5/30、十三・第七藝術劇場にて【マカオ映画祭 in Osaka】のオープニングセレモニーが行われ、9名のゲストが登壇した。

マカオ国内では2009年から【マカオ国際映画祭】が行われているが、【マカオ映画祭 in Osaka】は海外で開催される世界初のマカオ映画の祭典となる。
映画産業がないマカオでは、インディペンデント映画の製作が中心に行われており、デジタル機材の普及で映像作家も増えてきた。【マカオ映画祭 in Osaka】のラインナップは約10年間に製作された短編・長編作品の中から選ばれたドキュメンタリーを含む計7本。大阪を拠点に映画製作を行っているリム・カーワイさん(『恋するミナミ』監督)と、かねてからアジア各国のインディペンデント映画や映画制作者の紹介を精力的に行ってきたプラネット・プラス・ワン 代表・富岡邦彦さんが、香港のインディペンデント映画制作・配給を手掛ける【影意志(イム・イー・チー)】のマカオ支部と連携することにより映画祭が実現した。

オープニングセレモニーのサプライズ
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オープニング上映の『花の咲かない果実』 ヴィンセント・チュイ監督は、【影意志】の創立者の1人であり、香港インディペンデント映画の中心的存在。
「私の映画を大阪の皆さんに見ていただけることを嬉しく思います」とにこやかに挨拶。

各ゲストの挨拶の後は、ゲストが持ち寄ったお土産のプレゼントというサプライズがあり、当選者に手渡しされた。

●ヴィンセント・チュイ監督のお土産は可愛らしいデザインの缶詰。
「ご存知のようにマカオは元々ポルトガルの植民地だったんですけど、ポルトガルのお魚の缶詰でございます」

●『花の咲かない果実』 のプロデューサー、チョイ・カーイさんはビールを持参。
「スーパーボックという私が一番好きなポルトガルのビールです。とっても美味しいのでどうぞ楽しんでください」

●『花の咲かない果実』に主演した女優のジェニー・リーさん。お土産は1年に1ヶ月だけ咲くと花で作ったという手製のピクルス。
「甘酸っぱいピクルスにしてあります。私が自分で植えて自分で作りました」

●『花の咲かない果実』 のもう1人の主演女優エリーズ・ラオさんが選んだのは、マカオらしい雰囲気が味わえる“アズレージョ”というポルトガルタイルで出来た標識をモチーフにしたグッズ。
「マカオは中国的な雰囲気と西洋的な雰囲気が一緒になっている街。マカオの街にある道路名の標識で、鉛筆を入れられるようなポーチになっております」

●『ビフォー・ドーン・クラック』ヴィンセント・ホイ監督も“アズレージョ”のポーチをチョイス。
「コロアン島の“美女巷”というマカオの一番奥の方にある小道の名前で“美女の小道”という意味。綺麗な小さい通りなのでこの名前がつきました」

●『出稼ぎの女たち』セシリア・ホー監督はインドネシアの海老煎餅を抱えて登場。
「マカオの60万人の人口のうちの1/5は海外からの就労者です。マカオはマカオ人だけではなく色々な国籍の人もいると言うことを知って頂きたいと思いお持ちしました」

●傑作短編集『箪笥の中の女』トレイシー・チョイ監督は、マカオのお土産として有名なアーモンドクッキーを持参。
「マカオにはアーモンドクッキーばかり売っているストリートがあって、そのうちの一軒のものです」

●傑作短編集の『最後の幸福』イウ・ロウヤン監督はマカオのお菓子の中で自身のお気に入りをチョイス。
「私がお腹が空いたらいつも食べているカシューナッツのクッキーです」

●傑作短編集の『城の外』ウォレス・チャン監督は、微笑ましいお土産を持参。
「僕のガールフレンドがマカオで工芸職人をしているんですが、彼女が作ったネックレスをマカオの特産品としてお持ちしました」

アットホームな雰囲気を残しつつ、オープニングセレモニーが終了した。

『花の咲かない果実』 アフタートーク
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初めて中国圏外で公開されたという『花の咲かない果実』 のアフタートークには、監督のヴィンセント・チュイさん、主演のジェニー・リーさん、エリーズ・ラオさん、美術監督を務めたイウ・ロウヤンさん(傑作短編集『最後の幸福』監督)の4人が登壇。

脚本は、アン・ホイ監督『生きていく日々』の脚本ロイ・シウワーさんが務めた。
「読んでいい脚本だなと思った」というヴィンセント監督。
ストーリーは、大都市に住む女性・カーが1人娘を亡くしその場所から離れようとする。
「それが何処かは書かれていなかったので、元々いた大都市を香港、移っていく先を違う文化を持つ中規模の都市であるマカオに設定しました。私は香港に住んでいて、マカオとの往来が多くよく知っていたんです」

