コートダジュールの陽光が燦々と降り注ぐ快晴となった23日。“カンヌ・クラシック”部門では、ロベルト・ロッセリーニ監督の『不安』(1954年)と市川崑監督の『東京オリンピック』(1965年)が上映され、フランス人監督ジャック・オーディアールによる特別講義“マスタークラス”も行われた。そして併行部門の“監督週間”は、本日で開幕。明日24日のこの部門は受賞作のリピート上映に充てられる。


◆『パルプ・フィクション』の上映でカンヌ入りしていたクエンティン・タランティーノ監督の会見が急遽実現!

 クエンティン・タランティーノは、1992年の監督デビュー作(脚本&出演もした)『レザボア・ドッグス』で一躍脚光を浴び、続く1994年の『パルプ・フィクション』でカンヌを制した上に、米アカデミー賞の脚本賞も獲得。以降も次々と話題作を発表し続けている異彩監督で、2004年には“長編コンペティション”部門の審査委員長も務めている。
 タランティーノは今回、クロージング作品の『荒野の用心棒』50周年記念修復版のプレゼンター、およびパルムドール受賞作『パルプ・フィクション』の20周年記念上映のために現地入りしていたのだが、当初の予定にはなかった記者会見が急遽実現した。

 14時半から始まった記者会見には報道陣が殺到! クエンティン・タランティーノの朋友である敏腕プロデューサー、ローレンス・ベンダーが記者席の最前列で見守る中、饒舌なタランティーノ節が炸裂した。
 彼が紹介役を務める『荒野の用心棒』(1964年)はイタリアの名匠セルジオ・レオーネ監督によるマカロニ・ウェスタンの傑作で、主演したクリント・イーストウッドの出世作でもある。35mmフィルムのコレクターとしても知られる映画マニアのクエンティン・タランティーノにとって、最も愛する映画の1本だそうで、「『荒野の用心棒』によって“マカロニ・ウェスタン”というジャンルが誕生した。まさに金字塔であり、全てのアクション映画の元祖なんだ」とコメントし、イタリア映画に対する熱い想いと共にセルジオ・レオーネ監督作が映画音楽の地位向上に多大なる貢献したことにも言及した。しかしながら、デジタル修復版での上映については、「デジタル化は“映画の死”を意味すると思っている。デジタル上映を観るのは、家で大きなテレビを観ているのと変わらない。僕にとって、それは映画じゃないね」と発言し、その拘りを強調した。
 
 その後、『パルプ・フィクション』の20周年記念上映を前にして、ジョン・トラボルタ、ユマ・サーマンらとレッドカーペットに登場したクエンティン・タランティーノはノリノリで踊りまくり、フラッシュの大洪水を浴びてご満悦顔だった。
 そして今回の『パルプ・フィクション』の上映形式がメイン会場パレ・デ・フェスティバルにほど近いパブリック・ビーチで催される野外無料上映会(“シネマ・ドゥ・ラ・プラージュ”部門)だということもあって、会場付近はものすごい黒山の人だかりに。21時半からの開映前に、ジョン・トラボルタやユマ・サーマン、ローレンス・ベンダーらと共に登壇して舞台挨拶を行ったタランティーノに、観衆の大歓声が飛んでいた。


◆短編コンペティション部門に選出されたのは、5人で共同監督した『八芳園』

 『八芳園』は、メディアクリエーターで東京藝術大学・大学院映像研究科の佐藤雅彦教授が、同大の教え子である大原崇嘉、関友太郎、豊田真之、平瀬謙太朗の4氏と共に製作した13分の作品。日本の典型的な結婚式場で繰り広げられる「どの様に振る舞えば良いか分からず、気まずく居心地の悪い局面」を大胆かつ繊細に描いた短編で、カメラが捉えるのは盛装して日本庭園のひな壇に並び、記念写真の撮影を待ちながら退屈な時間をやり過ごす式の参列者たちの顔、顔、顔。同じサイズの画面で切り取られた人々の、表情の固さや微妙な仕草から、そこはかとない可笑しさが漂ってくるユニークな作品だ。なお、タイトルの「八芳園」は、東京都港区白金台にある結婚式場の名称である。
(記事構成:Y. KIKKA)