第67回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2014】11
朝から晴れ渡り気温も徐々に上昇、まさにカンヌらしい陽気となった20日(火)。河瀬直美監督の『2つ目の窓』(長編コンペティション部門)とハリウッドの人気俳優ライアン・ゴズリングの初監督作『ロスト・リバー』(ある視点部門)の正式上映の場に立ち会った。
◆熱いスタンディングオベーションを送られた『2つ目の窓』の正式上映!
河瀬直美監督は、“監督週間”部門で上映された1997年の『萌の朱雀(もえのすざく)』でカメラドール(新人監督賞)を史上最年少で獲得。2007年の『殯(もがり)森』でグランプリに輝き、2009年には“監督週間”における功労賞である“金の馬車賞”を受賞し、昨年は“長編コンペティション”部門の審査員をも務めた彼女は、まさにカンヌの申し子ともいえる存在だ。そんな河瀬直美監督にとって、2011年の 『朱花の月』以来、4度目のコンペ作となる『2つ目の窓』の正式上映が16時半より“リュミエール”ホールで行われた。
レッドカーペットには河瀬直美監督、吉永淳、村上虹郎、松田美由紀、村上淳、渡辺真起子の6人が、公式記者会見時とは装いをガラリと変え(吉永淳は着物姿からブルーのベアトップ・ワンピースに、村上虹郎はカジュアル・スーツからブラック・フォーマルに、残る4人は洋服から和服へと御召し替え)て登場。会場入りの直前、地元ジャーナリストからコメントを求められた河瀬直美監督は、あらためて「この作品は私の最高傑作です」と誇らしげにキッパリと答え、その自信のほどをうかがわせた。
刺青、銭湯、居酒屋など、海外受けする日本独自の文化を意識して盛り込みながら、自然と人間の共生を謳った『2つ目の窓』に対する観客の反応は上々で、上映後に12分間にもおよぶ熱いスタンディング・オベーションをおくられた河瀬直美監督とキャスト陣は、感極まった表情で涙を浮かべながら手を振って応え、深々とお辞儀をした。正式上映後の興奮がやまぬ中、カンヌ入りした関係者一同は、上映会場近くにあるハーバーに停泊する船に移動し、19時から催された内輪の船上パーティに参加。その後、カンヌ市内にあるクラブ・シレンシオ(デヴィッド・リンチ監督が空間コンセプトから家具にいたるまでを手掛けてプロデュースしたパリ2区にある会員制クラブのカンヌ店)に場所を移し、日本人報道陣向けの囲み取材を行った。
◆ライアン・ゴスリングの初監督作『ロスト・リバー』のソワレは黒山の人だかりに!
“ある視点”部門にて、14時〜と22時〜の2回上映されたライアン・ゴズリングの監督デビュー作『ロスト・リバー』のソワレ上映を“ドビュッシー”ホールで鑑賞した。
ハリウッドの人気スターが会場入りするとあって、上映会場付近は尋常ならざる混雑ぶりで、劇場はあっという間に満員御礼となり、入場できなかった観客と野次馬で黒山の人だかりとなった。
ライアン・ゴスリングはカナダの子役出身で、『タイタンズを忘れない』『完全犯罪クラブ』で頭角を現し、『きみに読む物語』で大ブレイク。その後もハリウッドで次々と話題作&ヒット作に主演し、クセのある役柄をも得意とする若手人気スターだ。そんな彼が、自らが脚本を執筆して監督業に挑んだ『ロスト・リバー』は、過疎と荒廃が進み、閉塞感が蔓延する田舎町を舞台に、2人の子供を持つシングルマザー(クリスティナ・ヘンドリックス)と彼女の18歳の長男が現状を打開&サバイバルすべく、もがいていく様をシュールかつヴィヴィッドな映像で描写したアート志向の強い怪作で、2人の鬼才監督、デヴィッド・リンチとニコラス・ウィンディング・レフンの影響をモロに伺わせる作風であった。ちなみに、昨年、ライアン・ゴスリングが主演した朋友ニコラス・ウィンディング・レフン監督作『オンリー・ゴッド』が “長編コンペティション”部門に出品されたのだが、本作『ロスト・リバー』の撮影真っ只中であったゴスリングはカンヌ入りを断念したという経緯がある。
また本作では、ゴスリング自身は監督業に専念、出演してはいないのだが、キャストの顔ぶれが実に豪華で驚いた。シアーシャ・ローナン、エヴァ・メンデス、マット・スミスら名の知れたメジャー俳優を集めてきた人脈の広さは流石で、並の新人監督にはマネの出来ない芸当であろう。
『ロスト・リバー』のソワレ上映前に出演者たちと登壇して舞台挨拶し、観客の大声援を受けたライアン・ゴスリングは、俳優陣と一緒に中央の座席で自作を鑑賞。上映後のスタンディング・オベーションに、顔を上気させていたのが印象的であった。
(記事構成:Y. KIKKA)