11月8日(土)、大阪市淀川区の第七藝術劇場にて『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』の公開初日トークショーが行われ、監督の井川耕一郎さん、関西のR18映画の情報誌『ぴんくりんく』編集長の太田耕耘キさんが登壇した。
 200本以上の劇場作品を監督し、職人監督としてピンク映画を支えて来た渡辺護さんの自伝的ドキュメンタリー第1部であるこの作品。第2部『つわものどもが遊びのあと 渡辺護が語るピンク映画史』 、第3部〜第6部「渡辺護が語る自作解説」(1) 、第7部〜第10部「渡辺護が語る自作解説」(2)と全10部、計約8時間に及ぶ長編ドキュメンタリーの大いなる序章で昭和史としても興味深い。
 俳優の経験もある渡辺さんの口跡は明朗で、時代背景と共に語られる子供の頃の記憶に残る映画的な光景が印象的だ。

●ピンク映画の制作延期が
ドキュメンタリー制作に!
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 1989年の『生板本番 かぶりつき』以降は数年間隔で監督業を務めることが多くなった渡辺さん。2008年の『喪服の未亡人 欲しいの』の後、新たなピンク映画の企画が持ち上がり、井川さん脚本で準備に入るも制作が延期となった。
 井川さんは、意気消沈する渡辺さんにドキュメンタリーの撮影を持ちかけた。
「ぼーっとしてても仕方ないから、何かやりましょうで始まりました。渡辺さんが自分の人生とピンク映画を語るということで」

 自ら渡辺護一門の末弟であるという太田さんは撮影の様子をこう語る。
「井川さんが粘着質な性格で、ネチネチ渡辺さんに聞いて行くんですね。より精度を高めるために。
渡辺さんが“太田よ。井川には嫌になっちゃうよ。警察の取り調べを受けているみたいだ”とボヤいていました(笑)」

 にこやかな井川さんだが、作品中では太田さんの指摘どおり、井川さんの激しい追及に渡辺さんがたじたじとなる場面も。超ロングインタビューをやり遂げた井川さんは渡辺さんについて、
「普通、“理屈じゃないんだよ”という時は、議論は終わりにしようという時に言うんですけど、渡辺さんは与えられた理屈を拒否して経験を元に考えたことを喋ります。一番理論家かもしれない」

「“要するに”が長いのが井川監督。どっちもどっち(笑)」
すかさず太田さんが笑いを誘う。

 『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』は2009年12月に撮影開始、2011年に完成した。その時井川監督は、2013年に渡辺監督が亡くなるとは思っていなかったという。

●渡辺さんの遺志を継いだ『色道四十八手 たからぶね』
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 2013年、PGとぴんくりんくの企画で“ピンク映画50周年記念映画”が渡辺さんに依頼された。四十八手と春画を題材にした企画・原案で制作準備に入った渡辺さんだったが、11月3日に倒れ緊急入院となってガンが発覚した。そして12月24日に急逝。
「井川に任せろ、制作を中止するな」
という渡辺さんの遺志を継いで井川さんが脚本を担当し、『色道四十八手 たからぶね』の監督を務めた。

 井川さんは『片目だけの恋』で脚本家として渡辺さんとタッグを組んでおり、『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』までに色々話をする機会があったが、インタビューで初めて語られたことがいくつかあったと言う。
 一つは10歳の頃に結核で亡くなった兄のこと。東大美学美術史科に通っていた兄が遺したたくさんの映画雑誌が渡辺さんの映画の見方を培ったという。
「“兄貴は憧れだった”とあんなに素直に言うのに一番驚きました。渡辺さんが言うようにお兄さんが素晴らしい人だったかは正直わからない。渡辺さんの中ではお兄さんの意志を継いで自分は監督になったという思いがずっとあったと思います」

 もう一つは1952年の血のメーデー事件で亡くなった幼馴染の高橋正夫さんのこと。作品中で渡辺さんはこう語っている。
『あいつは凄い奴だった。生きていたらどうなっていたか』

 井川さんは「渡辺さんは高橋正夫という人間を愛していたと思う」と語る。
「渡辺さんは死んだ人の思いをキチンと受け止めて、自分はどう生きるべきか考えていた人。そんな人に“井川、『色道四十八手 たからぶね』頼む”って言われたのは、….僕は立派な人間ではないから無理です、という思いがありましたが、渡辺さんにそう言ってもらえたから撮りました」

●11/15(土)公開!『色道四十八手 たからぶね』
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 『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』は11月14日(金)まで上映。最終日は太田さんの舞台挨拶を予定。上映期間中はポストカードと『色道四十八手 たからぶね』作品カットフィルムがプレゼントされる。

 そしていよいよ11月15日(土)からは『色道四十八手 たからぶね』が11月21日(金)まで公開!11月16日(日)は出演のほたるさんのトークショーも予定されているためぜひ劇場にお運び頂きたい。

 井川さんは、
「もし良かったら来週『色道四十八手 たからぶね』ご覧になってください。面白かったら渡辺さんの力だと思う。渡辺さんならどう撮るだろうとずっと考えながら撮っていました」
と万感の想いを込めて語った。

 なお、この作品には特撮が組み込まれている。渡辺さん存命時にアニメーション作家のにいやなおゆきさんと打ち合わせまでしていたという。
「ピンク映画で特撮とは何だ?と言うのは観てもらうとわかります(笑)」

●幻の渡辺護監督デビュー作『あばずれ』12月に上映決定!
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 『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』では、渡辺さんが幼少の頃から監督デビュー作『あばずれ』に至るまでが語られているが、渡辺さん、井川さんとも『あばずれ』のフィルムが現存しないものとして話をしていた。ところが2014年に『あばずれ』の16mmプリントが発見されるという奇跡が起こり、12月5日(金)〜9日(火)に『色道四十八手 たからぶね』と共に神戸映画資料館にて上映予定となっている。その前の11月29日(土)・30日(日)は、『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』と第2部『つわものどもが遊びのあと 渡辺護が語るピンク映画史』が併せて上映される。

 井川さんはぜひ『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』を観た上で『あばずれ』を観て欲しいと語る。

「渡辺さんが『あばずれ』について語っているけど、本当にそういう映画なのか?というところを12月に確認して頂けたら(笑)」

(Report:デューイ松田)