6月20日(金)、この公開を記念し『DOCUMENTARY of AKB48』シリーズの過去3作を一挙に上映する『DOCUMENTARY of AKB48』シリーズ イッキミ上映会を行い、コラムニスト・中森明夫氏、映画監督の松江哲明氏をお迎えしたトークショーを実施いたしました。

イベント名: 『DOCUMENTARY of AKB48』シリーズイッキミ上映会
日時:6月20日(金)イベント開始22:15
会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ(スクリーン6/180席)港区六本木6-10-2けやき坂コンプレックス内
登壇:中森明夫(54)、松江哲明(36)

『DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う?』
7月4日(金)より全国公開

[以下、トークイベントレポート]

松江哲明)僕も劇場公開時に全部観ています。第1作目は大泉で見ました。
中森明夫)僕は新宿で観ました。第1作目と2作以降で監督が違いますね。

松江)1作目は寒竹ゆりさんという女性の監督で、岩井俊二さんに師事してもともと劇映画を撮られていた方ですね。
僕は、岩井俊二さんが製作総指揮を勤めていらっしゃるというのが気になって劇場に観に行ったのを覚えています。

中森)松江監督は、『童貞。をプロデュース』などドキュメンタリー映画の若きホープで、
たくさんの賞も受賞されているわけですが、アイドルに興味があるのは意外な感がありました。

松江)最初は、岩井俊二さんのお名前に興味があって映画を観に行ったので、
映画を観ながらメンバーを知るという順番でした。

中森)1作目はメンバー一人一人の紹介的な内容でしたね。

松江)ドキュメンタリーの作り手として言うと、敢えて踏み込まないところがみられました。
キラキラした部分をそのままに映した映画だなと思いました。

中森)それがあったが故に、2作目、3作目の衝撃は凄かったですね。
2作目からは高橋栄樹監督という、AKB48のMVも手掛けている監督が作っているんですが、高橋さんの才能は凄いよね。

松江)2作目を見て、何がびっくりしたかというとまずは東日本大震災をテーマにしているということと、
1作目のような作り方を予想したいたので、その予想がどんどん崩れていくことでした。
いま観ると2011年に、自分自身がどうだったかということが問われると共に、AKB48のメンバーがどうやって闘っていたのかというのも分かるんですよ。
特に、前田敦子さんが過呼吸で倒れているところは「見せちゃっていいのかな?」と思ってしまうほどですよね。

中森)昔だったら、アイドルはバックステージは見せないものだということになっていたが、このドキュメンタリーでは徹底的に見せている。
ある意味でショッキングでしたよ。

松江)ただ、僕は正直に言うとドキュメンタリーを作りながら、こういう踏み込んだ作品は日本では作れないんだと思っていたんです。
アメリカや海外のドキュメンタリーは、「ビヨンド・ザ・マット」や「メタリカ 真実の瞬間」のように踏み込んだものもあるんです が、日本では無いんです。
やっと、こういう踏み込んだドキュメンタリーが出てきたこと、しかもそれをAKB48がやっていることにびっくりしました。
2作目は、2011年の1月に観て、その時点でその年のベスト10の基準が決まったなと思いましたし、最後まで1番でした。

中森)「AKB48の映画だろ?」ってみくびって観る感覚はあると思う。でも2作目は震災ドキュメンタリーでもあるんです。
震災ドキュメンタリーって、いっぱい作られたけどそのなかでもかなり優秀な作品ですよね。
たまたま震災を挟む前後3年間で作られていることで、AKB48を通した時代の証言になっていると思います。
2作目は、“東日本大震災”というかなり大事なファクターと前田敦子の極限状態という点でわかりやすいんだけど、
3作目は、そういうわかりやすいものがない。でも、素晴らしいですよね。

松江)僕もすばらしいと思います。

中森)僕は3作目も新宿で観たんですが、劇場はAKB48のファンが多かったと思います。
そんな状況でも“ちょっと異様な空気”というか、見終わった後は戦争映画を観たようなヤバイものを観た感じがあったんですよ。

