こだわりの35mmフィルム撮影で俳優陣は景色NGに困惑!? 映画『祖谷物語—おくのひと—』蔦哲一朗監督、武田梨奈さん、大西信満さん、ナナゲイにて関西公開初日舞台挨拶
5/17、十三・第七藝術劇場にて『祖谷物語—おくのひと—』関西公開がスタートした。上映後に“お爺”のコスプレ姿の蔦哲一朗監督、大西信満さん、武田梨奈さんが登壇し、満員の劇場は笑いに包まれた。
大西信満さんは、
「東京公開の初日は劇場にお客さんが半分も入らなかったんですが、一説によると梨奈ちゃんがテレビで瓦を割る度にお客さんが増えて行きました」
と、武田梨奈さんの話題となったセゾンカードのCM“ドレッシーな姿で登場して頭突きで瓦を割る美少女”効果に言及。笑いで劇場はさらに和やかなムードに。
■日本最後の秘境
徳島県・祖谷(いや)の
四季を収めた35mmフィルム撮影
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多くの劇場作品がデジタルカメラで撮られるようになった中、35mmフィルムで撮影され、2時間49分という大作となった。
「秘境の自然の雪景色がフィルムでないと表現出来ないものとして写っている」と司会を務めた第七藝術劇場の松村支配人。『祖谷物語—おくのひと—』は、日本最後の秘境と言われる徳島県・祖谷(いや)にて1年間かけて四季を追った。デジタル制作に比べて制作費、作業にかかる手間や時間が全く違うフィルムに敢えて挑戦したことについて蔦哲一朗監督は、
「無知、無謀だったというのが一番大きいと思います。東京工藝大学でフィルムを学んで、今回のカメラマンも当時の同級生。フィルムへの愛着もあるし、映画を撮るという行為を特別なものにしたかったんです」
「地元で映画を撮りたい、恩返しをしたいという思いと、徳島の祖谷の自然の美しさを撮るのに、デジタルのバキバキとした味のない映像になってしまうと映画として面白味がないかと思って35ミリのフィルムにしました」
■アクションを封印した武田梨奈さん
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武田梨奈さんは、空手家ならではのアクションの魅力を発揮した主演作『ハイキック・ガール』(09)から、最近では井口昇監督の『デッド寿司』(13)『ヌイグルマーZ』(14)、金子修介監督の『少女は異世界で戦った』(14年公開予定)などアクション系の作品で着実にキャリアを積んでいるが、今回はアクションを封印して祖谷でお爺と共に静かに暮らす女子高生・春菜の役に挑戦した。
「山小屋まで毎日2時間登山するんですけど、スタッフは重たいカメラを担いでですから大変だったと思います」
「ケガ人が多かったし事故も結構ありました。誰かいなくなるんじゃないかと心配してました」とスタッフの苦労を真っ先に語った武田さん。自身の演技については、
「アクションのない芝居は新鮮でした。祖谷で1年通して撮影して、あの場所だから演技が出来たと思うし、イキイキさせていただきました」
■大西信満さん、過酷な撮影を振り返る
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『赤目四十八瀧心中未遂』(03)でデビュー、前作の『さよなら渓谷』(13)や本作の陰のある役柄の印象とは一転、壇上でユーモア溢れる率直なトークを披露した大西信満さん。
「スタッフが入れ替わったり、中心的な役割を果たしている人がいなくなったり。スタッフに聞くとみんな黙ってしまったり(笑)。俳優陣も口にこそ出さないが感じていて、色々な思いに包まれながらの一年間でした」と、過酷な撮影の様子を振り返った。
「自分が演じたのは等身大の都会で生まれ育った人間。田中さんや武田さんは現地人の役なので、その違いをいかに生っぽく出すかを考えました」
■蔦哲一朗監督の演出術
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蔦監督は自身の演出について、
「全くしないですね」
武田さんも大西さんも撮影時の困惑を監督にぶつける。
「“カット!”って言われて“どこがダメなんですか?”って聞くと、“イヤ、風景が”みたいな(笑)」と。
蔦監督は「いい意味で役者の皆さんを信頼し切っているんです。僕は“背景の煙が上がっているか”とかの方が信頼出来ないんで(笑)」と、俳優陣への信頼と景色へのこだわりを語った。
大西さんは「田中泯さんのバックで木の葉が舞うシーンはスタッフが用意したのではなく、“よーい、スタート!”で突風が起こって。木に付いている落ち葉が飛んで来たんです。田中泯さんと祖谷の土地が共鳴した瞬間ですね」
と、目の前で目撃した神秘的な光景の驚きを振り返った。
■お爺役は田中泯さんしかいなかった!
