映画『捨てがたき人々』榊英雄監督、故郷・五島列島での撮影秘話を語る 映画の京子を愛してほしい
6 月 7 日よりテアトル新宿ほか全国順次公開となります映画『捨てがたき人々』のプレミア試写を実施致しました。
その上映前に、榊英雄監督のトークおよび本作の音楽を担当しているシンガーソングライターの榊いずみさんによる主題歌「蜘蛛の糸」の生ライブを行いました。
【イベント概要】『捨てがたき人々』プレミア試写 トーク&生ライブイベント
【日時】5月20日(火) 18:30〜イベント
【場所】スペース FS 汐留
【登壇者】榊英雄監督・榊いずみ・佐藤ワタル(ギタリスト)/MC 襟川クロ
最初に榊監督と MC の襟川クロさんによる対談トークがあり、続いて榊いずみさんによる主題歌「蜘蛛の糸」生演奏がありました。
榊監督:原作「捨てがたき人々」の設定が名もなき漁師町でしたので、これは僕自身のひとつの通過儀礼として、生まれ故郷の五島列島でやりたい、と(脚本の)秋山命と相談しました。
懸命なプロデューサーなら、予算の都合などで「どこでもいいじゃないか」と恐らく言うわけです。
なぜ五島列島か、と問われても、「それは、そこに五島があるからだ」と言ってましたね(笑)。
襟川クロさん:自分の古巣だったら匂いとかあるでしょうから、逆にロケがとてもスムーズだったのではないですか?
榊監督:はい。でもそれは、死んだ父の財産だったんです。ロケ交渉に行くと大抵、よそもんが来ると警戒するわけです。
制作担当が、「主人公が住む家をその家で絶対撮影したいと、監督おっしゃいましたが、あそこは頑固なおばあちゃんがいらっしゃいまして、どうしてもウンと言わないんですよ」と。そこで、五島弁で話しかけ「僕は床屋の息子ですよ」と伝えたとたん、「よかよか、貸す貸す」とすんなり OK を貰えました。
いろんなロケセットの物件は、亡くなった父の縁故だと思ってください(笑)。
亡くなった父とは距離があった時期があったのですが、結果的に父が生きていた証を、今回、ロケハンの最中に感じたわけです。
僕自身、生まれてどこで死ぬかという心構えが今回この撮影で初めて出来ました。このジョージ先生の作品を通じて、腹が据わったというか・・・。僕は俳優の仕事もしており、ここでは死ぬことはないでしょうね。
ただ、ここまで自分のなかに故郷愛があるとは思わなかったです。
襟川クロさん:ヒロインの三輪さんは、原作の京子とちょっと違いますね。
榊監督:原作を読んだ方は、「京子はこんなじゃない」とおっしゃいますが、映画は映画の京子をぜひ愛してくれたら嬉しいです。本当に大変な撮影だったんです。
襟川クロさん:この作品、いろんな年齢によって自分を置き換えるキャラクターがいますよね
榊監督:いろんな意味での人間模様があります。実は、取材してくださった記者の方がおっしゃっていたのですが、それぞれの人間関係がみんな、ちょっとずれながら動いている。勇介は性欲を中心に生きている男、京子のほうは、ある想いをもっての宗教観があり、他人に接することによって自分が成長する。男としては「やりたい」、女としては「何か使命感をもって愛する」。人間ってバラバラであり、ずれながら動くそんな歪な人間関係も実は大事ですよね、と。そう記者の方がいってくれた時に、目からうろこでした。
襟川クロさん:人生って答えなんてないでしょ?
榊監督:この映画は、もちろん皆さんがご覧になってどう思うかですが、僕なりに答えを出したつもりではいます。
例えば、ざらついた、どんよりした気持ちになるかもしれないし、それぞれの皮膚感覚で引っかかって観て頂けたら嬉しいですね。
映画をご覧いただいたあと、まっすぐに帰る道のところを一杯だけ酒飲みたいなと思ったっていいですしね。
日常生活に変化があらわれるような映画だということは間違いないと思っています。
襟川クロさん:お話しが尽きませんね(笑)。本当に撮影秘話がいっぱいあって面白いです。最後にもうひとつ、この映画には絡みが多くありますよね。その部分では、エネルギーをいっぱい使ったのではないですか?
榊監督:僕自身、上半身裸になり、キャスト二人に「こういう風なセックスをしてほしいんです!」と男性スタッフを三輪さん見立て、自分は大森さん役となって絡みの動きをみせて、自分なりに解釈して頂いた。長まわしで撮っているので、もう汗だくだくになるんです。僕も粘って何回も何回も撮るほうなので、二人が消耗していくことに罪悪感がありましたが(苦笑)、男と女のまぐあいを段取りやお芝居として撮るのではなく、出来る限り生っぽく撮りたかったのです。限界はありますが、大森さんと三輪さんがとことん付き合って下さいました。
襟川クロさん:他の映画で美しいセックスシーンはいろいろとありますが、人間どうしがまぐあうってこういうことなんだな、と思いました。
榊監督:原点は、元気に飯をくって、寝て、セックスして、欲望があるということを認めたうえで、日々生きていくことが大事かなということ、それが原作に共感した部分ですし、それに忠実に生きることが大事なのかなと思いました。
襟川クロさん:40 代のまだ若い監督でいらっしゃいますが、もっとベテランの海千山千で体験してきた監督が手がけた作品かなと思ってしまうような太さ、濃さを感じる作品で、監督や大森さんと重ねて観て頂くと面白いかもですね。
榊監督:ありがとうございます。
そして、本作の音楽を担当し、監督ご自身の妻でもある榊いずみさんとギタリストの佐藤ワタルさんにより、主題歌「蜘蛛の糸」の生歌、生演奏を披露。会場が大いに沸きました。
最後に榊監督より、「渾身こめて作った作品です。僕自身の地元で、自分自身を振り返って撮りあげた作品なので、自分にとっても大きな作品になったかなと思っています。人は、改めて弱くて儚いもんだなと分かったうえで、残り人生を頑張ろうか…という自分へのメッセージにもなった映画です。ぜひご覧ください。」と語りました。
本作は、6 月 7 日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次ロードショーです。