5月29日、スペースFS汐留にて映画『her/世界でひとつの彼女』のトークイベントが行われた。会場にはスパイク・ジョーンズ監督と、シークレットゲストとしてスタジオジブリで有名の鈴木敏夫プロデューサーが来場し観客を沸かせた。互いにファンであるというふたりは、和やかなムードでイベントのスタートを切った。

鈴木の「この映画は素晴らしい。ふつうの人間がコンピューターに恋をすること出来るのかと疑いながら観たが、ちゃんと成立していて感動した。彼の映画はいつも一貫して主人公が決してヒーローじゃない。それを観ていると快感だし共感する。十数年で長編映画4本なのでもっといっぱい作ってくださいよ、もっと観たいです。」と完全に彼の映画の虜になっていることが分かるコメントに対し、スパイク監督はまず「作業がゆっくりだから4本しか撮れていないのです。でもそれは鈴木さん自身もよく分かってらっしゃいますよね」と微笑みながら返した。鈴木によると映画『風立ちぬ』は5年ほどかかったそうだ。

 スパイク監督は鈴木の共感を喜び「ジブリ作品もそうであるが、キャラクターにとって起こることがリアルでなければいけないと思う。そのためにはまず私たち作り手がキャラクターに思いやりを持って創らなければならない。我々は自らが夢想することを映像化しているが、いかに観客にリアルに伝えられるかというところがチャレンジだし楽しいことである。」と言った。 鈴木が「どうして主人公をああいったキャラクターにするのか、そこを一番質問したい」と再度尋ねると、スパイク監督は「もしかしたら自分自身が一番そういったキャラクターに共感するからかもしれない。自分もいろいろと模索しながら生きていて、人生がどんどんと変わっていく中で悩んだりもするわけで、自分もそうだからなのではないかと思う。」と答えた。 
鈴木は「社会から置き去りにされている人が大きな出来事に出会い、そのひとの世界が変わるのが好きだ」と伝えた。 スパイク監督は「映画『千と千尋の神隠し』の普通の女の子が異世界に紛れ込み、いつもにはない力を発揮しなければならなくなるところとも似ている気がするのだが、いかがでしょう」と鈴木に尋ね、鈴木本人も「確かにそうかも。でも、監督の作品の爆発のさせ方は一種の狂喜がある。あれが面白い」とコメントした。 スパイク監督は「どこまでやれるかが面白く、脚本を書くときも興奮するほどだ。やりすぎで飛躍しているようだとしても、キャラクターにとってリアルになればいい。」と熱弁した。

 鈴木が次に目をつけたところは、ロボットの声に関してだ。「キャスティングは自分でしているのですか?」と鈴木が尋ねると、スパイク監督は「女優さん25人もオーデションをした。声だけで演技をしなければならないのでキャスティングは非常に難しかった。今回は視覚的表現が一切ない中で、全て声を通して演じなければならないという大きなチャレンジだったので、自分が脚本を書いているときに想像していた知性とか深いエモーションを持ったのが彼女だった。4,5ヶ月レコーディングを重ね、そのたびにより掘り下げてここに辿り着きたいというところまで辿り着けたのは彼女のおかげだ。彼女にしか出来なかったと思う」と答えた。

 鈴木の着眼点は監督のこだわりそのものを指しているようだった。鈴木は「僕自身がコンピューターに恋できることをこの映画で体験できた。鼻にかかった声が最初は気になるが、気づけば虜になった。」と言いスカーレット・ヨハンソンを絶賛した。

 最後にスパイク監督は「今日は来てくださってありがとうございます、鈴木さん。こんなところに来ていて大丈夫ですか?」と笑いながら公開作品を控えている鈴木のことを気にかけたコメントをし、最後まで制作者のふたりだからこそ織り成せるトークを繰り広げ会場を後にした。

(Report:浜野真里)