10月25日(土)より絶賛公開中の『トム・アット・ザ・ファーム』。見終った後、その世界観に引き込まれ放心状態になる人が続出。監督&主演を務めるグザヴィエ・ドランに絶賛の声が数多く寄せられるなど現在大きな反響を呼んでいます。その公開を記念し、お菓子研究家の福田里香さんと文筆家の岡田育さんによるトークイベントが行われました。

・日時:2014年10月29日(水)
・場所:渋谷アップリンク(http://www.uplink.co.jp/)
・ゲスト:福田里香(お菓子研究家)、岡田育(文筆家)

グザヴィエ・ドラン監督&主演作『トム・アット・ザ・ファーム』の公開記念イベントに、お菓子研究家の福田里香さんと文筆家の岡田育さんが登壇し、鋭い視点で本作を解説した。主人公の青年トム(ドラン)が、亡き恋人の葬儀のために彼の実家を訪れるシーンから始まる本作は、その状況や登場人物の心情がほとんどセリフで明言されぬまま物語が進む。「ドラン監督は、脚本を徹底して映像に落とし込み、言葉の外で構造をわからせようとする」と岡田さんが指摘するように、本作を読み解くヒントとなる映像表現がいくつもある。

■冒頭の“割れメガネ”が怒濤の展開を匂わせる

「すごくいいメガネ男子映画」だと本作を形容する福田さんは、映画冒頭でトムのメガネが亡き恋人の兄フランシスによって割られるエピソードに対して、「メガネというのは一枚のレンズを通して見るものだから、“私は冷静です”、“私は部外者です”という象徴だったんです。だけどお兄さんに割られたためにトムは焦点を失い、そこから迷走していく」と解説。岡田さんも「メガネは文明や理性の象徴でもある。割れてしまったメガネは、あの農場にとどまる限り、直せないわけです」と、その後のトムが置かれる危険な状況を割れたメガネが表わしていると説明した。

■縦型“ブラインド”はまるで牢獄の鉄格子!?

トムがフランシスに言われるがまま数週間を過ごす家について、「他の部屋のブラインドは横線スリットなのに、なぜかトムが泊まる兄弟二人の部屋だけ縦線スリット」と、福田さんはブラインドに注目。「縦線スリットは、パッと見ると牢獄の鉄格子に見える。だから観客は無意識下でドアに鍵をかけられたらトムは出られない、と感じてしまう。だけど最後にトムがブラインドをさらっと撫でるシーンを入れることで、全てはトムの心の問題だと象徴していて唸らされました」と話した。

■イケメン、ドランの噛み散らかした“爪”

この映画は、トムが爪を噛むシーンが何度か出てくる。「爪を噛む音が、我が身を削る音のように響いて、爪ばかり見てしまった」と岡田さんは言う。トムに扮するドランの、噛み散らかした爪については、「もう血まみれ寸前ですよね。単に役作りで噛んでみたってレベルじゃない、普段からずーっと爪を噛んでいる男でないとあんな深爪にはなりませんよ。前作『わたしはロランス』でも主人公が指を噛むような描写がありましたが、ドラン自身もずっと爪を噛みながら創作しているんでしょう。顔はイケメンなのに、爪には天才の狂気が宿っています」と語った。グザヴィエ・ドラン映画は、見落としてしまいそうな細かい描写に、映画を理解するヒントが隠されているのだ。