映画祭5日目の18日(日)。“コンペティション”部門では、名優トミー・リー・ジョーンズの監督第2作目『ザ・ホームズマン』、イタリアのアリーチェ・ロルヴァケル監督の『ザ・ワンダーズ』が正式上映。“ある視点”部門では3作品が上映され、“ミッドナイト・スクリーニング”部門にはオーストラリアのデヴィッド・ミショッド監督作で、ガイ・ピアース、ロバート・パティンソンが共演した『ザ・ローバー』が登場。“カンヌ・クラシック”部門では、ジャン=ポール・ラプノー監督の『城の生活』(1965年)、ジャン・ルノワール監督の『牝犬』(1931年)などの4作品が上映されている。


◆アメリカのベテラン俳優トミー・リー・ジョーンズが長編監督2作目の『ザ・ホームズマン』で参戦!

 自ら主演した2005年の監督デビュー作『メルキダス・エスキラーダの3回の埋葬』で、自身の男優賞と脚本賞(ギジェルモ・アリアガ)の二冠に輝いた名優トミー・リー・ジョーンズ(日本でも缶コーヒーのCMシリーズでお馴染みで、とてもファンが多い!)がカンヌに帰って来た。
 『ザ・ホームズマン』はジョン・ウェインの遺作『ラスト・シューティスト』の原作者として知られる作家グレンドン・スウォーサウトの同名小説を映画化した時代劇だ。
 1850年代、開拓時代の米国西部。精神を病んだ3人の女性をネブラスカからアイオワの療養所まで引率することになった独身の元教師メアリー(ヒラリー・スワンク)は、偶然知り合った怪しげな流れ者のジョージ(トミー・リー・ジョーンズ)と取引し、旅に同行してもらうことにするが…。アメリカの歴史の暗部に迫った女性映画でもある本作で、ヒロイン役のメアリーは物語の前半を牽引するが、中盤以降の物語はジョージが主体となるので、その構成に馴染めるかどうかで評価が割れる作品である。

 朝の8時半からの上映に続き、11時から行われた本作の公式記者会見には監督&主演のトミー・リー・ジョーンズと共演したヒラリー・スワンク、ミランダ・オットーとソニア・リクター、そしてリュック ベッソンら4人のプロデューサーが出席した。
 撮影を振り返り、監督と俳優を兼務することは別段難しくなく、問題だったのは天候の方だったと述べたトミー・リー・ジョーンズは、19世紀の女性の狂気について書かれた本を資料にし、「アメリカの隠された歴史を、独自の視点で描きたいと思った。馬や幌馬車は出てくるけれど、ヒーローはいない。この映画の題材は女性だ。それも精神を病んだ女性なんだよ」と語った上で、「この会場にいる女性で、性別のせいで何らかの差別を受けたり、自分を卑下してしまったことのない人などいないと思う。その理由と、その歴史に私は興味があるんだ」とコメントし、会場は拍手に包まれた。
 また、本作のプロデューサーを務めたリュック・ベッソンは「この映画はヨーロッパでは知られていないアメリカの歴史を描いている。開拓時代はこれほど過酷であり、アメリカンドリームに至る前はどんな状態だったのかを知ることができる作品なんだ」と語った。
 一方、監督とイタリアンレストランで会い、機知に富み、不屈の精神の持ち主であるメアリー役をオファーされたというヒラリー・スワンクは、「私が演じてきた役柄には深く強い女性が多いんです。本作のメアリーもそうですが、彼女のような徳のある強いキャラクターを演じるのは大切なことです」と語り、精神に異常をきたす女性を演じたソニア・リクターとミランダ・オットーは、役作りと演技のメンタル面についてをコメントした。
 また、風の音を効果的に使ったオリジナリティあふれる音楽について問われたトミー・リー・ジョーンズは、我が意を得たりという表情で「音楽には特に気を使った。空の水タンクの内側にマイクをつけてピアノ演奏したりね。19世紀音楽の専門家にスーパーアドバイザイザーになってもらい、僕の実の息子の助力も得ているんだ。息子はバンジョー弾きの役で出演させたよ」と返答した。


◆イタリアの新鋭女性監督の初コンペ作『ザ・ワンダーズ』は珠玉の家族ドラマ!

 アリーチェ・ロルヴァケル監督は“監督週間”部門で上映された2011年の長編劇映画デビュー作『天空のからだ』で高い評価を得た32歳の気鋭監督で、本作『ザ・ワンダーズ』にも出演するイタリアの若手実力派女優No.1のアルバ・ロルヴァケルは、実の姉である。
 イタリア唯一のコンペ選抜作品となった本作は、アリーチェ・ロルヴァケル監督が自らの体験を基にして脚本を書いた家族ドラマで、北部イタリアの田舎で養蜂を営む一家の姿を4姉妹の長女を中心にして描き出し、のどかな時間が流れる昔ながらの農家に訪れる小さな変化の兆しを丁寧に掬い取って魅せた佳作だ。
 ドイツ人の父親が作り上げた王国のような農場で暮らす養蜂一家。仕事を取り仕切るのは12歳の長女ジェルソミーナで、3人の妹達は彼女に従って働いていた。ある夏、ドイツ人少年がリハビリプログラムで農業体験にやって来た矢先、村を訪れたテレビ番組のクルーに村自慢コンテスト番組への参加を持ちかけられたジェルソミーナは……。
 
 16時半からの正式上映に先立ち、12時半から行われた公式記者会見には、アリーチェ・ロルヴァケル監督、出演者のモニカ・ベルッチ(コスプレ姿で登場するテレビ番組のレポーター役)、マリア・アレクサンドラ・ラング(長女役)、アルバ・ロルヴァケル(母親役)、サム・ルーウィック(父親役)らが登壇した。
 実際に養蜂農家で育ったというアリーチェ・ロルヴァケル監督は「この映画は馴染みのある環境を描いた個人的な作品です。家にいるような感覚で作品を作りたくなったので、蜜蜂の出てくる映画を作りました。実体験そのままではありませんが、いずれにせよ自叙伝的な作品といえます」とコメント。さらに、影響を受けた監督としてロベルト・ロッセリーニの名を挙げたロルヴァケル監督は、「本作は現実にしっかり根付いた、少しあけすけな寓話です。影響を受けた映画は、とても多いのですが、映画に限らず、文学や、人生などからもインスピレーションを得ています」と付け加えた。
 また、演じた母親役について問われた監督の実の姉アルバ・ロルヴァケルは「平和を象徴する役柄だと思います。妹とは、とても自然かつ緊密に仕事ができました。子役たちとも、あっという間に、家族のように親しくなれました」と返答。
 この会見では、助演ながら強烈な印象を残したイタリアの大物女優モニカ・ベルッチに多くの質問が飛んだが、コメントする姿は実に貫禄たっぷりで、出演の理由を「主演か助演かは関係ありません。数分の出演であっても力強いメッセージを発することが出来るかどうかです。強烈な役を演じ、観客に何かを伝えることが大事です。ぶっきらぼうな役でもたくさん学ぶものがありますからね」と語った。
(記事構成:Y. KIKKA)