松江)それをAKB48でやってるところがすごいです。
僕が3作目をみたときに驚いたのは、この作品には主役が不在なんだけど周辺を通して「真ん中」を描くという手法です。
真ん中とは前田敦子さんのことなんですけど、センター論ということですよね。

中森)いま制作中の最新作には、恐らく握手会の事件の直後に行われたどしゃぶりの総選挙が入りますが、
あのときは雨がどしゃ降りでお客さんは全員ピンクのカッパを着て、6時間くらい極限だったんですよ。
その最後に1位・渡辺麻友と呼ばれたときの、あの光景を監督がどうやって撮っているのか気になりますね。

松江)僕も気になっていますが、高橋監督が作った『DOCUMENTARY of AKB48』のひとつの魅力は、予期しない映像だったと思うんです。
監督が意図的に「こういう画をとろう」という画だけではない客観的なカメラの画の強さというのもあって、
AKB48の現場には無数のカメラがいるので、ライブ中継や後で何に使うかわからない記録用として撮ってあった素材も使われていますが、実は日本のドキュメンタリーではそれはタブーだったんです。
日本のドキュメンタリーの監督がまず狙うのは、被写体と作り手の関係性で、
『ゆきゆきて、新軍』の原一夫監督みたいに、作り手と関係性を作りなさいって教わるんですが、
『DOCUMENTARY of AKB48』では何が驚いたかというと、撮ってる人も撮られてる人も誰がやっているのかわからない映像が使われていることでした。
その予期しない映像で最も強かったのが2作目の前田敦子さんが「フライングゲット」を歌うシーン。
あそこのシーンは、多分撮ってる人もびっくりしていたと思います。
2と3作目はその客観性がすごいと思っていたんですが、高橋監督にお聞きしたら最新作は監督が撮っているんですよね。
また全然違う作品になっているんじゃないかと、楽しみにしています。

中森)松江さんがおっしゃっているように、これまでのドキュメンタリー作品は被写体との関係性や明らかに何らかのメッセージ性がありましたが、AKBのドキュメンタリーは監督が観る側に委ねている部分が多いですよね。
その中には時代の無意識みたいなことも含まれていて、これから何年かたってAKB48を知らない子供たちが出てきたときにAKB48とはなんだったのかというのを教えるのにはこの映画が一番良いと思うし、AKB48を知らない人も観るといいと思いますよ。

松江)このシリーズは今まで毎回1月に公開されていて、僕はそのやり方から発見したことがあるんですが、
日本のドキュメンタリーは監督自身が「この映像が撮れたから、これでクランクアップ」というかたちでその映像をクライマックスにして終わらざるを得ないのに、
この作品は1年ごとに作っているから映画の中に紅白歌合戦がでてくると観ている人は自然と「映画も終盤だな」と観れるんです。
そうすることで、お客さんがどこをポイントにして観るか自由になりますよね。

中森)AKB48自体が歳事記的な活動をしているのも関係していると思います。
桜をテーマにした卒業ソングや、6月には総選挙、秋にはじゃんけん大会があって、
年末にはレコード大賞と紅白歌合戦があり、年が明けて映画だったんですよね。

松江)去年の年末にこのシリーズの公開のニュースが無かったので、高橋監督に聞いたのに教えてくれなかったんですよ(笑)
最新作は、1年というルールも破っているし、高橋監督自身が現場に行って撮った映像を使っていると聞いているので被写体との関係性がどう映るのか楽しみですね。

中森)今日は、ワールドカップもあるのにここで一遍に3本観る人たちはどういう人たちかなと思って来たんですけど(笑)、僕も東京に出て来たばかりの若い頃に、オールナイト上映で地獄のような作品を観たりしていました。
映画というのは、どこで観たのかも大事な要素で、このイッキミを六本木で6月に観たというのは絶対に忘れないと思います。
DVDではいつでも観れますが、映画館でみるのは体験ですから、最新作も是非劇場で観てほしいですね。

松江)僕もDVDで良い映画を観ると最初の出会いがDVDになってしまったのがさみしいというか、悔しい気持ちになったりします。
『DOCUMENTARY of AKB48』は、僕にとっては1年の始めの行事のような、『寅さん』(『男はつらいよ』)とか『釣りバカ日誌』みたいなものだったので(笑)