映画『女体銃 ガン・ウーマン』は、壮絶な復讐の物語だ。浜崎の息子(鎌田規昭)に妻を惨殺されたマスターマインド(成田浬)が、ジャンキー女・マユミ(亜紗美)を暗殺者として育て上げ、身体に銃パーツを埋め込む。マユミは自分の命をリミット20分に賭け、難攻不落の【ザ・ルーム】に挑む!

 8月9日、Tジョイ京都にて『女体銃 ガン・ウーマン』の公開初日、光武蔵人監督とハリウッドで特殊メイクアップアーティストとして成功を納めたスクリーミング・マッド・ジョージさんのトークが行われた。

 光武監督が中学生の頃、映画を志した大きなきっかけになった一つが、スクリーミング・マッド・ジョージさんの存在だったという。映画監督を志した光武監督は高校から単身アメリカに留学した。
 憧れのアーティストとの対面に子供のように顔をほころばせた光武監督。
「『女体銃』はいかがでしたか?」

 刺激的な造形物のイメージとは裏腹に、穏やかな語り口のジョージさんは、
「コンセプトは非常に面白いですね。結構イッてるなと(笑)。アングラ的な作品が大好きなので。特殊メイクもいいんじゃないですか。怪物ものではないから血糊がどこまでリアルか勝負だと思います」

■デジタル全盛期・CGと特殊メイク
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 光武監督はハリウッドに憧れた80年代のことを、
「特殊メイクアップアーティストがロックスターのような時代」だったと語る。『死霊のはらわた』『エルム街の悪夢』『遊星からの物体X』『バタリアン』『死霊のえじき』といった刺激的なスプラッター映画が大量に制作された80年代。ジョージさんは『ソサエティー』『死霊のしたたり2』『ポルターガイスト2』『エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター 最後の反撃』といった作品に参加している。

光武監督から
「現在のCGと特殊メイクアップについてどういう風に思われていますか?」

 ジョージさんは「その質問はドイツでも1番多かったですね」と語る。今年5月にドイツで行われたハンブルグ日本映画祭でジョージさんは監督作品『Boy in the BOX』の上映と、油絵から映画やミュージックビデオで使用した作品群そして個人アートの最新作等の展示会を行った。アナログ好きなファンからは、CGはリアルに見えないという意見が根強いが、当時の製作者たちはいかにリアルに見えるかに拘り、しかしどうしても超えられないラインがあったという。
「CGの方が制限なく自由に動かせて、最近ますますフォトリアルになっているから、実際の製作物と変わらないものが作れる。CGで制作したクリーチャーのボーンにモーションキャプチャのデータを加えれば、その動きはますますリアルになります。」

柔軟なジョージさんに感心した光武監督。
「CG反対派ではなく、フレキシブルに受け入れているということですね」

「全部ポストプロダクションで実際の撮ったものに合うように作っていくのもありですね」
とジョージさん。以前はパペットを撮影する場合、ラジコンでパペットに内蔵したメカを遠隔操作したり棒やケーブル線が写らないよう工夫するしかなかったが、今ではグリーンスクリーンの前で撮影する際、棒等にグリーンテープを貼ったり、パペティヤー(パペットを操作する人)がグリーンスーツを着用する事で真後ろから動かしても、後から不要な部分が綺麗に抜けるという。
「文楽人形みたいにナチュラルな人間のエモーショナルがつながるような動きが撮れるんです。凄いリアルな生物をパペットで作ってアナログで動かして、それをデジタル合成で役者さんと合わせる。今一番自分が好きなのはそこですね」

 デジタルエフェクトのテクノロジーは、昔はIMLやデジタルドメインといった大手の合成会社に依頼するしかなかったが、今ではAdobeのAfter Effectsや様々な合成のソフトが手に入りやすい状況に。ジョージさんはそういったソフトの状況に触れ、
「明確なイメージがあれば、完成度の高いものが出来る状況になって来ている。作りたい人は映画全体を一人で作れるので凄くいい時代ですね」

「プロと個人が使っている機材というかソフトが同じになっちゃいましたからね。それが本当デジタル革命という感じではありますね」
『女体銃』もデジタル撮影の作品。以前であれば製作費に5、6千万円は必要であっただろうと光武監督。

■ジョージさんが選ぶハリウッド代表作は?
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 学生時代はダリに影響され、シュールと言われるタイプの油絵を描いていた。高校卒業後は勉強のためではなく“絵描きになるため”渡米すると決めていたというジョージさん。

