8月2日、十三・シアターセブンの映画『VHSテープを巻き戻せ!』のトークイベントに伝説の関西バカ映画イベント“鉄ドン”プロデューサーの星野零式氏と伊丹ローズ監督が登場し、8ミリ・VHS・デジタル時代の自主映画の作品の特徴比較と、伊賀の國 忍者映画祭で上映される『フールジャパン 〜ABC・オブ・鉄ドン〜』の告知を行った。

熱きレンタルビデオの日々▶▶▶
━━━━━━━━━━━━━━
 高校生の頃、真っ先にビデオデッキを買った友人の家に集まって、近所の電気屋さんのダビングレンタルで『遊星からの物体X』を観た。犬の顔がぱっくり割れた時の凍りつくような衝撃と友人と大騒ぎで一緒に映画を観る楽しさ。この鑑賞会は結構続いたが、この後遺症で未だに血まみれ映画を偏愛している。

 おそらく映画『VHSテープを巻き戻せ!』のタイトルに惹かれた皆さんは、こんなささやかな体験や胡散臭いコピーとハッタリだらけのジャケットを観るだけで何時間もレンタルビデオ店にいたり、休日は地獄の中古ビデオショップ巡りに勤しみ、はたまた撮る側として作品作りに命を賭けたりと、様々な時代があったと思う。
 ちなみに前述の友人はベータだったため、そのうち正規のレンタル店でのベータとVHSの取り扱い本数の逆転によって、泣く泣く画質が悪いと言いながらVHSデッキを買うことになる。

 映画『VHSテープを巻き戻せ!』は、ビデオカルチャー黎明期の仕掛け人やフランク・ヘネンロッター監督、トロマのロイド・カウフマン監督、日本からは押井守監督、高橋洋監督らが出演し、破天荒なエネルギーに満ち溢れた時代を語る。愛を持って語る単なる終わったメディアの回顧録ではなく、様々な証言から怒涛の変化の中で失われていく作品の多様性という、デジタル配信時代の問題点が浮き彫りになる。

VHS時代を振り返る▶▶▶▶
━━━━━━━━━━━
 トークショーでは、星野Pが所蔵の8ミリやVHSのソフトを持参。8ミリ版『真昼の決闘』は14500円で、90分の本編を6分の1ほどにした短縮版。星野Pは、
「VHSが出て家庭用になったのは、自分でTVの録画が出来るというのは物凄い画期的でしたね。85年くらいにVHSデッキが10万円切ってから急速に普及しましたね」と当時の状況を振り返った。

 コンビニで売っていたという雑誌の付録VHSを手にした星野P。
「『VINBO(ビンボ) VOL.15/相楽晴子特集』。エッチっぽい雑誌の走りのグラビア系ですね。恐るべきことにボリューム15。これが15まで続いてるという(笑)」
伊丹「しかも相楽晴子」
星野「『スケバン刑事』のビー玉のお京。と言っても若い人には全然響いていない(笑)」

 その他、伊丹ローズ監督が当時司会を務めたアマチュア映画コンテストのビデオ『グリーンリボン賞 受賞作品集』や、劇団・自転車キンクリートの1991年10月公演のビデオ版パンフレットとして公演の舞台裏が収録された『ありがちなはなし 噂のジュリエット篇』、猫がただただ映ってるだけのビデオ『わんぱくだいすき「ミーヤとムーチョ」動物シリーズPart1』、暴走族の生態を撮っただけの『ザ・暴走族』など、なんでも商品になった時代の珍品のVHSソフトが紹介された。

バカ映画で綴るメディアの変遷と作品作りの変化▶▶▶▶
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 そして”鉄ドン”参加のおかひでき監督(『ウルトラマン・サーガ』)の8ミリ・VHS・デジタル時代の自主映画を題材に、具体的に作品の変化を検証。『レイプゾンビ』シリーズの友松直之監督、VFXスーパーバイザーの鹿角剛氏、フィギュア作家の寒河江弘氏も参加の才気溢れるバカ映画が上映された。

