熊切和嘉監督、浅野忠信・二階堂ふみ主演、『私の男』が7月9日にニューヨーク・アジア映画祭で北米プレミアを迎え、同映画祭において二階堂ふみがライジング・スター賞を受賞、授賞式に登壇した。
二階堂は、ライジング・スター賞授与者であるスクリーン・インターナショナルのマーク・アダムス氏とともに授賞式に登壇、200名を超える観客に大きな歓声と拍手で迎えられた。トロフィー授与の後、にこやかに流暢な英語で受賞の喜びのコメントを述べた。

■日 程:7月9日(水) 
 18:00〜ライジング・スター賞授賞式
 18:10〜上映開始
 20:30〜ティーチ・イン   *いずれも現地時間
■場 所:リンカーンセンター ウォルター・リード・シアター
■登壇者:二階堂ふみ(19)
MC:ゴラン・トパロヴィク氏 (NYアジア映画祭 エグゼクティブディレクター)
   サミュエル・ジャミエ氏 (NYアジア映画祭 共同ディレクター)
授与者:マーク・アダムス氏 (スクリーン・インターナショナル)

◆授賞式コメント全文

<アダムス氏コメント>
今年からスクリーン・インターナショナルが初めてこの賞を創設しましたが、記念すべき一人目の受賞者に二階堂さんのような素晴らしい女優を選出できて嬉しいです。これからも幅広く末永く活躍されることを期待します。

<二階堂さんコメント>*すべて英語でコメント
皆さんこんにちは、日本から来た二階堂ふみです。このような賞を頂けて光栄です。NYは私にとって特別な街です。少し前に2か月程滞在していましたし、私の好きな俳優であるスティーブ・ブシェミやエイドリアン・ブロディの故郷で、偉大な映画監督ジョン・カサヴェテスもここNYで多くの作品を撮っているからです。本作「私の男」との出会いは運命的なものでした。熊切監督と初めて会ったとき、何か特別なものと恋に落ちた気持ちになりました。それ以来、ずっと監督と魂のこもった作品をつくりたいと思っていました。この年齢だからこそ撮れるものだった、という意味でも非常に私にとって重要な作品になっています。タブーを破っている点においてもとても印象的な作品だと思います。熊切監督、浅野さん、他の出演者・スタッフの皆さん、家族、ファンの皆さんに感謝します。

◆上映後Q&A
MC:サミュエル・ジャミエ氏 (NYアジア映画祭 共同ディレクター)

上映終了後、大きな拍手。MCが客席で一緒に鑑賞していた二階堂さんをステージ上に呼ぶと再び大きな拍手で迎えられた。

<冒頭>
二階堂さん(英語で):映画はいかがでしたか?(客席から拍手)

<質問1>(MC)
本作は二階堂さんと浅野忠信さんが演じる登場人物の関係性を中心に展開していますが、浅野さんとのお仕事はいかがでしたか。

浅野さんはとてもプロフェッショナルで、彼の現場での存在感といいますか、在り方というのはものすごく私に影響を与えたと思います。そして、やっぱりこの二人の役どころって、関係性というのはカメラが回っているときだけではなくて、現場でふたりが生きている時間だから、作り出される空気感があると思いますので、浅野さんは私に対してずっと緊張感をもって接してくださいましたし、そのおかげで私も浅野さんに寄り添うことができたのではないかと思います。

<質問2>(MC)
熊切監督とのお仕事はいかがでしたか。監督の映画製作のスタイルを教えてください。又、本作は本当に役者重視の作品だと思いますが、セットでの雰囲気はどのようなものだったのでしょうか。

今日、何本かここの媒体の取材を受けたんですけど、皆明日上映する園さんの『地獄でなぜ悪い』と去年公開した三池崇史監督の『悪の教典』があって、ここではこの二人がすごく人気があると伺ったのですが、その二人と同じくらい強烈なものを持った監督で、熊切監督はニューヨークでものすごく人気が出るんじゃないかな、と私は今日話を聞いていて思ったんですけど、でもやっぱり熊切監督は私が今までご一緒させていただいた監督の中で最も言葉のいらない関係であったと思いますし、最も深いところで繋がっていた監督だな、と思います。やっぱり現場でも映画作りのプロとしてそこにいますし、世界に対してすごく挑戦的であって、その姿は、私はとてもかっこいいな、と思っていて、ずっと一緒に映画を作りたいと思っていた人だったので、本当に今回ご一緒できてよかったと思います。

<質問3>(MC)
二階堂さんは他にも園子温監督の「ヒミズ」という、同じく東日本大震災に影響を受けた作品に出演されていますが、この2作品と両監督のスタイルの違いについてどう思われるかお聞かせください。

すごい難しい質問で。
やっぱり監督によって演出方法は違いますし、園さんと熊切監督を比べることはできないですが、やっぱり二人とも映画作りにものすごい情熱を持っていて、すごくワールドワイドに見ています、映画のことを。とても映画のことを愛していて、そういう共通点はあるのかな、と思いますけど、今日やった『私の男』も3年前の『ヒミズ』も題材は震災を扱ったものではない、と私は思っていて、今回の『私の男』というのはあくまで親子の話だと思っていますし、『ヒミズ』は若い少年と少女の青春の話だと思っているので、ただ、やっぱりそこに3.11以降、震災というものが起きてから、それを無視して…というかシャットアウトして映画作りを続けるのは違うのかな、と思っていて、今現在日本では毎日のように震災以降のいろんな問題について取り上げられていますし、それはもう、すごく風化させてはいけないことだと思うんですけど、日常問題の一つとなっていますので、それは映画の中にあってもおかしくないことなのかな、と思いますね。

<質問4>(MC)
何が花と淳悟の関係性に変化を与えたのでしょうか。なぜ娘として育てておきながらあのような方向に進んでいったのでしょう。

また難しい問題が(笑)。
海外に来ると本当に面白くて。日本にいると聞かれないような質問が多いので、私はすごい好きなんですけど。あの二人の関係っていうのは、言葉では言い表せない関係だと思いますね。人間っていうのは文明によって発達してきたと思うんですけど、文明上において人間ていうのは色んな約束事を作っていって、その中でいうと、この二人の関係っていうのは一般的にすごくタブー化されがちなものはあると思うんですけど、でも私はあの二人の関係は“アリ”とか“ナシ”とかそういうことではなく、深いところにある愛といいますか—全部文明上の約束とかを、全部取っ払った時にふたりの世界といいますか—そういうものを見せていったのかな、と思うので、きっとこの映画を観て色んなことを思う方がいらっしゃるのかな、と思うんですけど、ふたりにとってそういう概念はないのかな、と思っていましたね。

<質問5>(MC)
若い女優さんに聞きづらい質問ではありますが、二人の性的な関係を表現するシーンの撮影は難しかったですか。

→Not difficult. 最初に英語で「難しくなかったわ」。

あれはもう、感じたままにやっていたシーンだと思いますし、あのシーン失くしてこの映画はできなかったと思いますし、とても重要なシーンだったと思いますし。でも、あの撮影のとき日の雨が降ってくるときっていうのは、オープンセットだったわけですけど、外温はマイナス10度とかなんですね。その中で部屋の壁をくりぬいて、外からカメラで撮影して、上から冷たい赤い血っていう設定の水が降ってくるわけですよね。だから、雰囲気を大事にしながらも、とにかく寒さと死なないように必死でしたね。

【会場笑】