毎年、秋に東京で開催される東京フィルメックスは、アジアを中心に独創的な作品を世界から集め、注目作や話題作を国内でいち早く招待し上映する国際映画祭。
今回『真夜中の五分前』は第19回釜山国際映画祭で「オープンシネマ」での招待に続き、10月中旬には中国で約4000スクリーンで公開し、同日に上映している作品の中でも郡を抜いて満足度NO.1と好評を博し、先日11月中旬には2014台北金馬影展 Taipei Golden Horse Film Festivalでも招待を受け、21日から台湾でも一般公開され、話題となっております。
そして、本日、東京フィルメックスにて、ジャパンプレミアとして、行定勲監督が駆けつけました。
日本での公開は、12月27日より全国ロードショーとなります。

登壇者のコメントは以下の通りです。

【イベント概要】
◆日程 :11月23日(日)
◆登壇者:行定勲監督(46)

Q)今回上海で撮影されましたが、美術や録音は中国の方。このスタッフの方と仕事をされた経緯から教えてください。

行定:スタッフに関して、中国のスタッフの録音はドウ・ドゥチーさんにお願いしました。台湾ニューウェーブで有名な方なのですが、本当にすばらしい方。
僕自身、一番影響を受けたのが台湾映画。ドウ・ドゥチーさんは、エドワード・ヤンさんと一緒にやっている方。僕が、助監督をしていた時、そのエドワード・ヤンの現場にいた僕の知り合いが、録音機材で困っていて、当時DATという録音機材を使っていたんですが、台湾で入手ができないから、日本からスペアで持って来て欲しい、と。その時に、僕に連絡が来て、台湾に運んで行ったのが、『嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』という作品の現場だったんです。僕の知り合いが、録音部だったので、行ったら、やったこともないのに、(録音用)マイクを持たされて、ちょっと手伝うことになりました。
しばらくしたら、僕が参加したこの『嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』が東京国際映画祭で上映されたので、見に行ったら、本当にすばらしい作品でした。効果音や音楽の音はすばらしいし、出来上がった映画も本当にすばらしい。台湾の撮影現場では、いろいろ大変だったのに、こんなにすばらしい映画ができている。
この現場を見たとき、これは、自分の映画の時にも取り込まないといけない、と思いました。

上海は、騒音が本当にすごくて、特に車のクラクションがすごい。渋滞も何もないのにただ、クラクションならしてる。音なんて撮れたもんじゃない。でも、そういう環境なのに、ドウさんは、「ここはアフレコしなくていい」という。「ホント、大丈夫?」って思っていて、後で聞いた時には、本当に全く遜色ない。時計店(のシーン)での時計の音や秒針の音、時計の音がボーンボーンって、いう音があって、僕が、「ここの音をもう少し増やしたらどうなります?」って相談したことがあって、ドウさんはやってはくれるんです。それで、音を増やしてみたら全然ダメで、それで、いろいろ試してみたら、結局、「やっぱりこれがいい」と思ったのは最初に(やろうとしてた所に)戻りました。本当に、(ドウさんは)仙人みたい。
映画に魂を吹き込むというのは、こういうことだと思いました。
ドウさんは、採った音を3日くらいスタジオにこもって、完全に出来上がったものを聞かせてくる。それはもう完璧で、とんでもない才能の方。

音楽の半野喜弘さんとは、12年前、wowowのドラマ「カノン」でご一緒したことがある。
半野さんは『フラワーズ・オブ・シャンハイ』の音楽をやってらしてた方で、僕がその『フラワーズ・オブ・シャンハイ』が好きなので、今はFacebookでつながっているので、直接「音楽、やりませんか?」ってお送りしたら、数分後に「やります」とお返事を頂きました。細かいこと何もお話してないんですけど。なので次の作品も、半野さんにお願いしようと思ってます。

女性のお客さんより
Q)三浦春馬さんに関して、実際に、撮影する前と撮影後の印象で変わった事は?

