韓国・富川市で開催されたジャンル映画の祭典、プチョン国際ファンタスティック映画祭2014(7/17〜7/27)。
7/19、20:30よりCGV Bucheonにて内藤瑛亮監督『パズル』(主演:夏帆、野村周平)の上映と舞台挨拶が行われた。

原作はデビュー作『リアル鬼ごっこ』以来、中高生に圧倒的な支持を得て、数多くの作品が映画化されている山田悠介の同名小説『パズル』。映画は“山田悠介KADAKAWA実写化第1弾”として製作され、今年3月に日本公開された。
同じく“山田悠介KADAKAWA実写化第2弾”の『ライヴ』(井口昇監督)も今年5月より日本公開中。プチョンファンタにて7/23・24に上映されている。

映画『パズル』は、女子高生・中村(夏帆)の飛び降り事件をきっかけに、高校のイメージキャラクターひまわり子ちゃんのマスクを被った異様な集団による高校占拠事件が起こり、監禁された妊娠中の女性教師の解放のため、関係者たちはパズルを解くことを強要される。事件後、男子高校生3名と理事長が失踪する。事件の鍵を握る同級生の湯浅(野村周平)からパズルのワンピースを渡された中村は、湯浅とともに狂気の世界に踏み込んでいく。

■青春映画としての演出
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インターネット、当日券ともに売り切れとなった『パズル』。満員の観客から拍手で迎えられた内藤監督に、
「面白く拝見しました。血飛沫がたくさん出ますがどのように意図して作られましたか?」と女性からの質問。

内藤監督は、まず日本では学校を舞台にしたデスゲーム映画が非常に多い現状を説明。
「一般的なデスゲームの主人公は参加させられる人間であることが多いんですけど、この作品ではデスゲームを仕掛ける犯人側に視点を置こうと考えました」

犯人の人となりや動機を考えた時にヒントになったのが、FOSTER THE PEOPLEの『Pumped Up Kicks』という曲だったという。
「ライフルを持った少年が人を殺しまくる、凄く軽快でPopな曲です。デスゲームを仕掛ける犯人はそんな心理で、殺人を楽しんでいる人なんだと思ったんですね。この作品は殺人を“青春を楽しむ”ように撮りました。なので血飛沫もファンタジックなものとして描いています」

内藤監督は演出の際に、出演者に向けて参考作品として青春映画である『がんばれベアーズ』や『サニー 永遠の仲間たち』といったタイトルを挙げたと言う。
「『サニー』でシム・ウンギョンさんたちがダンスに青春を捧げたとしたら、この作品はたまたま人殺しに青春を捧げた、“人殺し版『サニー』”のつもりで作りました」
このコメントは少し意外だったようで観客たちから笑いが起こった。

■仕事のモラルか復讐か
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男性の観客からは、行方不明になる男子生徒の父親である三留刑事(高橋和也)の職業倫理を越えた行動について、
「日本の作品では珍しいのでは?」「監督なら父親と刑事としてのモラルか個人の復讐どちらを選びますか?」という質問が。

内藤監督は日本の映画では刑事としてのモラルを遵守する作品が多いように思うと同意した上で、
「僕が映画に望んでいるのでは、社会的規範を超えた人間の衝動で、この作品でも刑事としてのモラルは飛び越えて描きました。でも僕が刑事だったらモラルを守って真面目に働くと思います(笑)」

■シム・ウンギョンさんのこと
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韓国映画が好きで、『サニー 永遠の仲間たち』『怪しい彼女』がお気に入りと言う内藤監督に司会者が、
「シム・ウンギョンさんは今年のプチョンレディですよ」と映画祭のイメージガールを務めていることを伝えると、
シャイな内藤監督が「オーブニングセレモニーで写真をいっぱい撮りました(笑)」とファン心を覗かせ、劇場は爆笑となった。

■血まみれのダンスと夏帆さん
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エンディングロールで血みれで踊り狂う夏帆さんについて質問が挙がった。
ホラー映画の巨匠ダリオ・アルジェントのように物語の整合性よりビジュアルで語る作家が好きという内藤監督。ラストシーンとしてこのビジュアルが浮かんで撮ったと言う。
「中村は湯浅に導かれて一緒に行動しましたが、果たして救われたのか、自分の中で答えは出したくなかったんです。でも引き裂かれるような思いが彼女の中にあると思ったので、それを表現するために血みれで踊りました」