 ニューヨークに行ってみると、パンクムーヴメントの真っ只中。大阪で過ごした学生時代はラジオの深夜放送で反戦フォークに感化され、“下手くそでも言いたいことを歌えばええねん”という精神は身についていたが、“ステージでもっとカオスなことをしていいんだ”と更に開眼。パフォーマンスでは自分のシュールなステージショー的な部分をぶち込もうとマスクを作ったり、腹を破り、内臓を出すといったスプラッター的演出を行った。それが映画に繋がりロザンゼルスに拠点を移した。

 世界に認められる特殊メイクアップアーティストとして活躍したジョージさん。光武監督から
「ご自身の中でハリウッドでの代表作は?」
と質問が。

「1番僕らしさが出ているのは『ソサエティー』。初めてコンセプトデザインから仕上げまで任されて注目された作品。
それと『エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター 最後の反撃』の女の子がゴキブリに変身するシーンが、自分の中では重要なポイントですね」
 永らくレンタル店などでも観られない状態が続いていたブライアン・ユズナ監督の『ソサエティー』は、9月12日にブルーレイの発売を予定している。この機会にジョージさんの自信作を改めてご鑑賞頂きたい。

■ハリウッドで監督になるには?
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 アメリカで『モンスターズ』『サムライ・アベンジャー/復讐剣 盲狼』という2本のインディペンデント映画を撮った光武監督。自国でヒットを出してない外国人には門を開かないと悟り、現在は日本とアメリカを行き来しつつ、日本映画制作に挑んでいる。
「自国でヒットを出すことでハリウッドに呼ばれるんじゃないかと思っているんですが。ジョージさんにとってハリウッドはどういうところですか?」

「自分のやりたいことが専門的でそこそこ認められていれば、仕事はかなりあります。ただ昨今はCGの影響で、難しいところもありますね。僕は監督としては『ガイバー』、『Boy in the BOX』、ミュージックビデオをいくつか監督していて、今後も映画を作りたいという気持ちはあるし、やるならアメリカでやりたい。ただ結局自分の作品を作るとなると、一番問題になってくるのは資金集め。お金があればハリウッドは凄くいいところじゃないかと思います(笑)」

 ロサンゼルスで撮影された『女体銃』。光武監督は資金面で非情に苦労したと同意する。
「お金があれば日本で出来ないことが楽に出来る場所ですよね」

「後は人脈」と語るジョージさん。
「いいテクニシャンと繋がっていれば手伝ってもらえますから(笑)『Boy in the BOX』の時は、ノースハリウッドにスタジオを持っている知り合いに“エアコン代とスタジオマネージャーのお金だけでええよ”と言われて使わせてもらいました」

 日本でDVDも発売されている短編作品『Boy in the BOX』。光武監督は「非常にシュールでポップ、キャッチーな作品」と紹介する。悪夢的な物語が三重構造になっており、超小型デジタルカメラがまだ一般に購入出来ない時にPOVカメラで撮られている驚きの作品。ヘルメットにカメラを取り付けた手作りPOVカメラで苦労して撮影したという。興味がわいた方はこちらもぜひ。
 

■ジョージさんの今後の活動
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 現在は大阪芸大で特殊美術を教えているジョージさん。工房で自分の時間を利用しファインアートの作品を製作している。特殊メイクの幅は広く、メイクからコンピュータ制御のロボットを使うアニマトロニクスまで含まれる。基本的にメイクはフォームや柔らかい素材で製作するため、撮影でボロボロになり残らないものが多いという。今まで携わってきた特殊メイクの仕事は、監督のビジョン実現を手伝うことだった。
「自分のコンセプトで現実を越えるイメージで“残るもの”を作りたい。展示会などで公開したり、単なる特殊メイクアップアーティストではなく、ファインアーティストとしての土壌を確立していきたいですね」

■女体銃の見所は“変態性”!?
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 最後にジョージさんから『女体銃』の見所を。
「かなり変態な映画なんで。好きな人はたまらんもんがあると思います。マトモな映画を期待している人は多分いないと思いますが(笑)見所は変態性ですかね」

「そこが二人に通じ合う部分でしょうか(笑)ぜひ変態性にも注目して観ていだだけると嬉しいです。今日はご来場いだだきありがとうございました!」
ジョージさんの自書伝『変態—TRANSFORMATION』を思い出させる究極の褒め言葉に、愉快そうな光武監督の笑顔が印象的だった。

 今後の上映は、仙台・桜井薬局セントラルホールにて8月30日〜9月4日、渋谷アップリンクにて9月27日〜、名古屋シネマスコーレで10月中旬上映予定となっている。
 心震えるファンタスティック映画の大傑作『女体銃 ガン・ウーマン』をお見逃しなく!

(Report:デューイ松田)