娘を亡くした喪失感を夫と共有できないままマカオに移るカーを演じたジェニー・リーさん。普段は香港の舞台で活躍している。

「映画は今回で3回目の出演です。1つ目はアン・ホイ監督の『夜と霧』に少し出ております」
『夜と霧』は2009年の【第22回東京国際映画祭 アジアの風部門】で上映されたDVを正面から扱った作品。
「バングラデシュとの合作映画にも少し出たので今回3作目です」

チュイ監督の作品に出演しての感想については、
「いい監督だと思います」と笑顔を見せた。

父親の不倫相手への反発から家を出て1人で暮らすマン役を演じたエリーズ•ラオさん。カーとマンの出会いが2人の人生に思わぬ転機をもたらす。
ラオさんは、マカオ傑作短編集の『最後の幸福』にも主役として出演している。
リムさんは
「表現力のある女優さんなので、これから香港でもマカオでも活躍すると思う」と紹介。

「マカオの俳優はフリーランスの人間が多くて、私自身も映画に出ながら裏方も務めてきました。今回『花の咲かない果実』は初めての長編映画になります。出演出来て非常に嬉しかったし、やりがいもありながらも難しいなと感じていました」

続いて、助監督で美術も担当したイウ・ロウヤンさんがマイクを取った。
大学の講師をしていたチュイ監督は、ロウヤンさんたちが卒業する時に『花の咲かない果実』の制作に入り、商業映画のスタッフではなく、主に卒業したばかりの学生をスタッフとして迎えた。

「長編映画を撮るチャンスを学生に与えて下さったおかげで、色々なことが学べました。映画に参加した学生たちはそのまま色々映画を作る方向に進んでいる人たちが多いです」
と笑顔で感謝を述べた。

■マカオの風景の魅力
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ジョニー・トー監督の『エグザイル/絆』『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』で、石畳や西洋風エッセンスの建物が印象深い佇まいを見せていたマカオの風景。
1999年の中国返還までポルトガルの統治下だったマカオは、中国文化とポルトガルの西洋文化が溶け合った街並みが形成され、独特な魅力を持っている。
2005年に「マカオ歴史市街地区」とされる歴史的な建物22と広場など8つの地域がユネスコ世界文化遺産に認定されたことで、世田谷区の約半分と言われる小さな半島に更に多くの観光客が訪れるようになっている。

観客からは“広角レンズを多用して、街の風景や部屋をフィーチャーした訳”について質問が挙がった。

チュイ監督は街や部屋の撮影に拘ったことを認め、あまり街がきれいでない香港に比べてマカオが魅力的だったと語る。
「大阪の街を歩くと魅力的でびっくりしました。マカオも色々なところが映画に適していてロケーションが探しやすい街」

「映画の中で場所、人も重要ですが、そこにさらに風景の重要さも表して行きたいと思っています。助監督のナンシー(ロウヤンさん)がいい風景を探して来てくれたので感謝しております」

「カメラマンのリウ・アイグオさんは中国大陸から呼んで来ました。彼に対する感謝も述べておきたい。彼は元々ドキュメンタリーのカメラマン。資金がなく、最小限の機材で対応してもらう可能性があるので、例えばライト1つで撮ってしまえるスキルを持つプロの力を借りることが必要だったのです」

■料理のシーンに込められたもの
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また食事のシーンが多いことについて、“中国の人は食事をすることに対して幸福に感じるからか”という質問も。

キッチンでの料理の様子、食卓、カフェ、料理店が家族や夫婦、友人、恋人たちの様々な感情が交錯する場として登場する。
「映画を撮ったあとで道具係の方が、干し魚や卵焼きなどを上手に作れるようになりました(笑)」と、観客を笑わせたチュイ監督。

「一番大きかった要素は脚本。ロイ・シウワーさんが脚本を手掛けたアン・ホイ監督『生きていく日々』は生活感があります。『花の咲かない果実』の前に彼女の脚本で短編映画を撮ったので、彼女の脚本の書き方を理解していました。今回は料理を作るシーンが細かく書かれています。例えば卵を何分焼く。魚を蒸して蓋を開けたら湯気がいっぱい立っている、というように。重要なシーンになるということで、そのまま作りました。映画の中で重要なのは“過程”なんです」
とそのこだわりを語った。

舞台挨拶後、サイン会が行われ、観客とのコミュニケーションを笑顔で楽しんだゲスト達。5/31からは中崎町のプラネットプラスワンに会場を移し、6/6まで上映が行われる。これから成熟して行くであろうマカオ・インディペンデント映画シーンに注目して、ノスタルジックな風景の魅力だけはなく、マカオに住む人々の生活、価値観の多様さをぜひ楽しんでいただきたい。

(Report:デューイ松田)