行定:撮影前は特に、印象はなかったんです。他の監督の作品を見てもアテにならない、と思ったんです。
一番わかったのは、実直な人。本人は、「面白みのない人間なんです」って言うんですけど、「その面白くない事を披露して欲しい」と、この映画では(と話しました)
この映画は、朝、おじいちゃんとご飯食べて、時計修理して、バイク乗って、プール行って、家に帰って、ご飯食べて、寝る。そして、また次の日、おじいしゃんとご飯食べて、時計を修理して、バイク乗って、プール行って(笑)。これって、普通の日常の生活なので、役作りの仕様がないですよね。だから、時計を修理できるようになって下さい、とは言いました。なので今は、できると思います。精密なものは無理だと思いますが、簡単なものなら、たいがいできます。実直なんで。後は、言葉。すごく実直にやるもんだから、上手くなりすぎる。(会場から笑い)
下手にできないんですよ、覚えちゃってるから。上海に来てまだ1年半という設定にしているので、もっと下手でいいのに(笑) 先生がすごく熱い先生で、その通りにやっちゃったの。実直だから(笑) 
でも、僕からすると、「上手すぎるんだよな〜」(苦笑)と。だって、おかしいじゃん、1年ちょっとしかいない青年なのに・・・ 上手いんだよね(会場からも笑いが)。そういう人です。

Q)シーシーのファンです。シーシーは過去に5、6回日本に来てるのですが、彼女の演技の事やや情報が少ないので、教えて下さい。

行定:彼女は、日本語を覚える気は全くないです。(笑)挨拶くらい。すごくマイペースな人です。
中国で公開できたのは、彼女の力が大きかったと思っています。プロデューサーからは彼女はテレビで人気がある人で、(今回出会った時は)映画での人気は、これからという時でした。
最初に会った印象は、しゃべった声が聞き取れない(笑) ウィスパーボイスで、それがかえって魅力的で、印象に残ったんです。それで、彼女にやってもらおうと。
普通、双子(の役の場合)は、白黒つけたいんです。ただ、僕が言ったのは、「限りなく似ている。ちょっとしか違わない。自分の記憶と相手の記憶がよくわからなくなっている。自分のしたことが相手のことで、相手がしたことが自分のことのように感じている。もう既に、入れ替わってるかもしれない、くらい似ている。」とかいくつか言ったんです。彼女は「とにかく似てるってことですね」と。
撮ってるときはわからなかったんです。でも、編集した時に、彼女のプランがわかったのですが、彼女の中で笑い方を変えているんです。ほんのちょっと違う。並べて見うるとわかるんです。
それと、彼女はアフレコが上手いんです。完璧。普通、あるシーンで、この感情を絶対に再現できないだろう、というシーンが1つあって、それは、完璧でしたね。驚きました。特別な女優さんです。

Q)どうやって、双子を撮ったのか? もう1つ、結局どっちが最後に残ったんでしょうか?
(会場・笑)どっちが・・・なくなったと思われました。
私は、妹の方だと思いました。ただ、最後のシーンを見て、うーん・・・、と。

行定)双子の撮影に関して、実は「円卓」っていう芦田愛菜ちゃんの映画で、3つ子が出てくる。
この3つ子は、絶対勘違いしまうんですが、この3つ子で、練習しました。(笑)この3つ子は完璧。
インタビューを受けた中で、これを見た人は誰も聞かない。それくらい、自然すぎたんだと思います。
この3つ子の時に、習得したやり方があって、ここでは話せません(笑)
昔、デヴィッド・フィンチャーで双子の作品があって、あの時は顔をデジタルで変えてるんです。ただ、日本人でそれをやると、顔に点をつけるんですが、言葉が違うので、顔の動きが複雑すぎて、それは無理。点が何百とあって、映画が1本作れるくらいの予算がかかる。
でも、今回僕がやったことをフィンチャーに教えてあげたい(笑)

そして、最後のシーンですが、どっちか、というとどっちでもいい、と思っている。それを考える事が大事。本多さんの原作も、書いてない。本多さんが、「映画を作るときに白黒つけてくれたらいいですね」っておっしゃって、やってみたら約10年かかって、映画化しました。この間、あるとき(ラストシーンに白黒つけることが)必要なのか・・・。双子で、アイデンティティを疑われることを(恋人や家族から)言われるんですが、これって、誰でもありうると思うんです。例えば、「お前は、こういう人間だ」と言われると、自分はそうかと気づく。「俺が悲観的な人間だ」と、あるときに言われて、後になって何か出来事があって、「これが悲観的だ」って言われることなんだ、と思う。暗示にかかってしまうんです。

出演者も、春馬くんとシーシーでは受け止め方が違います。
見た人それぞれが、その立場によって、受け止めて欲しい。
僕の中には、あります。でも、それは言わない方がいいかな(笑)