本日3日(土)夕に、東京国際フォーラムにて、映画『アルゲリッチ 私こそ、音楽!』 の監督と、小澤征爾氏の実弟である小澤幹雄さんのトークイベントを行いました。

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2014では、大人気の天才ピアニストマルタ・アルゲリッチが、東日本での演奏は6年ぶりの演奏で登場します。
それを記念して、ラ・フォル・ジュルネの公式プログラムとして、今秋に公開を控えているドキュメンタリー、『アルゲリッチ 私こそ、音楽!』のプレミア上映会が開催されました。

マルタ・アルゲリッチの実娘である監督のステファニー・アルゲリッチが緊急来日。
ステファニー監督と、小澤幹雄さんは、”偉大なる音楽家の家族”としての 共通点をお持ちです。
舞台上では、天才の知られざる素顔が赤裸々に語られ、お客様を巻き込んでの、”熱狂の”トークイベントとなりました。

ステファニーさん(以降S):
日本は私にとって特別な国です。小さいころから母に連れられてきていましたから。
母曰く、私が初めて歩いたのは、日本だそうです。

小澤幹雄さん(以降O):
マルタ・アルゲリッチさんはよく征爾とピアノコンチェルトをやっていたけれど、赤ちゃんを連れてきたことがありましたね。あれがステファニーさんだったのかな。
肩が痛いなんて言っていて、征爾と僕は「赤ちゃんを抱いてきたからじゃないか」なんて話していましたよ。

S:当時の写真を度々見るんです。日本でいつも写真を撮ってくれた母の友人が、今この会場にもきてくれています。

O:どうして映画を作ろうと思ったの?

S:撮ろうと大きな決断をしたというより、今やらなくてはという衝動にかられたんです。
11歳くらいから家にあったカメラで母を撮ってきました。自由に撮ってきた時期を経て、今映画にしたい気持ちにつながったという感じです。
映画は、自分が母親になったことが大きなきっかけです。
その時、老いていく両親を見て、今やらなくてはという緊急性を感じました、
娘として母を見ていたときは批判的な視点もありましたけれど、母としてマルタを見たときにはその批判が軽減しました。

O:さきほどからステファニーさんの横顔を見ていたのですが、若いころのお母さんにそっくりですね!!
新日フィルで征爾がアルゲリッチさんと演奏をするというときに、征爾が、「アルゲリッチさんがすごくいいから、聴きにこい」というので行ったんですよ。
その頃、練習場は成城学園のおんぼろ校舎だったんだけど、アルゲリッチさんが弾いたら、そのぼろいピアノがすごい音を響かせたんです。すごかった!

O:ステファニーさんは写真家でもあるけれど、映画監督としても才能があると感じました。

S:この映画は初めてのドキュメンタリーではなくて、この前に何本か撮ったんですよ。
パーソナルなものではなく他のミュージシャンのポートレイトなのですけれど。

ちなみに、私は幼いころにお会いした征爾さんを覚えてますよ(笑)

O:征爾はマルタ・アルゲリッチさんと沢山共演していて、ベルリンフィルの定期や新日フィルの定期、あと、有難いことに還暦コンサートの為だけに来日してくれたこともありました。

ファンがこの映画を見たら、びっくりするんじゃないかな。
だって、あのアルゲリッチさんが、ノーメイクで髪はボサボサで出てくるんですよ。

S:この映画は、私の視点、私が母をどうみるかを撮ったものです。
音楽ファンがマルタ・アルゲリッチの軌跡を見たいと望むなら、がっかりするかも。
パジャマを着たアルゲリッチを見たくないかもしれませんね(笑)。
ピアニストの母、母親としてのマルタを、フィルターにかけずに映したいと思ったんです。
母自身、フィルターの無い人なので。

O:でもそんなアルゲリッチをみて、親しみを感じるのではないですか?
映画を見たお母さんはどんな反応だったのですか?

S:母がこの作品を見たとき、画面の中にいる自分に違和感を感じたそうです。
「私がイメージしている私じゃないわ」とか「私、いい加減なこと言ってるわねえ」、「自分でも理解できないわ」なんて言っていました。

完成に近いかたちで両親に見てもらったんですけど、修正を要求することは一度もありませんでした。二人とも寛容でしたね。
いつも、演奏で真実を表現しようとしている二人だからこそ、私の意図を組んでくれたんだと思います。
一点だけ母が、パジャマ姿の自分をみたとき、「赤いパジャマにすればよかったわ」といいましたけど。

O:身内だからこそ撮れたアルゲリッチさんの姿で、身内だからこそですね。

では、時間も迫ってきましたが、皆さまからステファニー監督への質問を受け付けたいと思います。

S:私は(映画で)出産シーンまでみせたのですから、皆さんも遠慮なく質問して。

O:マルタ・アルゲリッチさんは今夜、演奏を控えています。なんとか、この会場にも連れてこようとしたのですけれど、「お腹が痛い」とかで(笑)。

一般の方からの質問:
アルゲリッチさんを描きながら、ステファニーさんが自分探しをしている映画に見えましたが、何か見つかりましたか?

S:何を探し当てたか、明確にはまだ分からないけれど、見つかっていると思います。
ドキュメンタリー映画は、何かを探し求めるプロセスを描くものだと考えています。
レスポンスが得られるとは限らない。そのプロセスを通しても、さらにミステリーが残ることもあります。