「….たからぶね」
 新婚1年目のまだまだ初々しい妻・千春が、トロけるように笑ってつぶやいた謎の寝言。気のいい夫・一夫は何のことやら分からない。叔父から見せられたエロ写真集で「たからぶね」が四十八手の体位であると知った一夫。清純でエロに免疫がないと信じ込んでいた千春の秘密とは….?

 11月15日から十三・第七藝術劇場にて上映が始まったPGぴんくりんく配給のピンク映画50周年記念作品『色道四十八手 たからぶね』。東てる美(『禁断 性愛の詩』75)、美保純(『制服処女のいたみ』’81)、可愛かずみ(『セーラー服色情飼育』82)のデビュー作を手掛け、その魅力を引き出したことでも知られる、ピンク映画の名匠・渡辺護監督が企画原案を務め、制作準備中にガンで逝去した渡辺護監督の意を受け、脚本家の井川耕一郎が脚本・監督を務め、35ミリのフィルム作品が完成した。

 秘め事多き紙相撲好きの若妻・千春を愛すべきキャラとして体現した愛田奈々(『異父姉妹 だらしない下半身』13)。愛妻の秘密を知って叔母と復讐に転じるもどこか抜けている一夫をユーモラスに演じる岡田 智宏(渡辺護監督『喪服の未亡人 ほしいの…』’08)。とぼけた演技が味わい深いエロ事師の叔父役に500本以上の出演作を誇るベテランなかみつせいじ。にんにんく味噌論理で浮気を看破する叔母役に出演作100本越えの佐々木 麻由子(『熟妻と愛人 絶妙すけべ舌』’12)。そして本作のモチーフとなっている四十八手を実録図鑑として見せてくれるのが、こちらも出演作100本越えでピンク映画、インディペンデント映画、舞台と幅広く活躍する ほたると野村 貴浩(『多淫な人妻 ねっとり蜜月の夜 』’11)のコンビという実力派が揃っている。

●井川監督からの手紙 
 公開2日目の11月16日には、第七藝術劇場にほたるさんが駆けつけ、ぴんくりんく編集長の太田耕耘キさんとトークを行った。来阪できなかった井川監督からの手紙がほたるさんによって読み上げられた。

 最高のセックスとは、時間が消失してしまうセックスではないかと考察する井川監督。それを描くために最も適したものは春画やエロ写真ではないか。止まった時間の中でセックスが延々続いていくが、映画の場合時間は止まらない。
「はっきり言って映画は最高のセックスを描くにはあまりに不利な表現方法です。それでも最高のセックスを観せようと悪あがきをして200本以上の映画を撮って来たのが渡辺護でした。
私たちは渡辺護に少しでも近づけたらと思いつつ『色道四十八手 たからぶね』を作りました。
さてその目標がとの程度達成出来たか。皆さんの目でご確認ください」

●「ばか夫婦 春画をまねて 筋ちがい」
 今年1月にシアターセブンで自らの監督・主演作品『キスして。』を上映したほたるさん。作品の準備期間中に太田さんから『色道四十八手 たからぶね』の話を聞き、「出たい!」と自らアピールし、各スタッフが様々な女優さんを押す中、出演に至った。演技の実力はもちろん、結髪・ヘアメイク・衣装のスタッフを付けることが難しい現場で、着物所蔵、着付けやヘアメイクも自分で出来るスキルが喜ばれてのことだった。
「衣装合わせの時に、髪が短い!となって付け毛でボリュームを出したら、重すぎで頭が上がらなくて大変苦労しました(笑
)」
「タイトルが『たからぶね』で、いろんな春画の体位が出てきますがどうでしたか?」
太田さんから質問が。

 ほたるさんは苦笑しながら淡々と答える。
「当日初めて見せられて、これやってくださいって。出来るわけないじゃん、こんなのって(笑)。絵だからね(笑)」

「浮世絵に残っている絵というのはほぼほぼ、あり得ない形を見栄えとして面白いものを表現しているんです。どう見ても入らないだろうという(笑)」

 今回の撮影で難体位に挑んだほたるさんが現場の苦労を語る。
「どうやってもこの手はここから出ないけど、とか。手のサイズも違うし。なんか違うって言われてもどうにもなんない。難しかったですね(笑)重心どこで支えてるの?ってのが結構あって」

