脱がないかまずはっきりしてくれないと仕事を持って来づらいと。すごい事務的で(笑)。“それに合わせて仕事を持ってくるから”って言われて。だったら脱ぎますって(笑)。ただ裸で死んでるだけの役は嫌だけど、ちゃんと芝居があって脱ぎもあるなら大丈夫ですって」
 
 その直後にピンク映画出演のチャンスが訪れる。担当者がマネージメントしていた女優にキャスティングのチャンスがあり、誘われて吉行監督も同行。ピンク映画のギャラの相場が1日5万円。当時のAV女優はもっとギャラが良かった。
「ギャラが安いからうちの子は出せないんだよ。由実ちゃんやるならやれば?って(笑)。監督も気に入ってくれたんで、じゃあやりますって。それは脇だったんで1日くらいかな、撮影に行ったのが最初。それが大蔵映画の撮影でした」
 
 吉行監督は
「小林悟監督が私の師匠ですからね。育てて貰いましたね。毎月のように作品があって出して貰って」
と、懐かしそうな表情を見せた。

●本当に撮るべきカットを厳選するフィルム撮影の緊張感
 『真夜中きみはキバをむく』35ミリフィルムで制作されており、鑑賞後の男性観客からフィルムと照明に対する拘りについて質問が挙がった。

 吉行監督は自身がこだわっているのではなく、製作の大蔵映画がフィルムにこだわって作っている会社であると紹介。
「個人が独立系でフィルムで作ろうとすると、ものすごく高いから。大蔵映画さんはピンク映画で年間約36本という大量生産。現像所とお得意さんの取引をしているので低予算でも成立するんです。そういう意味では自分で選んだわけではないですが、フィルムと生きて来た自負がありますね」

 女優デビューの3年後、1996年に『まん性発情不倫妻』(大蔵映画)で監督としてデビューした吉行監督。第9回ピンク映画大賞・新人監督賞受賞。それから約30本、年に1、2本のペースでコンスタントに監督作が公開されてきた。

「デジタルでも絵は綺麗に作れますが、フイルムが回ったら巻き戻して使うことは出来ない。そういう儚さがあるので、ワンカットワンカットの決意があります。ビデオなら取り敢えず撮って、失敗したらまた撮れますけど、フィルムは貴重なもの。
 本当にこのカットが撮りたいものなのか、自分の中で反芻してから決めます。その覚悟がどこか画に出てくるのかな。伝わってるかはわからないけど(笑)」
と、フィルム撮影に対する想いを語った。

 照明に関しては、太田さんからピンク映画業界の制作の現状が紹介された。
「この作品は小山田勝治さんが撮影と照明を担当しています。大きな映画だと撮影部と照明部が別々にあって、ピンク映画も昔はそれぞれの部でやっていましたが、予算が少ないのでこの10年くらい撮影と照明を兼務するようになっていますね」

 吉行監督は、フィルムの仕事で長年付き合いのあるカメラマンが何人かいると説明。
「カメラマンさんの個性や得意な絵作りがあるから、作品によって人を選ぶところから考えています。
小山田さんにいい絵を作ってもらったなと自分でも気に入ってますね。特にラストのところは本当に綺麗に撮ってもらってよかったなと思います」

●今後の上映予定
 『真夜中きみはキバをむく』は現在のところソフト化については未定とのこと。
「全国をちょっとずつ回って上映を続けていくそうなので。また機会があればご覧ください。
今日はありがとうございました。また頑張りますので今後ともよろしくお願いします」

 『真夜中きみはキバをむく』は、関東・関西の公開を経て、北海道・ 浦河大黒座にて1/17から1/30まで2週間の上映予定。

 オーピー映画唯一の女性監督であり、女性ならではの視点に定評がある吉行由実監督の作品、興味を持たれた方はぜひ足をお運びください。

<吉行監督の新作情報>
●12月公開済み:『妹の匂い よろめきの爆乳』
(出演:奥田咲・加納綾子・星野ゆず)
第10回ピンク映画大賞・監督賞 を受賞した『イノセント・キス(原題:姉妹どんぶり 抜かずに中で)』(’97)のリメイク。

●1/23公開:最新作『お天気キャスター/晴れのち濡れて』
(出演:椿かなり(新人) 倖田李梨 さとう杏子(新人))
上野オークラ劇場、横浜光音座2にて1週間の上映予定。

●3/13発売DVD:新作Vシネマ『35歳の童貞男』
(出演:有村千佳, カトウシンスケ, 螢雪次朗, 宮崎恵治, 樹カズ)
童貞男、悲願の「添い寝フレンド」=「ソフレ」脱出なるか!?出来るオンナと童貞男の純恋ドラマ。

(Report:デューイ松田)