映画祭6日目にして初めて降雨&強風に見舞われた19日(月)。降雨は、にわか雨が一時的に降った映画祭開催前日の13日以来である。本日“コンペティション”部門で正式上映されたのは、アメリカのベネット・ミラー監督の『フォックスキャッチャー』とカナダの巨匠デヴィッド・クローネンバーグ監督の『マップス・トゥ・ザ・スター』。招待部門では人気俳優ガエル・ガルシア・ベルナルが出演したアルゼンチンのパブロ・フェンドリック監督作『エル・アルドル』とドキュメンタリー映画1本を上映。“ある視点”部門にはフランスのパスカル・フェラン監督作『バード・ピープル』などの3作品が登場。“カンヌ・クラシック”部門では、スチュワート・クーパー監督の『オーバーロード』(1975年)とドキュメンタリー映画1本が上映されている。


◆新顔ベネット・ミラー監督はオリンピック金メダリスト殺人事件の映画化でコンペに参戦!

 劇映画初監督作『カポーティ』(2005年)でフィリップ・シーモア・ホフマンにアカデミー賞主演男優賞をもたらし、続くブラッド・ピット主演の野球映画『マネーボール』(2011年)も高く評価されたアメリカの俊英監督ベネット・ミラーのカンヌ初参加作品となった『フォックスキャッチャー』は、1984年のロス五輪のレスリング競技で共に金メダルを獲得したシュルツ兄弟と彼らを支援した億万長者ジョン・デュポンをめぐるドラマで、デュポンが兄のデイヴ・シュルツを殺害するに至った過程を描いた実話の映画化だ。原作は弟マーク・シュルツの自叙伝。
 ロス五輪金メダリストのデイヴ(マーク・ラファロ)とマーク(チャニング・テイタム)のシュルツ兄弟は、デュポン財閥の御曹司ジョン・デュポン(スティーヴ・カレル)の誘いを受け、彼が出資するレスリングチーム「フォックスキャッチャー」に所属することに。2人は1988年のソウルオリンピックを視野に入れたハイレベルなトレーニングに励み始めるが、1996年の1月、デイヴが妄想型統合失調症を患っていたジョンに射殺される悲劇が起き……。チャニング・テイタムもマーク・ラファロも本物のレスリング選手にしか見えないほど素晴らしいのだが、何といっても特殊メイクでデュポンになりきったカレルの怪演に目を奪われる秀作だ。

 朝の8時半からの上映に続き、11時から行われた本作の公式記者会見にはベネット・ミラー監督とプロデューサー2名、そして主演俳優の3人、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ、スティーヴ・カレルが登壇した。
 見事な体作りとレスリング技を披露し、コーチ役でもある優秀な兄に依存気味だった弟を繊細に演じたチャニング・テイタムは、「撮影前の6ヶ月に渡って激しいトレーニングを積んだよ。それもマーク・シュルツ本人の下でね。彼は撮影中も見守ってくれた。とても助かったけれど、同時に少々怖じ気づいてしまったよ」と語り、一方のマーク・ラファロは、「実際に事件に関わった人と、登場人物について調べたよ。この悲劇をより理解するため、あらゆる側面をジャーナリストなみに探求したんだ」とコメント。また、第一級のコメディ俳優として知られるスティーヴ・カレルは、シリアスかつ悲劇的な役柄に関して「演技へのアプローチはコメディを演じる時とまったく変わらない。だって映画の中の人物は、それが悲劇か喜劇かなんて全く意識していないんだから」と述べた。
 顕微鏡を使うが如く、この物語の内側の細部に迫ったと自負しているというベネット・ミラー監督は、自作『カポーティ』でも作家トルーマン・カポーティに成りきって魅せ、絶賛されたフィリップ・シーモア・ホフマン(今年の2月2日に薬物中毒で急逝、享年46歳)について問われると、一瞬絶句。声を詰まらせ、涙を浮かべながら「フィリップを始めとして、僕を信じてついてきてくれた俳優たちに、残りの人生、ずっと感謝し続けたい」と述べるや、マーク・ラファロも思わず貰い泣き。隣席のチャニング・テイタムが2人をいたわっていた姿が印象的だった。


◆カナダの巨匠は、欲望渦巻くハリウッドで狂騒を繰り広げる業界人たちの姿を描いた風刺劇でコンペに参戦!

 1996年の『クラッシュ』で審査員特別賞に輝き、1999年には“長編コンペティション”部門の審査委員長を務めたカナダの巨匠デヴィッド・クローネンバーグ監督の5度目のコンペ作となる『マップス・トゥ・ザ・スター』は、娯楽産業の都ハリウッドに蠢く業界人たちの狂騒をあるセレブ一家の闇を軸にして描いたブラックな群像劇で、キャリア初のアメリカ撮影を敢行した意欲作である。
 ワイス家は豪邸に暮らす典型的なハリウッド一家だ。父親のスタフォード(ジョン・キューザック)は成功した精神分析医で顧客は有名なセレブたち。母親のクリスティーナ(オリヴィア・ウィリアムズ)は人気子役スターである13歳の息子ベンジー(エヴァン・バード)につきっきりだ。娘のアガタ(ミア・ワシコウスカ)には放火癖があって、フロリダの療養所を出たばかり。故郷に戻って来たアガタはリムジンの運転手ジェローム(ロバート・パティンソン)と親しくなるが、彼は目の出ない俳優&脚本家だった。薹が立ち人気に翳りが見え始めた女優ハヴァナ(ジュリアン・ムーア)はスタフォードのクライアントで、60年代のスター(サラ・ガドン)だった母親の悪夢に悩まされていたが、アガタを付き人見習いとして雇うことにし……。

 夜の正式上映に先立ち、12時半から行われた本作の公式記者会見には、デヴィッド・クローネンバーグ監督、脚本家のブルース・ワグナーとプロデューサー3名、そして出演陣のジュリアン・ムーア、ロバート・パティンソン、ジョン・キューザック、ミア・ワシコウスカ、サラ・ガドン、エヴァン・バードが登壇した。
 ジュリアン・ムーアとジョン・キューザックは濃密でユーモラスかつシリアスな脚本と監督を賛辞し、「素晴らしいキャストに囲まれたので演出は実に楽だった」と述べたデヴィッド・クローネンバーグ監督は、「この作品はハリウッドへの攻撃ではないし、そんな視点で捉えてもいない。これらの物事はウォールストリートでも、ワシントンでも起こり得る。これは成功し、お金を稼ぐために闘う人々の物語なんだよ」とコメント。クローネンバーグ監督の前作 『コズモポリス』(2012年)にも出演したロバート・パティンソンは、前作ではジュリエット・ビノシュと、本作ではジュリアン・ムーアと、2作続けて熟女を相手にリムジン車内でのSEXシーンを演じており、そのことに関して質問が飛ぶと、「またクローネンバーグ監督と一緒に仕事ができて、本当に幸せで、とても興奮したよ」と苦笑いしながらコメント。
(記事構成:Y. KIKKA)