「女性も大変だけど男も大変なんですよね。“筋違い”の川柳もありますが(笑)。でも“たからぶね”は一応入るみたいですよ。一度皆さんも確認されたらと思いますが(笑)」
 ほたるさんと太田さんのしみじみとした語りに客席で笑いが起っていた。

●ほたるさん、井川演出を語る
 話は井川監督の演出に移る。井川監督は脚本家としてピンク映画や渡辺監督作品も手掛けたが、監督としてはインディーズ映画の経験のみで、商業映画、ピンク映画は今回初めてだった。
「現場も緊張していたと思うんです。ほたるさんから見て現場の印象は?」

井川監督とは脚本家としてしか会ったことがなく、今回初めて現場で監督として接したというほたるさん。
「面白い人だなって(笑)。テンパってるんだけど、出てくる演出やリアクションが可笑しい。本当に緊張してるのかなと最初は思ったくらい。大物かな(笑)。新人の監督さんが緊張していると心配になるんだけど、それは全くなかったですね。出来ないってことになると、じゃあこうしましょうか、と代案がコロコロ出て来るのであまり不安はなかったです」

 本番は早いがリハーサルは長かったという井川組の現場。
「逆にそれは安心でしたね。こちらがよく分からないうちに撮ってしまうことがなくて。なに分フイルムなので」

●35ミリフィルムへのこだわり
 周囲から“もうフィルムはいいんじゃないか”と言われたと言う太田さん。大蔵映画が月に3本程映画制作や配給を行っているが、今年公開分まではフィルム制作、来年以降はデジタルと決定したという。
「そこはピンク映画50周年ということで制作部のこだわりで。現時点ではほたるさんのフィルム映画としてはこれが最後かも」

「これが最後って言うのを3、4回聞いていて。状況でコロコロ変わるからまだ諦めないでもいいなかって」

 実際には去年フジフィルムが映画用のフィルムの生産を止め、ほぼアメリカからコダック製のフィルムを輸入して使用しており、制作費的に厳しいのでは、と太田さん。ほたるさんが『色道四十八手 たからぶね』と同じ2月に岡山で撮影に入っていた山崎樹一郎監督『新しい民』は、当初フィルムで構想されたが予算的な問題でデジタルで制作された。大阪では佐藤零郎監督が『月夜の釜合戦』16ミリで製作中だ。
「35ミリで撮れなくなったけど、16ミリで撮るとのがポツポツあったりますね」

 自作の『キスして。』では8ミリフィルムを使ったほたるさん。
「フィルムの色って全然違うんですよね。もちろんデジタルの良さもあるんですが、スタッフが居なくて、メイクが自分でちゃんと出来てなくてもフィルムなりの写り方っていうのがあります。綺麗に写るというか。あの良さは絶対に残ってほしいなと思うんです」

●出航した『たからぶね』の行方
 二組の夫婦の修羅場といえばドロドロな展開を予想するが、井川監督の資質かどのキャラも不思議と憎めないカラッとした仕上がりで、ゲラゲラ笑って楽しめる艶噺『色道四十八手 たからぶね』。バースデーケーキプレイやたからぶねなど、実生活でできるかは別として、愛田さんの魅力に翻弄される多幸感に身を委ねたい!
 第七藝術劇場で11月21日(金)まで上映された後、神戸映画資料館にて新発掘された渡辺護監督幻のデビュー作『あばずれ』(’65)とともに12月5日(金)〜9日(火)で上映。予習として11月29日(土)・30日(日)の2日間、井川監督が渡辺護監督の人生と作品にビシビシと切り込んだロングインタビュー『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』と第2部『つわものどもが遊びのあと 渡辺護が語るピンク映画史』が併せて上映される。
 その後は京都みなみ会館にて12月20日(土)〜26日(金)の上映予定となっている。ぜひ繰り返し劇場でお楽しみ頂きたい。

 ピンク映画関連では、シアターセブンにてミスターピンクこと池島ゆたか監督がAV業界最下層のシル男優として働き始めた人生どん底のおやじ3人とスター女優のドキドキ同居生活を描いた“おやじ再生物語”『おやじ男優Z』上映中、11月27日(木)まで。第七藝術劇場にて吉行由実監督が描くボーイズラブ+ヴァンパイアもの『真夜中きみはキバをむく』が11月22日(土)から11月28日(金)まで1週間の上映予定となっている。お見逃しなく!

(Report:デューイ松田)