6/15、大阪市北区のテアトル梅田で映画『捨てがたき人々』の舞台挨拶に登場した榊英雄監督と大森南朋さん。
この日はサッカーのワールドカップ・ブラジル大会で日本代表VSコートジボワール戦があり、
「サッカーは観ていましたか?」
という司会者の質問に“妙なテンション”の榊監督は、
「勝ちも負けも大きい流れから見ると“人生”ですからと、言わないと悔しいんですよ(笑)」
と心境を語った。

タクシーのテレビで試合を観ていたという大森さんは、
「呆然としていました。こんな話でいいですか?(笑)」
と作品の話に戻るようパス出しし、場内の笑いを誘った。

●『捨てがたき人々』の主人公
・狸穴勇介のキャラクター
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「生きているのが飽きちゃったな」
と、仕事もなく安いのり弁を食べ、目の前を通る女性を視姦するだけの鬱屈とした生活を送る主人公・狸穴勇介。

キャラクターについて大森さんは、
「まあ、ほんとに…クズ(笑)」
共感するところはほとんどないという。
「あるとすれば生きていること。生き延ばしている」

それを受けて榊監督は
「共通点は“男”ということと、“生きている”こと」と語った。

●お互いが語る榊監督と大森さん
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十年来の友人である榊監督と大森さん。監督から観た大森さんは、

「セクシーですね。声もいいし。15、6年前から知っているが変わらない。渋みというか余計にセクシーさが出てきた。
昨日の晩、一緒に飲んだが相変わらずのノリで朝まで話しているのが嬉しかった。根幹は何も変わっていないですね」

榊監督は俳優としても活躍している。大森さんから観た榊監督は、

「しっかりしてい[追加]るなと思う。頭の回転も早いし、トークのスピードがすごいんですよ(笑)。撮影は遅いんですけど(笑)。
言葉に説得力がある。どこまで本質をわかっているのか分からないんですけど、サイドから責められて結局ゴールを決められるみたいな感じで(笑)」

●原作漫画『捨てがたき人々』との出会い
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『捨てがたき人々』の原作は『浮浪雲』『銭ゲバ』『アシュラ』等、徹底して人間の本質を追求してきたジョージ秋山さん。映画の脚本はジョージ秋山さんの息子である秋山命さんで、プロデューサーも務めた。

「秋山命くんとの出会いが大きい。お父さんの描いた膨大な作品の中でこの作品を映画化したいと思っていたそうで。ある飲み会で出会って立ち話で3時間盛り上がって、いつかやろうと」

秋山命さんと出会った時、原作は読んでいなかったという榊監督。それから約一年後、話が具体化して行った。
「人間との出会いで始まり、作品と出会った。不思議。彼と出会わなかったら作品は撮っていないですね」

オファーを受け快諾したという大森さん。
「なかなかキツイ役ではあるんですが、監督と脚本の秋山さんの熱意で有難く受けるようにしました」
2人の気持ちが伝わって来たという。
「新しい一面を見たかった。監督も、そして自分も」

榊監督は直接電話して大森さんを口説いた。
「熱意をぶつけて、それを受けて頂いて良かったと思います」

●ヒロイン・三輪ひとみさん、美保純さんとの共演
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Jホラーに多数出演し、ホラークイーンと呼ばれる三輪ひとみさんも新しい一面を見せている。
狸穴勇介は三輪さん演じる岡辺京子とレイプ同然で関係を持つ。新興宗教に傾倒し、人の幸せを願うことが自分の幸せに繋がると信じ笑顔を絶やさない京子は勇介と不思議な絆を築いていく。

榊監督は、
「彼女自身も新境地を開拓すべく挑んで頂いた。すごく大変だったと思うんですけど、見事に演じて頂きました」

愛憎渦巻く勇介と京子の関係から休憩時間も緊張感が持続していた。
大森さんは当時の様子を回想し、
「三輪さん自身も身体を張って頑張っていましたので、現場ではあまり目が合わなかったのを覚えています。“天気いいですね”くらいの会話はありましたが。東京国際映画祭で初めてちゃんと喋った気がします」

榊監督は、
「それぞれ役と真摯に向き合っているので。2人とも役的にも重かったし。個人個人の勝負ですけど」。
大森さんも、
「仲悪いとかそう言ったことではありません(笑)」
と真剣勝負の現場の空気を語った。

ヒロインの叔母を演じた美保純さんとの共演について大森さんは、
「嬉しかったですね。この役をやって下さるんだというか、よく呼ぶことができたな、凄いと思いました」
とオファーを実現させたことに驚きを見せた。

美保純さんはジョージ秋山さん原作の『ピンクのカーテン』で注目を浴びたこともあり、脚本の秋山命さん、榊監督共に出演を熱望した。
「50代になった美保さんが見事に体当たりでこの役を演じてくださったことは大きいです。大森さんとの過激なシーンを見て頂けたらと思います」。

●監督の生まれ故郷・五島列島で撮影について
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ロケ地となった長崎県の五島列島に高校卒業の18歳まで住んでいたという榊監督。監督自身が歩いたり遊んだり、ちょっと悪いこと(?)をしていた場所が映画に登場しているという。

「三番町の床屋の息子ですって言うと“おお!あんたしんちゃんとこの息子ね!貸すけんどうぞ!”みたいな(笑)。
地元の懐かしき町で撮らせて頂きました」
と各撮影場所で許可取りを快く受け入れてくれた地元の方々への感謝を語った。

●映画は主題歌『蜘蛛の糸』(榊いずみ)で完結し、日常へ続く
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最後に榊監督は、
「最後のエンドロールまで曲を聴いて頂いて、映画が終わるまで観てください。明るくなった時に何を感じたかを持って日常生活に戻って頂くとよろしいかと思います。本日はありがとうございました!」

大森さんは、
「これから楽しんで頂けると幸いです。“最後まで観て”と監督が仰ってましたが、家に持ち帰れない場合は、お酒でも飲んで少しスッキリして帰るとよろしいかと思います。劇場に足を運んで頂いてありがとうございました」
とこれからハードな世界に踏み込む観客を気遣い舞台挨拶を終えた。

『捨てがたき人々』は関西圏ではテアトル梅田、京都シネマにて同時公開中。
7/12(土)からは元町映画館にて上映予定。
他、全国順次ロードショー中となっている。

(Report:デューイ松田)