アジアの新たな才能が魅せる!
オリジナリティ溢れる“極寒サスペンス”の作り方を探る!

 心身共に傷を負った孤独な元刑事を主人公にした『薄氷の殺人』は、一見オーソドックスなミステリー劇として進行しながらも、ジャンル映画の枠には収まりきらない異形のスリルをみなぎらせていく。中国の地方都市を舞台に、雪に覆われた屋外スケート場などの風景を独特のカメラワークで捉え、大胆なリズムの編集を施した映像には、そこはかとない虚無感や緊張感が混在し、観る者の感性を刺激してやまない。撮影前に『第三の男』『黒い罠』といったフィルムノワールの名作を参照したというディアオ・イーナン監督のシネフィル的なセンス、そして経済発展が目覚ましい大都市とはまったく異なる時間が流れる中国北部の現実を見すえた鋭い眼差しが、生々しいリアリティと得体の知れない不条理性が渦巻く斬新なヴィジュアルに結実した。

<概要>11月14日(金)20:20スタート 場所:ブロードメディア・スタジオ月島試写室

<挨拶>(日本語で)こんばんは。 今日は、私の映画を観に来てくださってありがとうございます。今回で日本に来たのは3回目なのですが、日本が大好きです。最初に日本に来たのが2000年の時ですが、その頃はまだ映画を撮っていませんでした。今回、こうして自分の新しい作品を持って日本に来ることができて、本当にうれしく思っています。今日は、みなさんのご意見をどんどん聞かせて頂いて、お話できればと思います。

<質疑応答>
Q.映像美溢れる印象的なショットが沢山あり、ただのサスペンス映画ではないオリジナリティのある映画だと感じました。特に印象に残っているのは、『薄氷の殺人』というタイトルにも関連してくるアイススケートの靴を使った殺人です。もともと、“アイススケート”を題材にしようと決めていたのでしょうか?

A.どのようなアクションで殺人を犯すかというのは、長い間考えました。バイオレンスの部分を上手く作ることで、一味違うフィルムノワールの雰囲気を出さなければと思ったのです。そして、スケート靴の刃で殺害するという、シンプルで、かつ美しい方法を思いつきました。しかし思いついたのは良いのですが、「どのように撮るか」が難しかったですね。撮影現場で俳優にいろいろな動作を試してもらいました。そこで不意に長回しで美しく撮れたのが、皆さんにご覧頂いたスケート靴での殺人シーンです。実は、制作会社には夏の時期に撮ってくれと言われたのですが、冬じゃないとスケート靴が使えないから、冬に撮影しました(笑)

Q.謎の女ウーを演じたグイ・ルンメイは台湾出身の女優だが、彼女を起用した経緯を教えてください。

A.グイ・ルンメイは清楚なイメージがあります。そのイメージは、周りに憐れみをかうような、ついつい彼女を庇ってあげたくなるようなイメージです。一方、胸の内に秘めた複雑な思いを表現できる魅力も持っています。外見の清楚さと内面の複雑さが綱引きをするような雰囲気が好きで、彼女を起用しました。そして、肉体美をもって男性を誘惑するような雰囲気ではないのに、なぜか男性が惹かれてしまう危うさが素晴らしい。

Q.ハルピンや撫順(ブジュン)で撮影したということで、気温はマイナス30℃〜40℃くらいだと思うのですが、もっと暖かいように感じました。

A.冬の夜の街には、ネオンサインによって様々な色合いが出てくる。その色が、温かみを醸し出しているのかもしれないですね。そしてファンタジックにも感じのではないですか?実際はものすごい寒さで、とても苦労しました。モニターが見えない中で撮影したり、カメラが動かなくなることもありました。もし、美しく白い雪景色を撮ってしまったら、あまりにも詩的で情的な景色になってしまう。私はそういう美しい景色はいらなかったんです。むしろ、汚れた雪景色を好みました。

Q.主人公が踊る重要なシーンとエンドロールで使われている音楽が印象的ですが、この音楽は監督のこだわりでしょうか?

A.実はもともと、あのシーンでは「YMCA」を使おうと思っていたんだけど、あまりにも相応しくなくてね(笑)。だから、欧陽菲菲(オーヤンフィーフィー)さんの曲にしました。「YMCA」だったら全く雰囲気が違っていたでしょうね(笑)