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お爺役は「日本中探しても田中泯さんしか考えられなかった」という蔦監督。田中泯さんはダンサーとして長年活動し、山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』(02)にて映画初出演。それ以来数々の作品に出演してきた。
「泯さんは山梨で自給自足の生活を送りながらダンサー、役者をされています。本来なら実績のない僕の映画に出てもらえる方ではないんですが、祖谷で35ミリの作品を撮るという熱意に共感して出演してくださったんです」
田中泯さんとの共演について武田さんは、最初台本を見た時にお爺が一言も喋らず、春菜だけが喋っていることに違和感があったと言う。
「現場に行ってみると背中で台詞が返って来るような。泯さんの力あっての春菜を演じられました」
自分の出番がない時は泯さんの芝居を見学していたという大西さん。
「クランクアップの時に溜めていた質問や思いを話したら、丁寧に色々教えてくださいました。それが財産になっています」
■画面作りのこだわりと祖父・池田高校野球部の蔦文也監督
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松村支配人から「自主制作映画と言っても一般の学生か撮るものと風格が違う。車が崖に落ちているシーンは驚きました」と、実際に落ちた車があってそれを撮影したのか、セットを組んだのかという質問が挙がった。
蔦監督は「美術も自分たちで地元の土建の方にお願いしてクレーン降ろしてもらったんです。撮っている時は自主映画と意識しているわけではなく、撮りたいビジョンをどうやって実現していくかだったんですが、地元の方々がバックアップしてくれたので実現出来ました」
「祖父の七光りで撮れたような映画」と語る蔦監督。
蔦監督の祖父は、池田高校野球部の蔦文也監督。強力な打力を誇る“山びこ打線”で甲子園で3度の優勝と2度の準優勝を果たした池田高校野球部を92年までの約40年間牽引した名将だ。
「最初の資金集めの時から企画を市長さんに持ち込むとすぐ見て頂けたし、地元の方々に制作実行委員会を立ち上げて頂いたり、寄付してくださったので35mmの無謀な挑戦でしたが完成出来たと思います」
第七藝術劇場にも、突然「池田高校の蔦文也監督の孫です!」と上映の相談に訪れたという蔦監督の様子をからかうように紹介した松村支配人は「それは会ってみよかとなりました。こういうのは上手に利用すべき。七光りでなく才能もあると思う」と作品に賛辞を贈った。
次回作は祖父である蔦文也監督のドキュメンタリーを甲子園の時期である夏完成予定としている。こちらも続報にご期待を。
■息の長い作品になるように
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通常舞台挨拶は取材者以外の写真撮影は禁止となるが、『祖谷物語—おくのひと—』舞台挨拶では撮影大歓迎となった。
蔦監督は「ぜひyahooレビューやブログで感想を上げて頂けたら」
今年は7本の作品の出演を予定している武田さんは、「写真も撮って頂いて、皆さんの力で『祖谷物語』を宣伝してください!」と笑顔でアピール。
大西さんは、「プロの宣伝部配給部がついた作品ではないので、見て頂いた方の口コミでしか広がらない作品。息の長い作品として順次公開出来るよう応援して頂けたら幸いです」と応援を呼びかけた。
蔦監督が「ついに自然を演出してしまったような(笑)」と語り、大西信満さんを驚嘆させた田中泯さんの姿に突風で落ち葉が舞い飛ぶ神秘的なシーンにも注目して、35mmフィルムに収められた秘境・祖谷の四季の美しさ、厳しさ、懐の深さを生活の温度と共にぜひ劇場で体感していただきたい。
(Report:デューイ松田)