映画祭10日目の23日(金)。“コンペティション”部門の正式上映も今日が最終日となり、フランスのオリヴィエ・アサヤス監督の『シルス・マリア』とロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフ監督の『リヴァイアサン』が登場。また、短編コンペティション部門の出品作9本の正式上映も11時&16時半の2回に渡って行われた。


◆『シルス・マリア』はジュリエット・ビノシュとハリウッドの人気若手女優2人を起用した英語作品!

 フランスの有名な映画誌“カイエ・デュ・シネマ”の批評家出身のオリヴィエ・アサヤス監督は、1994年の『冷たい水』(ある視点部門で上映)でカンヌに初登場。2004年の『クリーン』で元妻のマギー・チャンに女優賞をもたらし、実在のテロリストの姿を追った5時間越えの大作ドラマ『カルロス』が2010年に特別上映されて話題を集めた才人である。今回のコンペ参戦作『シルス・マリア』は、監督自身が脚本も手掛け、ジュリエット・ビノシュとハリウッド人気若手女優2人を起用し、英語で撮った心理ドラマの意欲作だ。
 熟年女優のマリア(ジュリエット・ビノシュ)は有能なアシスタント(クリステン・スチュワート)を伴って、恩師が暮らすスイスの避暑地シルス・マリアに演技賞を受賞しにきた。だが、授賞式の直前に恩師が急逝し、若い演出家がマリアの出世作となった恩師の芝居を再演することになる。当時18歳だったマリアを有名したのは、年上の女性エレナを自殺に追い込むヒロイン役であったが、今回はハリウッドの新進女優(クロエ・グレース・モレッツ)がそのヒロインを新しい解釈で演じ、マリアはエレナ役をやることに。それ以来、過去の亡霊に悩まされるようになったマリアは……。

 朝の8時半からの上映に続き、11時から行われた 『シルス・マリア』の公式記者会見にはオリヴィエ・アサヤス監督とプロデューサー、そして俳優のジュリエット・ビノシュ、クロエ・グレース・モレッツ、ラース・アイディンガーが参加。残念ながらクリステン・スチュワートは登壇しなかった。
 世代の異なる女性のキャラクターを描きたかったというオリヴィエ・アサヤス監督は、英語で撮ったわけを「フランスで花開き、ワールドワイドに活躍するジュリエット・ビノシュならではのアプローチさ」と語り、実にユニークで美しいロケ地については「セントラル・ヨーロッパが舞台のタイムレスな世界にしたかった」とコメント。そして劇中劇については鬼才ファスビンダーの舞台演劇を参考にしたと言い添えた。
 ジュリエット・ビノシュは有名女優を演じたことについて「非常に面白かったですよ。パパラッチなど実際に体験している問題には、笑ってしまいました。でも、その対処法についてはクリステンの方が遥かに詳しかったですね。なにせ彼女は、パパラッチの世界に日々、身を置いてますからね」とコメント。
 一方、問題児の若手女優を好演したクロエ・グレース・モレッツは尊敬する女優ジュリエット・ビノシュとの共演の喜びを述べた上で、「とにかく楽しかったの! ハリウッドの大作っぽいSFの芝居が劇中劇であるんだけど、それを演じられたこともすごく面白い体験だった。で、私の映画を観たクリステンとジュリエットがカジノでさんざん盛り上がるシーンは最高だと思うわ」とコメントした。


◆長編4作目の『リヴァイアサン』で参戦したロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフ監督!

 俳優出身のアンドレイ・ズビャギンツェフ監督は、2003年の長編デビュー作『父、帰る』でヴェネツィア映画祭の最高賞である金獅子賞と新人監督賞をダブル受賞。カンヌのコンペに初参戦した2007年の『バニッシュメント』ではコンスタンチン・ラヴロネンコに男優賞をもたらし、“ある視点”部門で上映された2011年の『エレーナ』で同部門の審査員特別賞を受賞した異才監督だ。
 『リヴァイアサン』の舞台はロシア北部のバレンツ海に面した美しい小村。自宅の側で自動車修理店を営むニコライは、美しい若妻リリア、前妻との間にできた息子ロマと平穏に暮らしていたが、彼の商売と土地を狙う悪徳村長からの買収話を断るや執拗な嫌がらせを受けることに。これに対抗するため、ニコライはかつての軍隊仲間で、今はやり手の弁護士になっているドミトリーに相談し、彼をモスクワから呼び寄せるが……。旧約聖書に登場する海獣の名前をタイトルに冠した本作は、圧倒的な自然美を背景にして現代ロシア社会の歪みと、ある家庭の崩壊を力強く描き出した悲劇だ。

 夜の正式上映に先立ち、12時半から行われた『リヴァイアサン』の公式記者会見には、本作の共同脚本も務めたアンドレイ・ズビャギンツェフ監督とプロデューサー、撮影監督、そして俳優のアレクセイ・セレブリャコフ(ニコライ役)、ウラジーミル・ウドヴィチェンコフ(弁護士役)、ロマン・マディアノフ(村長役)、エレーナ・リヤドヴァ(妻役)が登壇した。
 7ヶ月前に本作の撮影を終え、今日という日を楽しみにしてきたと言うアンドレイ・ズビャギンツェフ監督は、本作の構想について、「女友達からコロラドで実際にあった話を聞いた。ある会社の権力に反抗した男性が、自殺をする前に建物を破壊したという。こんな事件は世界のどこでも起きうると思ったので、その語をロシアに置き換えたんだ。さらに言えば、これは旧約聖書の中の哀れなヨブの物語にも通じる物語なので、それに由来する『リヴァイアサン』というタイトルにしたのさ」とコメント。
 また、ロシア正教の司教を登場させた理由について監督は「彼はニコライを助けようとし、神の道を説くピュアな人物なんだ。彼は物語のバランスを取る上で重要なキャラクターになった」と語り、出演俳優たちは口々にズビャギンツェフ監督の演出力と才能を讃えた。
(記事構成:Y. KIKKA)