2010年11月に公開された命のドキュメンタリー映画『うまれる』は、邦画のドキュメンタリーとしては異例のヒットを記録し、今なお各地で上映会が行われ35万人以上を動員している(DVD未発売)。その第2弾、『うまれる ずっと、いっしょ。』のナレーションを樹木希林さんに決定し、本日、麻布のサウンドシティにて収録が行われました。乳がんを経験し、昨年3月に全身がんを告白した樹木さんは、本作のテーマのひとつである「死を意識したことで家族や命を振り返る」経験を持ち、その人生の蓄積を「声」で表現しうるとして決定いたしました。

豪田トモ監督:「うまれる ずっと、いっしょ。」は3家族を映します。1組は血のつながらない家族、2組目は長年つれそった妻を看取った夫の再生、3組目は重い障害を持つ子を育てる夫婦。彼らを通し、家族のつながりを感じていただきたく製作しました。作ろうと思ったきっかけは、自分が親とが不仲だった。その関係を改善したくて製作しました。そして自身も、家族を持ち、どうやって父になるのか?を探求しています。

樹木:豪田監督は41歳。夫婦がそれぞれ問題を抱えた人々を取材していくうちに、監督も成長してゆく。最近は外国旅行する若者が減っています。監督は実際に旅をして得たものを、皮膚感覚で作品に反映した。それを感じてほしい。

ナレーションを受けることに決めたのは、がんという病気の体験で、人生観や家族関係、様々経験しました。その経験を映画に息吹を吹き込むことができればと。

前作「生まれる」のナレーションはつるのくん。彼の生の声はよかった。なまじ私のように者がやって、感情移入してしまうと、気持ち悪いと思う。だから本当は私がやらないほうがよかった。監督を説得して、素っ気なくナレーションしていきたいと考えております。

この作品のテーマ「家族のつながり」ですが、それはそれぞれの問題。どんな家族でもそれぞれ問題を抱えている。問題のない家族はいない。人間はそういうもの。問題を抱えて生きていく。家族とは、大変な時も、歓びの時もある。私は元々家族というものにとらわれないようにしようと思っている。「神宮希林」のときに、娘に英仏ナレーションを入れてもらいました。作品の予算がなく無料で。そのときに娘がどこかの取材で「自分は父がいなくて母親と暮らしてきました。母は、子育てしたとは言わず、よく世になかに育ててもらった、周りの人に育ててもらったといいます。いま、自分が家庭をもって、父親のいる家族を持って、初めて、父の存在が大変大事だと初めて気付きました。そして、父のいない自分が、初めて寂しいと感じました」と言ってました。それはそれでいいんじゃないかと思います。娘もそれを引き受けられる。みんなすべて満足する人生もないでしょうから。それが面白いところでもある思う。

監督の印象は、ルックスは・・・私はシブい顔が好きなんですがね・・・ぽちゃっとして、豆腐に目があるような・・・自分と同系統の顔、魅力的ではないけど・・・これまで生きてきたものが話していくうちに顔からこぼれおちる。作り手の成長がわかる。ものを作る幸せです。監督はいい相になっていきます。

この作品は「いのち」もテーマです。私は薬も飲まず、がんとは闘っていない。自然に生活してますし、生活の質を下げてない。がんは、いまどこに出てきてもおかしくない。ですが、治療はしていない。病院へいけば、がんは、どこかに見つかる。夜更かしはしないよう気をつけてはいます。家族はあきらめています。家族に報告はします。家族は長生きするとは思ってないです。娘には「父さんを残されたら大変」と言われます。ときどき、裕也さんから「生きてるか」と電話があります。

「うまれる ずっと、いっしょ。」で、妻が家族のいるところで、死にたい、というシーンがあります、素晴らしい選択だと思います。家族や孫に、死を見せる、その子の出来が違ってくると思う。いまは病院での死が多い、できれば、みんなの中で息をひきとるのが理想です。そういう意味で、がんはありがたいと思う。

死の準備はできています。夫が「ハンコはわかるところに、(遺産は)私の分も、助け合うのがあたりまえだ」と。ロックには負けます。

痛みはないです、へばってないです。よれよれでも生きている。ひとは必ず死ぬ、年の役目は果たした。みんな、もっと、もっと、と思いますから。わたしは、上昇志向がないから、芸能界に向いてない。だから、面白がられて、たたかれない。

出会う人が、素敵になっていく、その変化が面白い。アンチエイジングはぜんぜん思わない。年をとるのが面白い。トイレに何回もいったり、でも、問題をマイナスと考えない、面白いです。年齢を受け入れて、生活の質をよくするのが大事、外側だけはつまらない。

私は、かわいくないし、きれいでもない、競争すると負ける、そこから生きるすべを見つけた。吉永小百合さんから「樹木さんと鳥越さんは(がんなのに元気で)おかしいと思う」と言われました。

この映画の登場人物は、リアルに問題を抱えている、がそれが特に大変とは思わない。自分のこととして、体を通過して、人に伝えていきたいと思います。