ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門で監督賞含む4賞ほか、多数の映画祭で数々の賞を受賞している、映画『おみおくりの作法』が2015年1月24日(土)より、シネスイッチ銀座ほかにて公開いたします。
本作は、ひとりきりで亡くなった人を弔う仕事をしているロンドンの民生係 ジョン・メイが、自分の向かいの部屋に住む男性の死をきっかけに、彼の身寄りを探し訪ね歩く、というストーリー。実際にジョン・メイのしている仕事はイギリスに存在し、その新聞記事を読んだ監督が長期にわたり実在の人物・出来事の取材を重ね、本作は誕生しました。
“孤独死”の問題は日本だけでなく、世界中で深刻化しているのです。

この度公開に先立ち、 「世界に広がる孤独死の現状とどう向き合うべきか」をテーマに、ケアマネージャーなどを経て福祉の現場の最前線を見続けてきた「孤独死のリアル」の著者 結城康博氏、フランスの小さなアパートでおきた高齢者の孤独死をきっかけに発足された、人と人とのつながりを取り戻しコミュニティを豊かにすることで、孤立しない地域社会を目指す団体「隣人祭り」の日本支部代表スティーブ・ジャービス氏、さらに、新宿区の戸山団地で発生した孤独死をきっかけに生まれ、緊急時にかかりつけ医に通報される「見守りケータイ」を導入するなど独自の対策を推進している「NPO法人 人と人をつなぐ会」理事長の竹原のぞみ氏を迎え、12月18日(木)映画の試写会後にシンポジウムを行いました。

【シンポジウム付きトーク試写会 実施概要】 
日程:12月18日(木)18:30開映  / 20:05〜20:45 シンポジウム
会場:シネマート六本木 スクリーン3(東京都港区六本木3-8-15 地下1階)
テーマ:孤独死とどう向き合うか
パネラー:結城 康博氏(「孤独死のリアル」著者)、スティーブ・ジャービス氏(隣人祭り 日本支部 代表)
竹原 のぞみ氏(NPO法人 人と人をつなぐ会 理事長)

【シンポジウム内容】

MC:自己紹介を兼ねて映画のご感想をお願いします。

竹原:私どもは、本庄会長が住んでいる新宿区の都営戸山団地というところで、70歳代の男性が一人で亡くなられて、死後一カ月半ほどたってから、本庄会長が棟の代表をしていたので住民の代表として立ち会ったことが、NPOを立ち上げるきっかけとなりました。映画は、主人公が亡くなられた人たちの宗教や人間関係をそれぞれ調べて、亡くなられた方たちの魂が満足するような形で葬儀をとりはからう姿にとても感動しました。ラストは、何とも言えぬ温かさと、経済史上主義になってしまった日本という国が、もう一度考え直さなければいけないきっかけになる映画になるなと思いました。

結城:この映画には2つの論点があると思います。1つ目は、孤独死、孤立死の問題です。日本では「孤独死」の定義付けは大変難しいのですが、おおよそ、「誰にも看取られずに自宅で亡くなり、死後数日後に発見される」ということです。この映画はまさに、孤独死、孤立死の問題が日本だけではなくて、世界的に広がっていることを物語っています。実は韓国でも深刻化しておりまして、ドイツでも問題になっています。
日本は、推計年間3万人以上の方が孤独死、孤立死で亡くなっています。2つ目の論点は、葬儀の問題だと思います。最近はほとんど誰にも看取られずに、直葬(葬儀をせずに直接火葬して納骨する)で普通の葬儀をやらない風潮になっています。死者を祀るということが日本社会のなかでだんだんと減ってきているのです。この映画でも、人の存在意義を社会や地域がなかなか認めず、希薄化しているところが映っています。日本社会において、効率・合理性に対する問題と希薄化する人間の存在意義というものを、どう考えていくのがこの映画で問われているので、非常に勉強になりました。

スティーブ:私は「隣人祭り」の支部長として運営しています。「隣人祭り」とは「近所の人とゆるくつながるきっかけ」です。スタートしてから5年目に入りましたが、日本では200回くらい隣人祭りを行ってきました。ゆるく、気楽に近所付き合いをして、できるだけ多くの人が参加できるように、人のつながりをメインにして活動しています。映画は非常に感動しました。ジョン・メイは「静かな英雄」じゃないかと思いました。
彼は本当に素晴らしい人。無関心・孤独感のある社会に対して彼は抵抗しているのです。つながって生きる、つながって人間になるということがメインメッセージだと思いました。

MC:「孤独死」の現状についてお話下さい。

結城:基本的に「孤独死」は突然死です。一人暮らしの人がパタっと家で亡くなって、数日後に近所の人が発見する。そうすると事件性があるので、警察が捜査をします。事件性がないとなれば、近所の医師が検死します。(死因は)99%以上が捜査や医師検死で分かるんですけど、でも中には死亡解剖をしなければ分からないケースもあります。また、死後何日経ったら孤独死なのかというのも、価値観の問題なのでなかなか実数が出せません。
ジョン・メイのような仕事をしている公務員は日本には基本的にはいません。日本は戸籍制度がしっかりしているので。ジョン・メイは探偵のように突き詰めていきますが、日本は住基制度もしっかりしてますので、誰かしら絶対に親族は見つかります。しかし、例え親族が見つかっても葬式に来ないんです。生前に冷たい仕打ちをされたとか、父親がアル中だったり虐待していたりという場合があり、それで疎遠になり、孤独死になっていくケースが多々あります。孤立したその人に対して、誰かが最後の死の尊厳を保っていくと考えたときに、ではそれは誰がやるんだという問題点を我々に投げかけているのかもしれないですね。

MC:「人と人をつなぐ会」では戸山団地を中心に、実践的な取り組みをされていますが、どのように孤独死を防ごうとされていますか?

竹原:今まで、さまざまな見守りの機器の開発を、調査をしては実験と7年間やってきました。その中で、ソフトバンクに携帯を開けると自動でメールが家族に届くというふたつ折りの携帯を作ってもらいました。今はもうその携帯はないのですが、メールは打てないけれども開けることができれば、家族に「起きたよ」ということが伝わるとものでした。引き続きいろんな会社に、最先端のものを使ってやっていただいております。新宿の場合には、民生委員の方たちが1人500世帯の方を見ているんです。お年寄りの方だけを見るわけではなく、お子さんからお年寄りまで全部見るんです。
民生委員に選ばれる方というのは70代の方が多く、500世帯を見るのはなかなか大変な作業です。これだけ日本は携帯電話が発達していて文明社会でもあるので、なんとかITを組み込んでやれないかというのをずっとテーマにしています。
また、今マンションなどに「空室」と貼られた部屋がありますが、空いていても高齢者の方は絶対に入れません。部屋で亡くなった場合に荷物を6ヶ月は捨てることができない、亡くなった際に体が腐ってしまっていたらリフォームに多大なお金がかかるなどいろんな問題があって、うちの会にも大家さんからの相談がよくあります。そんな中で、「第三者受け取り保険」があれば、大家さんが受け取り人になってリフォーム代に使っても良いですし、葬儀や荷物の片付けに使っても良いのです。それに、葬儀や荷物の片付け、お墓のことなど、いざというときに困らないようにベースになる保険を今年作りました。少しづつ皆さんに知って頂いて、孤独死対策をやっている団体や自治体の方にもご案内させていただいて、みんなで見守っていく形にしていければなと思っています。