韓国のみならず、ヨーロッパでも絶大な人気を誇り、近年、特集上映をきっかけに日本でもファンが急増しているホン・サンス。そのホン・サンスが昨年発表した恋愛映画の新作2本『ヘウォンの恋愛日記』、『ソニはご機嫌ななめ』の公開を記念して、『ソニはご機嫌ななめ』の上映後に、シネマート新宿にて落語家の立川吉笑さんをお招きして新作落語のご披露とトークイベントを行いました。

ホン・サンス映画に落語との共通点を感じたと言う、立川吉笑さん。『ソニはご機嫌ななめ』に登場する女性に翻弄される3人の男をイメージした、シュールな落語をご披露いただき、その後、落語家から見たホン・サンスの世界についてお話しいただき、客席は爆笑の連続でした。

【開催概要】
日程:8月30日(土)16:15−16:55 
場所:シネマート新宿 スクリーン2(新宿区新宿3丁目13番3号 新宿文化ビル7F) 
登壇者:立川吉笑さん(落語家)

【トーク内容】
立川さん:ある日、『ソニはご機嫌ななめ』の配給会社のビターズ・エンドの方からメールが来たんです。それが映画の終わった後に落語をやりませんか、という依頼だったんです。まず、どういうつもりなんだ、罠かなと思いました(笑)。映画と落語、接点ありませんからね。 映画の好きな落語家も師匠もいっぱいるのに、映画にそんなに詳しくない僕になんでだと尋ねました。そしたらどうやら本気で言ってるということがわかりました(笑)。いろいろ調べましたよ、正直、ホン・サンス監督のことも知りませんでした。ホン・サンス監督が落語好きかなと思って調べましたが、調べても調べても、そういう情報が出て来ず・・・(笑)。この映画館シネマート新宿さんが映画好きかなと、昔、寄席の跡だったとか調べても出て来ず・・・(笑)。いまだに、なぜここにいて、落語をやるのかという不思議な状態なんですけども。

立川さん:初めて、ホン・サンス監督の作品を見たんですけども、2本見て思ったのは、チキンが食べたくなりましたね(笑)。とにかく酒飲むんですね、ホン・サンス作品は。『ヘウォンの恋愛日記』から見て『ソニはご機嫌ななめ』見て、同じ映画じゃないかと(笑)。映画素人で率直な感想なんです、すいません。出てくる人物も似てるし、大学教授とか映画監督とか。何かあったら飲みに行くとか。勉強しようと思って、過去の作品も借りて見ましたよ、そしたらやっぱり、とにかく飲むんですね(笑)ホン・サンス何なんだろうと思いながら見てると、だんだんと好きになってくるんですね。ほんと素人の感想で、申し訳ないんですが、バラエティ番組みたいな、パッとカットが変わる映画っぽくないカット割だなとか、そしてなぜか“ズーム”みたいな(笑)。でもすごくおもしろくて、僕は『ソニはご機嫌ななめ』の方が好きだったんですけども。何もないのに気持ちよく見れるというのが、監督の腕なんだなと。唯一、無理矢理つなげると、「何もないのに引っ張る」というのが落語との共通点かなと思いました。めっちゃ浅くて、あと付けもあと付けですけども(笑)

(『ソニはご機嫌ななめ』に登場する、ソニに翻弄される3人の男たちに絡めた、くじ引きの箱のなかに残った、3枚のくじについての落語を一席、披露してもらいました)

ーー今回披露していただいた落語についてお話しください。

立川さん:『ソニはご機嫌ななめ』の3人の男の後日談みたいな落語にしようかと思ったんですけども、どう考えてもホン・サンス作品の劣化版みたいになるなと。それは早めに諦めて、チキンは食べる練習はしたんですけども、チャミスル飲みながら(笑)。

ーー最近のホン・サンス作品は、より軽やかに、小噺みたいな映画で、落語っぽいかなと思ったのですが?

立川さん:確かに『ソニはご機嫌ななめ』は落語っぽかったですね。「三枚起請(さんまいきしょう)」という古典落語があって、吉原の遊女がいろんな男にラブレターを書いていて、それが起晴文という婚約に近い約束の手紙を3枚くらい作っていて、それを渡された男3人が勢揃いになって、てんやわんやみたいな落語なんですけども。まさに『ソニはご機嫌ななめ』なんですけど、それをやるんだったら僕じゃなくてもいいかなと思って、今回のネタにしました。今回やったのは「くじ悲喜(くじびき)」という落語です。『ヘウォンの恋愛日記』に、どうしようない男が出てきて、カセットテープで音楽を聞くんですけども、そのシーンをイメージしました。本人はシリアスだけど滑稽じゃないですか。本人にとっては悲劇だけど、端から見ると滑稽みたいな感じですかね。あとはくだらない会話ですかね。その2点でなんとか行けるかなと理論武装してきました(笑)。ホン・サンスの映画は質感が違う、湿度が高い、僕は京都出身なんですけど、京都っぽい感じがしました。

(終わり)