韓国で860万人以上を動員、沖縄国際映画祭では、全国から選ばれたファン審査員と観客からの投票によって選ばれる【Peace部門】海人賞グランプリを受賞した『怪しい彼女』(7/11(金)公開)。
先日発表された韓国の映画・演劇・テレビ対象の<百想芸術大賞>では、“70歳の女の子”を演じた主演シム・ウンギョンが、並み居るトップ女優をさしおいて19歳の若さで主演女優賞を獲得! 

日本でも、一足先にご覧になった関根勤さんや今田耕司さん、堀ちえみさん、鈴木おさむさんなど多くの芸能人からも続々と絶賛のコメントが届き、この夏 “あやかの”ブームが巻き起こるに違いない中、この度、ファン・ドンヒョク監督が来日!

ドキュメンタリー映画界をけん引する松江哲明監督とともに、日本の未来を担うクリエイターの卵・バンタンデザイン研究所の学生を前に、トークイベントを実施しました!

<『怪しい彼女』 ファン・ドンヒョク監督×松江哲明監督 トークイベント>
日程 :6月4日(水) 会場 :バンタンデザイン研究所 東京校
トークゲスト: ファン・ドンヒョク監督、松江哲明監督  MC:松崎まこと氏

この日は、バンタンデザイン研究所で映画などを学ぶ学生対象にした特別講義イベントということで、メディア取材と異なり、大勢の学生を前にちょっとはにかんだ表情で登場したファン・ドンヒョク監督。上映後の熱気冷めやらぬ中イベントがスタート。

MC:まず前作『トガニ 幼き瞳の告発』のあと、今回180度違ったこういった作品になった意図をお聞かせください。

ファン・ドンヒョク監督:前作『トガニ 幼き瞳の告発』が重いテーマだったこともあり、シナリオ段階から苦労し、食欲も失せ、ストレスで不眠症にもなって5キロもやせてしまった。大きな反響もあったけれど、このような作品を撮り続けていたら、長生きできそうにないな(笑)、と思い、今度はもっと明るく、観客の皆さんにも楽しんでいただける作品を撮りたいと思いました。

松江監督:一足先に『怪しい彼女』を試写でみさせてもらったのですが、とても気持ちがよく、笑顔になる映画でした。とにかくキャスティングが素晴らしかった。主演のシム・ウンギョンは外見は二十歳なのにどう見てもおばあさんにしかみえないし(笑)!

ファン・ドンヒョク監督:当初シム・ウンギョンはキャスティングリストになかったのです。初稿のキャラクターも20歳になったら、ロングヘアの8頭身の美女だった!でも、それでは面白くないと思って、可愛くはつらつとしていて、しかも少し猟奇的で不思議なキャラクターに変更し、シム・ウンギョンをイメージしながらシナリオを書き換えていきました。

MC:ウンギョンさん以外のキャスティングは今となっては想像つかないですが、もし断っていたら本作は成立しなかった?

ファン・ドンヒョク監督:実は、最初僕がウンギョンを候補にしたとき、周りからは反対されました。『サニー 永遠の仲間たち』で人気を博したとはいえ、まだ知名度も足りないし、主演をやるにはどうかと。でも彼女なくしてはと説得し、そして完成した映画を見た皆が、ウンギョンが素晴らしい!と言ってくれて僕も嬉しかったですね。

松江監督:あと、ファン・ドンヒョク監督は、作品の中での時間の描き方が素晴らしいと思いました。『トガニ』もそうですが、『怪しい彼女』は、現代の時間軸の中で、70歳のおばあさんの時間が、それを体現するシム・ウンギョンの演技で描き出され、映画自体のテーマとリンクしているように思いました。

ファン・ドンヒョク監督:映画を撮る段階で時間というものを意識して作ったということではないのですが、元々時間というものを遊んでみるのが好きですね。それに少なくとも映画をみている2時間は、現実から離れ、実際にはないようなことを感じて楽しみたい、というものだと思うので、この作品では時間を使ったファンタジーで楽しいものを作りたいという気持ちがありました。

MC:この映画はファンタジーでありながら、老人問題、そして母親への感謝という面もみてとれますね。

ファン・ドンヒョク監督:この映画を撮ろうと思った一番の要因は、母や祖母への感謝の思いを伝えられると思ったから。どんな人にも親がいて、愛情と献身と自己犠牲を払ってでも子供を育てている。私は父を早くに亡くしているので、女手一つで育ててくれた母の苦労を目の当たりにしてきた。ある意味この映画は僕自身の映画でもありますね。そしてこのような気持ちはきっと皆さんにも共通する思いなのではないかなとも思っています。

ここで、会場からの質疑応答へ。「日本で撮るとしたら?」という質問には「日本のアニメが好きなので宮崎駿監督は全て観ています。また岩井俊二も好きです。どの国の人どの社会に住んでいる人にも共感を得る映画を撮りたいと思っているけど、日本で撮るならきれいな女優さんを起用したいね(笑)」と答え、さらに映画にちなんで「20歳に戻るころができたら何をしたい?」という質問には、「僕は当時学生運動に力をいれていたので、好きな子に告白とかもしなかった、戻ったら彼女に告白するとか合コンするとか恋愛をしたいです(笑)」と学生から次々挙がる質問にユーモアも交えながら答えるファン・ドンヒョク監督。

MC:最後に、今後映画を撮るために、今何をすべきか、是非学生の皆さんへアドバイスをお願いします。

ファン・ドンヒョク監督:私自身、映画監督になるために何をどうすればいいのかわからなかった。ただ作り手にとっては、いろんなことを経験すること、恋愛、旅、趣味とか、感情の幅を広げ、経験値を増やすことがとても大事だと思います。

松江監督:ハタチのころから続けてきて、今よかったなと思うことは一本でも多く、寝る間を惜しんででも映画を多く観ること。映画は、国や文化を越えた共通言語、映画を観るのは生き方にもつながっていくと思います。

と、ファン・ドンヒョク監督、松江監督から、ともに学生への温かいエールや示唆に富んだアドバイス満載の有意義なトークイベントとなりました。