11月8日(土)『リュウグウノツカイ』の初日舞台挨拶にウエダ アツシ監督が登壇し、映画評論家の田辺ユウキさんとトークショーを行った。

 『リュウグウノツカイ』は、アメリカの漁村で起こった女子高生集団妊娠騒動という実話を元にした作品。開発工事の影響で業業不振にあえぐ日本の漁師町を舞台に、全長4メートル近い謎の深海魚「リュウグウノツカイ」が打ち上げられる。「豊漁の兆候」「災いの予兆」という両極端な言い伝えがある深海魚の出現に町の空気が揺らぎ、出口の見えない日常的な鬱屈感の中、女子高生たちは集団妊娠計画を思いつく。

 今年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭のオフシアターコンペティション部門にて北海道知事賞を受賞。8月の東京・K’s cinemaの上映に続き、関西に登場となった。
 ウエダ アツシ監督は奈良県出身で近畿大学の卒業生。
「帰って来れて嬉しく思います」

●集団妊娠騒動・ウエダ監督はどう見たか?

 彼女たちがどういった思いで行動に至ったのか、ウエダ監督の見解について田辺さんから質問が挙がる。

 ウエダ監督は、映画の中で町がじわじわ経済的に衰退して行く様子が描かれているように、実際こういった背景はアメリカにもあり、アメリカの女子高生たちは作品中の女子高生よりも非行少女だったという。

「そこまで町のことを考えている子たちでもなかったとも思うんですが、そんな背景がなければ行動に至らなかったかもしれない」
 色々なことが複雑に絡み合い、そこに若い子のノリや突発的な衝動が加わったのでは、と推察する。

「女の子だと多分男の子がやらないことをしちゃう。僕もこれだという決め手があるわけではなく、彼女たちの色々な部分を映画の中で見せています。一応ファンタジーとして、魚が上がって来たことがきっかけなんじゃないかという風には見せてますけど、それがきっかけかどうかすらわからない」

 田辺さんは作品の根底にあるウエダ監督の眼差しを指摘する。
「彼女たちが大人たちの抗争劇を見て、反抗心というか抗議活動的に行動に至るように見えるのは、この作品のルック的な部分。ウエダ監督自身が社会に対するフラストレーションがあるんじゃないかと感じる部分があります」

 ウエダ監督はおっさんの自分に女子校生の気持ちはわかるわけがない、と笑った上で、
「自分の高校時代を思い出しながら脚本を書いてましたね。おかしいんじゃないかと思っていた事を取り入れました。
 インタビューシーンは、事件があるとメディアで報道されることを僕らは間に受けることしかできなくて、軽く言ったことが“これが真実です”ってなるのは違うんじゃないかなぁという思いもあって」

●マスコミ出身のウエダ監督だから描けること
ある編集部に上田監督が在籍していたことがあり、その後東京へ。田辺さんがその後入社した。在籍時期はかぶっていないが、同じメディアにいたという縁で1・2回会ったことがあり今回の対談が実現した。

 田辺さんは、ラストシーンに言及し、
「情報発信や報道する場にいた監督が、シニカルにマスコミと言うものを見ているのは。経験があったからこそ感じるものがあったのかなと」

 実際に舞台挨拶の取材や撮影を担当したというウエダ監督。
「報道の構造も知っているわけですから。いかに女子高生たちの無敵感みたいなものを出せるかと。やっていた側だから分かることも確かにあるかもしれないですよね」
 
劇中メディアが2回出て来る。魚が上がったという新聞と女子高生たちのインタビューシーン。真逆のことで報道される2つの事実を象徴にしたかったという。
「魚が死んで打ち上がっている。地震の前触れとか大漁になるとか噂があって、新聞を見た人が勝手に想像する。逆に彼女たちは産むという行動を起こしたことでメディアに取り上げられて、カルト集団ではないかと報道されてしまう。対比として引っ張り出しました」

●セックスシーンを描かなかった訳
田辺さんから気になったこととして、妊娠というテーマを扱っているが、セックスシーンがないことについて質問が。
「それはやっぱり入れないでおこうと?」

 この事件の映画化を考えた当初は、セックスバイオレンスも考えたが、そうではないと思い至ったというウエダ監督。
「背景に彼女たちの家庭の暗い部分があったり、色々抱えている。それを打開しようと行動に出たんじゃないかなと僕自身が思い始めて。どちらかと言えば女子校生に見て欲しいと思ったし、そこは描かなくてもいいんじゃないかと。女子校生がやっていることは嘆かわしいことではあるんですけど」

●世代間の反応の違いは?
 東京公開時の女子校生の反応についてウエダ監督は、
「意外に良かったっすよ、みたいな(笑)。爽快でしたといった感想が多かったですね」
 
 田辺さんは常識で考えると彼女たちの行動は異常かもしれないが、同調出来るところがあるという。
「社会に違和感を持っていて、声を上げても届かない時にフラストレーションがただただ大きくなっていく。彼女たちはモヤモヤした感覚を、カラッとさせようとしたのが自分が置かれているポジションと重なるんです。自分の置かれた立場に不満を抱えて生きている人には、“分かるわー”っていうのはあるかも」

 年代による反応の違いをウエダ監督は
「女子校生たちはインタビューシーンみるとイケイケって感じで。僕はインタビュー側から見ちゃって鬱陶しいな、みたいな(笑)。子供を実際産んだお母さんは、子供を産んでその後どうなるんだろうってことが気になってという意見もありましたし」

 ラストシーンにおけるウエダ監督の意図については、
「大変だと思うんですよ。結局苦労しか待ってないと思います。でも、彼女たちの姿からそんな苦労も乗り越えられるくらいのパワーを感じて頂けたら。そのあとは想像して頂けたらと思います」

 武田梨奈さんや大阪・河内長野出身の樋井明日香さん、他主演女優のみなさんも大阪に来たがっていたが、予算の都合で実現しなかったという。

「“ぜひ感想をネットにあげて下さいとお伝えください”いうLINEが先ほど来ました」

 東京公開時には製作中で、関西が初売りとなったパンフレットもぜひ手にとっていただきたい。
 第七藝術劇場は11月21日(金)まで公開。11月15日(土)から上映が始まった京都・立誠シネマプロジェクトでは、11月27日(木)まで公開され、再び東京に戻り渋谷・UPLINKにて11月29日(土)から公開予定となっている。

(Report:デューイ松田)