清楚なイメージが強い夏帆さんだが、夏帆さん主演のホラーテレビドラマ『悪霊病棟』で演出を手掛けた内藤監督。その出会いが今回の『パズル』につながったと言う。
「夏帆さんは今までのイメージに縛られたくないと考えていて、なおかつホラー映画の話をしていたら、“私も一度血飛沫を浴びてみたい”と仰ってました。それでこの作品の出演を依頼して、思う存分浴びさせてあげたという感じです」

■行方不明学生の罪とは?
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男性の観客から、「最初に行方不明になる3人は、ストレートに描かれていないが湯浅(野村周平)に対していじめがあったのか?」という質問が挙がった。

「湯浅がトイレの中に閉じこもっていて、3人がトイレから連れ出す場面があります。これは一般的な学園映画では正しいこととして描かれる場面で、みんなの活動に参加しようよと、連れ出す3人はいい人だと捉えられるんですが、それが非常に苦痛な人間もいるだろうなと。あの3人は湯浅を虐めていたわけではないけど、良きこと正しいことを押し付けたことは、湯浅にとって罪に値すると考えました。
僕自身も学生の時、体育祭や学園祭でみんなが集まって楽しく騒ぐことが嫌いで、今回もオープニングセレモニーでレッドカーペットを歩くことは非常に苦痛だったんです。だから湯浅があの3人を殺すことは非常に真っ当なことだと考えました」

■青春残酷物語『パズル』
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その他、湯浅が飼っているトカゲが表現するものや、時間軸の交錯やパズルの意味、原作との違いについて続々質問が挙がり、観客の関心の高さに「ゲストトークでこんなに質問が出るなんてなかなかないですよ」と司会者が驚きを口にした。
「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で内藤監督の『先生を流産させる会』を見ましたが、タイトルは過激だけど実際見たらとてもいい作品でした。大島渚監督の『青春残酷物語』という作品がありますが、この『パズル』という映画を一言で言い表すと、まさに“青春残酷物語”と言えるかもしれません」と解説した。

■これからも悪意に満ちた作品を
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最後に内藤監督は、観客へのメッセージとして、
「韓国の状況はわかりませんが、日本映画では健全さや正しさが求められていて、大勢の観客が感情移入し辛い主人公を描くと、すぐNGが出てしまうんです。大多数が健全さや正しさを喜んで受け入れたとしても、ごく少ない人達はそこに鬱積した憤りを感じて苛立っていると思います。映画はむしろそういう人たちを救済するために存在すると思っているので、これからもこう言った悪意に満ちた作品を作って行きたいなと思っています」
と語り拍手を受けた。
観客達はそんな心意気に共感したのか、舞台挨拶後にロビーで内藤監督を取り囲みサイン攻めにしていた。

映画会社から原作を自由に直して構わないが、最低限犯人が被害たちにパズル探しをさせることは入れて欲しいと条件があったという。原作から9割ほどオリジナルの変更を加えたという内藤監督。

今回韓国の若い観客とともに劇場で『パズル』を体験した。
ショッキングなシーンのオンパレードの中で、一番居たたまれなく感じたのが、意外にもトークの中で監督が挙げた、トイレから連れ出された湯浅がクラスメイトが取り組んでいるパズル製作の現場に暖かく迎えられるシーンだった。その押し付けの居心地の悪さは笑顔が一杯のいじめの現場に見えた。
そんな違和感をすくい取れるのが『牛乳王子』や『先生を流産させる会』で常識で理解されない者たちの心の深淵を描いてきた内藤監督ならでは。今後の作品にも期待したい。

8/5には映画『パズル』DVD&Blu-rayが発売予定となっている。
メイキングの他に、美術の教員免許を持つ内藤監督が1人で製作したという人形アニメ版の『パズル』も映像特典として収録されており、こちらも本編と併せてぜひ楽しんでいただきたい。

(Report:デューイ松田)