ハンガリー出身の亡命作家アゴタ・クリストフの驚愕のベストセラーが、出版からほぼ30年を経て遂に映画化されました。数々の文学賞に輝いた珠玉の小説の映画化は、これまで、ポーランドのアグニエシュカ・ホランド監督(『ソハの地下道』)やデンマークのトマス・ヴィンターベア監督(『偽りなき者』」)などが映画化権を獲得しながらも、実現に至らなかった。この、映像化不可能と言われてきた作品が、ついに出版からほぼ30年を経て、見事に映画に変換された。

両親と離れて別世界にやって来た少年たちが、過酷な生活のなかで肉体と精神を鍛え、実体験を頼りに独自の世界観を獲得し、大人も信用できない混沌とした戦時下を彼らのルールで生き抜いていく—。アゴタ・クリストフによる原作は、双子たちの日記という体裁をとり、殺人も躊躇しない彼らの行動が簡潔に綴られたもの。1986年にフランスで刊行されると、ほぼ口コミによりベストセラーとなり、40にもおよぶ外国語に翻訳され、全世界を熱狂の渦に巻き込み、日本でもブームとなりました。

フランスで本作と出会い、出版社に翻訳を掛け合い「悪童日記」を世に生み出した、翻訳者・堀茂樹さんとミステリー・プロパーの読者であるライター・杉江松恋さんと倉本さおりさんのトークベントが開催されました。

●まず、「悪童日記」と堀さんの出会いは?
大学を卒業し、パリを漂流している時に、初めて読んであまりの面白さにすぐ読んでしまった。そして続編をすぐに手に入れ読んで、これは本物だと思って、驚いた。
自分は失うものは何もなかったから、早速、日本の3社の出版社に同時に売り込みました。本来してはいけないことらしくて、それで怒られたりしたんだけども(笑)。出版しても、すぐドッと売れたわけではなく、いい書評がでて、口コミなどもあって、ジワジワと売れていったんです。

●来日の際にも通訳としてアゴタと同行。アゴタ・クリストフ本人の魅力は?
究極に強い人という印象。淡々としていて、かといって決して偉そうではない。飾り気のない人。話していると大きな眼鏡と、大きな瞳でじっとこちらを見てくる。相槌を打つわけでもなくじーっと。そんなことされるとウソがつけないというか、ごまかせない、と思いますよ。

●「悪童日記」の魅力は?
すごくラディカルだと思います。アゴタが元々ラジオドラマとか、舞台の脚本を書いていた人なので、戯曲的な人だと思います。登場人物の心情を書くのではなく、行動することのみ、事実のみを書くのだと思います。陶酔的なところもなく、テクニカルなからくりにも頼らず、人間の生きる条件をつじつまあわせで解決しないで提示していると思います。怒り、悲しみ、喜びなどもとてもピュアで果てしない。

とアゴタと作品の魅力を語りました。会場に詰めかけた熱心な読者の方からの質問も多く、堀さんとアゴタとの貴重なエピソードも語られ、会場は熱気につつまれました。