星野 「8ミリ作品でアクションが多いのは編集がしやすかったから。おか監督はいま一流の監督になってるんですが、当時から才能があったのが分かります。今見比べると分かるように、ビデオでは細かい編集が必要なことをやらず、生々しいものを見せて映画を撮っていると。テーマの選び方とメディアの対応。当時8ミリでもビデオでも出来る時代で、ビデオでやる時はビデオ用のテーマを選んでいる、そういうところが素晴らしかったですね」

伊丹「8ミリ作品は実際フィルムを切り貼りして、並べ替えて編集しました。ビデオの編集はダビングだから、デッキ二台でコピーをしていく。頭から順番に編集しないと成り立たない。アクションがやりにくのは、一度頭から作っていかないと途中でこれを抜きたいとか、入れ替えたいとか今ならデジタルのコンピュータ上で簡単に出来ることが出来なかったんです。ビデオで作品を作る人、作らない人で派閥が出来た時代がありましたね」

星野「その一方で既存の映画を勝手に編集してマッドというものを作ってしまう人が出てくる。今YouTubeでよく上がってるでしょ。そういう人が出てきて僕らのようなバカ映画の世界が広がって行った(笑)」

伊丹「法律ではアウトなんですけどね。VHSの登場がわれわれ庶民にもこういった影響を与えたわけです(笑)」

 映画『VHSテープを巻き戻せ』に55歳の自主映画監督デビッド・ネルソン氏が登場し、
「お金がないとか機材がないとか言い訳するな。自分を信じて撮れ」
と熱い衝動をぶちかます。星野Pはそのシーンに触れ、
「映画の中でも“わし55歳で映画撮っとうねん”言うてますんで、よかったら皆さんも映画を撮って“鉄ドン”へ持ち込んでください。我々と仲間になりましようと言いたい」
「トークショーと言いながら壮大な勧誘やったわけです(笑)」
と、伊丹監督もニコニコと本性を現す。

 映画『VHSテープを巻き戻せ』は、関西ではシアターセブンの上映に続き、8月30日から京都/立誠シネマプロジェクトにて上映予定となっている。

バカ映画『フールジャパン 〜ABC・オブ・鉄ドン〜』への招待▶▶▶▶
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 恐怖のバカ映画への招待が行われたところで、“鉄ドン”とは何か。1992年から2年間7回に渡って行われた伝説の関西のバカ映画イベント“鉄ドン”。2012年に奇跡の復活を遂げたその名の下に、26人の映画監督たちが集結!ゆうばり国際ファンタスティック映画祭でプレミア上映されたのが「日本」をテーマにしたバカ映画オムニバス『フールジャパン 〜ABC・オブ・鉄ドン〜』。

 参加監督は、BUENO/岩崎友彦/伊丹ローズ/今井聡/おかひでき/水野祐樹/田村専一/杉下淳生/井村剛/啓虎宏之/梁仲文/安斎レオ/大畑創/佃光/飯塚貴士/ミン・ソンヒョン/小林でび/なにわ天閣/友松直之/宇G茶/青井達也/野火明/中沢健/石田アキラ/清本一毅/田口清隆 といった発足当時からの参加監督から、今回が初参加の監督までそうそうたるメンバー。
 その完全版が8月22日-25日の日程で開催される『伊賀の國 忍者映画祭』にて23日、24日の2回上映される。ゲスト参加予定は水野祐樹監督、佃光監督、石田アキラ監督、今井聡監督、飯塚貴士監督、星野P。

 特に星野Pオススメなのが8月24日。飯塚監督の『ニンジャセオリー 完全版』(声:斉藤工、清瀬やえこ)と『フールジャパン 〜ABC・オブ・鉄ドン〜』の上映が続けて行われるため、飯塚貴士監督と今井聡監督の人形遣い対決を見比べて頂くのも一興だ。

 最後に星野Pより一言。
「『フールジャパン 〜ABC・オブ・鉄ドン〜』は『アオイホノオ』に出てくる“ファーピク”のように見るのが一番です。“金返せ!”コール大歓迎!」
という事で、参加される方は国会並みの野次を自由にお楽しみ頂きたい。

(Report:デューイ松田)